衝動と情熱だけで生きている

主に観劇の記録。

2年半ぶりの観劇@韓国~笑う男編

今回観た2作品目、笑う男です。

初演、再演とキャスト見たさに通い、コロナ禍中に日本版も履修したものの、何度見ても作品としてはストーリーのまとめ方に納得感がないなあと感じつつ、3パクを観ない選択肢はありませんでした。(今回観れたのは2パクのみですが)

3パク(左からヒョシン、ウンテ、ガンヒョン)

今回は客席3,000席を超える世宗文化会館大劇場での公演ですが、このキャストなら埋まるよねという人気キャスト揃い。特にパク・ヒョシン氏は初演振りの復活&久しぶりの舞台ということで、毎公演完売状態。ヒョ神様の人気は本当にすごい。

7/16(土)マチネ

ウィンプレン:パク・ガンヒョン
ウルシュス:ミン・ヨンギ
ジョシアナ:キム・スヒャン
デア:ユ・ソリ
デヴィット:チェ・ソンウォン
フェドロ:イ・サンジュン

私が最初にガンヒョンさんを観た作品でもあり、ガンヒョンさんを代表する出世作
初演のときは歌>演技って感じだったけど、回を重ねるごとに自由で伸び伸びした演技も板につき、私の中ではすっかりグウィンプレン=パク・ガンヒョンになっています。
デアにとっては茶目っ気があって優しいお兄ちゃん、ウルシュスにとってはいたずら坊主、外の世界に興味も野心もある若きグウィンプレン。ガンヒョンさんの性格をそっくりそのまま映したようなキャラクター。3演になる今回は、無邪気な若者が自分の使命を認識し、徐々に成長していく姿をとても自然に演じていて、世間に立ち向かうグウィンプレンを手に汗握りながら応援してしまいました。
そして決して圧が強いわけではないのに、どこまでも伸びていく弦楽器のような歌声。舞台を世宗に移して更に華やかさを増した気がします。笑う男って本当に難曲揃い*1だと思うんですが、声を張り上げることなく、良い意味で軽々と歌いこなすガンヒョンさん。
歌が上手いだけでなく、特に2幕での「世界を変える」での決意→「目を開いて」での涙ながらの訴え→「笑う男」での怒りの表現が、歌声と一体になって客席にバシバシ伝わってきて、うわあ、すっごい演技上手くなったな!!と感涙。(何様)
ライジングスターと言われていたけれど、もうすっかりミュージカル界を代表する俳優様ですね。来年またM!やるらしいので、ぜひ出演してください。今度こそ絶対観に行く。

そして、ヨンギパパです。ヨンギさんって、渋いおじさんやら高貴なおじさんやらコミカルなおじさんやら、おじさん役演じさせたら世界一の俳優さんだと思うんですが、役によって声色が全然違うんですよ。エリザのフランツでは気品を感じる低音だけど、M!のコロラド大司教のときは癖強めの変態ボイスだし、ウルシュスは荒々しさの中にも愛情を感じる職人気質の親方って感じの声(伝われ)。歌が上手い俳優さんは数あれど、こんなに役柄によって歌い方変えられる人はなかなかいないと思います。
ヨンギパパは歌声そのままに、直接の愛情表現はしないけど、常にグウィンプレンとデアを一番に思っている愛情深い父親。最後二人に置いて行かれるのが本当に可哀想で可哀想で、いつもこの作品を観ると、ウルシュスが可哀想という感想になってしまう。
それだけに、カテコ最後の仲良し3人家族が涙を誘うんですけどね。

デア役は初出演のユ・ソリさん。フランケンシュタインではアンサンブルをしていたという彼女は、オーディションでデア役を勝ち取った実力派。間違いないはずと思っていたけど、澄んだ歌声と可憐な見た目が役にぴったり。ミン・ギョンアさんを思わせる天使のようなソプラノで、純粋でひたむきなデアを演じていました。ガンヒョンお兄ちゃんとの「木に宿る天使」のハーモニーが本当に綺麗で、私の中のドロドロしたものが洗い流されていくようでした。

で、何といってもカテコで一番の歓声を浴びていたのは、ジョシアナ役のスヒャンさん。彼女も幅広い役柄を演じることができる俳優で、可愛らしい歌声の時も魅力的だけど、マタハリとかジョシアナとか、気位の高い強い役が一番ハマる気がする。「私の中の怪物」はショーストップ状態。私がみたスヒャンさんの役の中では、ジョシアナが一番好きです。

韓国版ならではの舞台上のバイオリニストの演出や、着ぐるみの玉乗り熊さんも健在。「涙は洗い流して」での川の演出や、天井いっぱいに吊り下げられたランタンなど、世宗の広い舞台を隅々まで使った演出に視覚的にも満足できました。

サーカス団のみなさん。熊さんすごい。

7/16(土)ソワレ

笑う男マチソワ。夜の部はこちら。

ウィンプレン:パク・ウンテ
ウルシュス:ヤン・ジュンモ
ジョシアナ:キム・スヒャン
デア:ユ・ソリ
デヴィット:チェ・ソンウォン
フェドロ:イ・サンジュン

ウィンプレンとウルシュス以外はマチネと同じキャスト。なのに。
全く違う作品を観たかのような衝撃とともに、しばし放心してしまったソワレ。

ウンテさん、あなたのせいですよ!!!

今回の渡韓の最大の目的で、楽しみと不安が裏腹だったウンテさんの笑う男。
だって、ウンテさんのグウィンプレンですよ?あんなに大人で包容力があって、色気の塊なウンテさんが、若さゆえの突っ走り感のあるグウィンプレンをどう演じるんだろう。
そう思いながら観始めたのですが、私の先入観のせいか、全くグウィンプレンにみえない。どうしよう。完全にケムル(©フランケンシュタイン)にしかみえない。髪型もメイクもケムルっぽいし、衣装もケムルコートそっくりなんだもん。フランケン4演をみれなかった怨念がこんなところで邪魔してくるとは。
そんな感じでひたすら脳内ケムルと戦いながら見ていた冒頭、明らかに他プレンとは異なるウンプレンの身のこなしに気づきます。しばらくは、その違和感に気づかなかったんですが、気づいたときにびっくりして声が出そうになった。
そう、ウンテさん、デアを完全に「目の見えない妹」として扱っているんです。いや、当たり前じゃんと思うかもしれませんが、当たり前ではありません。
以前、視覚障碍者の方の誘導についての講習を受けたことがあるのですが、ウンテさんのデアへの接し方が、完全にそのマニュアル通りだったんです。
誘導するときは歩く方向が伝わりやすいように肘を持ってもらう、段差があるところでは声で案内する、歩きながら街の様子を紹介する、等々。それらの行為をとても自然にこなしているウンプレン。
デアに自分の肘を持たせて、周囲を案内する様子で語りかけながら歩く姿。段差があるところでは、コンコンと手で段差を叩き、音で案内する様子。きっと昔から、そうやって支えあって生きてきたんだろうな、っていうこれまでの二人の歴史が伝わってくるようで、気づいた瞬間に涙が溢れてしまいました。さよならケムル。
しかも、とにかくジェントルが過ぎるんですよ。言葉にせずとも、デアやウルシュスやサーカス団の仲間たちへの愛が、歌声や目線から伝わってくる。あれ?笑う男って、こんな話だったっけ・・・?
ウンテさんのオーラのように広がる声がそうさせるのか、広い世宗の空間がウンプレンの愛で覆われているかのような心地いい包容感。
後半のキラーナンバーの歌い上げはもちろん圧巻でしたが、この日私が愕然としたのは、最後の最後、ウルシュスとの別れのシーン。
貴族の身分を捨てて家族の元に戻ってきたのに、デアがほどなく亡くなり、ウルシュスを一人残してデアの後を追うグウィンプレン。何度観てもこのシーンで、なんでウルシュスを一人にするの?何をするために戻ったの??それが正しい選択なの???って頭に?をたくさん浮かべつつ、クルクル回りながら天に召される二人を複雑な思いで見つめていたのですが。
デアが最期の瞬間、一瞬だけ目が見えて、グウィンプレンに手を伸ばすシーン。ウンプレンは菩薩様のように優しい笑顔をデアに向けます。
ウンプレンの笑顔に包まれて、その腕の中でこの世を去るデア。ウンプレンは優しい笑みを湛えたまま声を振り絞り、歌いだそうとするけれど、声が出なくて。長い長い沈黙の後、ようやく、子守歌のように優しく語り掛けるように歌いだすウンプレン。
その最後の歌詞は「난 이제 너에게로 갈게(僕はもう君の元へ行くね)」つまり、デアの後を追うよという意味なんですが、「너 에게로(君の元へ)」の後、デアに向けていた顔をウルシュスに向けるんです。
二人だけの沈黙のやりとり。「残していってごめんね」「ありがとう」「愛してるよ」「許してね」。溢れんばかりのウンプレンの思いを受けて、沈黙の後、涙を流しながらゆっくりと頷くジュンモパパ。更に優しい笑顔で頷くウンプレン。
会場中から聞こえるすすり泣き。隣の家族連れのお父さんの嗚咽が酷かったけど、それも気にならないほどの感情の高ぶり。涙で前が見えない。
そしてラストシーン。デアをお姫様抱っこして、天に昇っていくグウィンプレン。
この時、他プレンはデアを抱いたまま、まっすぐ前を見据えてクルクル上がっていくのですが、何とウンプレンはここでもやってくれました。
キラキラはためく布の海を越えて上空に上ってきた二人、なんと笑顔で見つめあっているではないですか・・・!ウンプレンの首に両手を添えて幸せそうに微笑むデアと、それを幸せそうにのぞき込む姿勢のウンプレン。ま、まさかの、ハッピーエンド!!
この直後に会った友達から、顔腫れてるけどどうしたのと心配されました。泣きすぎや。

ちなみにヨンギパパは、最後のシーンで行かないでってイヤイヤ首振るらしいです。想像だけで泣ける。
ストーリーも演出も変えず、演技だけでここまで物語を変えてくるとは。パク・ウンテ、恐るべし。
何度も観た笑う男で初めて納得したラストシーンでした。

二人が天に召されるラストシーン。ウンプレンver.を想像してみてください。

そしてジュンモパパね。もうウンテ×ジュンモってだけで、泣かせる気だね?っていうキャストですよね。荒々しい言動に慈悲深さが滲み出ちゃってますからね。
私がジュンモさんを大好きなのが、間の取り方が絶妙なんですよ。雪の中助けを求めてきたグウィンプレンに消えろ!って叫んだ後にドアを開けるタイミングとか、声真似でグウィンプレンの不在を知らせまいとするときの躊躇いとか、ウンプレンに頷き返すラストシーンとか。行間にたくさんの感情を詰め込んでくる役者さん。しかも全部よく伝わる。
ウンプレンver.なら、一人残された後でも、きっと元気にサーカス団の団長さんを務めていそうです。でも最後の最後に「彼を返して」(©レミゼ)歌ってほしい雰囲気はある。

カテコウィークの1枚。最高に幸せそうな3人家族。泣く。

というわけで、感情の入り乱れが大変激しかった今回の笑う男でした。ウンプレンを観られたのは本当に僥倖としか言いようがないです。生きててよかった。

 

最後に、恒例の写真集で締めくくりたいと思います。
長文失礼しました。

人柱シリーズその1。人が多すぎてなかなかうまく撮れず。
人柱シリーズその2。人が多すぎて全キャストの撮影は諦めた。

 

ジョシアナさんちのベンチを模したフォトスポットには長蛇の列。

ヒョ神様専用の特設グッズ売り場。公演の日は朝から行列らしい。





*1:作曲家のワイルドホーン氏が、パク・ヒョシンの声を想像しながら曲を書いたとインタビューで話していました。つまりヒョ神レベルを基準とした曲。