衝動と情熱だけで生きている

主に観劇の記録。

オペラ座の怪人と私~釜山編

相変わらずアウトプットが追いつきません。エリザやJCSのあれこれも書きたいし、デスノートアンコール公演についても色々書きたいことはあるけれど、とりあえず2023年上期を捧げたこれを先に。

オペラ座の怪人が13年ぶりに韓国で再演!
しかも!推しが!ファントム役に!!
私が記憶がある中でおそらく一番最初に観たミュージカル。世界中にコアなファンがいる、あの名作中の名作に、ドンソク氏が?
デビュー前から応援してたアイドルが東京ドーム公演やる気持ちって、こんなだろうか。
しかも、チョスンウ先輩がいる。これはレジェンド演目になるに違いない。

一年で一番忙しい年度末やら突然の転勤引っ越しやら、目が回るような忙しさと並行しつつ、チケッティングやら飛行機ホテル手配やらをこなし、定番となった月曜朝帰りパターンで、仕事に穴をあけることなく前半の釜山公演をプレビューから楽日まで見届けることができました。

厳しいライセンス作品なので、舞台セットも演出も曲も全てオリジナル準拠なのに、そこはかとなくダダ洩れる感情の渦。遊びの部分がないから1,2回観たら満足するかなって思ってたのですが、予想を裏切る俳優陣の熱演と、キャストごとに全く色が違うファントムのせいで、気がついたら回数増し増し。
8月からはファントム役にジェリム先輩が加わり、4か月間のソウル公演が始まります。頼むから舞台を愛する皆さんに観ていただきたい。あなたが知っているオペラ座とは違うオペラ座が、そこにはあります。

今回はスケジュールの都合でジュテクファントムが観られなかったのですが、そのほかのメインキャスト陣について感想をつらつら書かせていただきます。

ソン・ジス(クリスティーヌ・ダーエ)

通称ジスクリ。ジスさんは本業の声楽家。ソウル大声楽科を主席卒業→イタリアに留学→現地でオペラデビューという、輝かしい経歴の持ち主。ミュージカルは初出演。
とにかく歌が素晴らしい。小さな体のどこからそんな声が?という声量で、難解な旋律を天使の声で歌いこなす、まさにリアルクリスティーヌ。
初期のころは、歌が動きに先行する感じでぎこちなさも感じたけど、後半は上手く動きに感情も乗せてきていて、安定感抜群。釜山のスンウ先輩とのペア楽が本当に素晴らしくて、クリスティーヌのファントムへの愛や迷いが手に取るように伝わり、スンウファントムの切なさと相まって号泣しました。
あと、他の俳優陣がみんな体格がいいから、それに合わせるために一生懸命舞台を走り回るジスクリが可愛いの!特にマスカレードのシーン。ちょこちょこちょこって小さい歩幅で必死にラウルを追いかけてて、がんばれ!って応援したくなる。
後半のソウル公演ではもっと良くなるだろうな。個人的には歌唱対決が見られるドンソクファントムとの組み合わせがお勧め。

ソン・ウネ(クリスティーヌ・ダーエ)

通称ウネクリ。延世大学声楽科出身。ポッペラというポップス+オペラを組み合わせたジャンルの歌手として活躍していて、YouTubeチャンネルもあります。
ミュージカルデビューは2018年エリザベートのアンサンブルだったとのことで、もしかしてと思って当時のキャスボ見てみたら、いた!!

ここからヒロインに抜擢されたことを思うと、主役級も完全オーディションの実力主義社会の凄さを感じます。
ウネクリはとにかく感情表現が豊か。クルクル変わる表情に白くて赤ちゃんみたいなプニプニさがとても愛らしい。見てるとこっちもニコニコしてきちゃう。その上に恵まれた体格で、めちゃくちゃ生命力を感じるクリスティーヌ。ラウルの助けがなくともオペラ座地下から生還しそう。特にスンウファントムとの組み合わせではこのペアだけで観られる演技のディテールも多く、オペラ座ってこんなに感情のやり取りあったっけ?って思わせてくれます。2幕後半は1秒たりとも見逃せない激しい感情の応酬。
ウネクリのおかげで、クリスティーヌからファントムへの愛情の深さを感じることができたし、それが恋の類ではなく親に対するものと同類なのだと腹落ちしました。
もちろん歌も文句なし。釜山千秋楽ではThink of Meラストの高音を伸ばして歌い上げていて、会場から拍手が沸き起こってました。

ソン・ウォングン(ラウル)

ウォングンさんがラウル!と話題騒然だったキャスティング。最初に発表されたときはファントム役だと思ってた。そしてジュテクさんがラウル役だと思ってた。
スリルミーの彼役やStory Of My Lifeのトーマス役、Daddy Long Legsのジャーヴィス役などで有名なウォングンさん。ちょうど釜山公演中はソウルでやってたRed Bookとかけもちで、毎回カテコでは心配になるくらい憔悴してたけど、無事に釜山公演駆け抜けました。
大人でしっとり落ち着いた雰囲気のウォングンラウル。スンウさん以外のファントム3俳優より年齢も上で、包容力抜群。Think of Meでクリスを発見したときも、隣に座ってるマダムに丁寧にお願いしてオペラグラスを拝借。ジェントル。
そしてウォングンさん、こんなに歌えるなんて知らなかった。元々ファッションモデル→歌手→俳優という異色の経歴で、韓国中の声楽家が応募したというオーディションでラウル役を勝ち取った実力。これまでの出演作ではそんなに歌い上げる曲がなかったからなのか、私が気づかなかっただけなのか。
釜山の楽日に偶然退勤に遭遇したのですが、公演期間中に3度目のコロナに罹患して大変な思いをしたとのこと。キャストも関係者も細心の注意を払っていて、本番以外は全員マスク必須。特にファントム役の俳優は仮面の上からマスクするから大変だそうです。そんな厳戒態勢の中、毎回素晴らしい公演を見せてくださることに感謝しかないです。ソウル公演も無事に乗り切れますように。
ところでウォングンさん、IUの日本デビュー曲のMVに出てたの知ってました?私最近知ってめちゃくちゃびっくりした。アイドル歌手の名残を感じる素敵なお姿。
参考資料

youtu.be

ファン・ゴナ(ラウル)

TV「ファントムシンガー3」で一躍有名になったゴナさん。
187cmの長身、彫刻のようなお顔立ちに、音域の広いバリトンボイス。これは人気がでないわけがない。事実、プレビューを観たドンソクファン(私も含む)が口々に「あの子は誰???」と騒然としてた。
ゴナラウル、とにかく熱い。お友達が「修造ラウル」と呼んでいた。熱血。
Think of Meでは隣のマダムのオペラグラスを無理やり奪い取り、立ち上がってクリスに嵐のようなブラボーを送る、強火オタクの様相。四季版でのマスカレードのクリス肩乗せ、韓国版にはないのですが、ゴナラウルなら絶対できるからやってみてほしい。
若くて自信と勢いがあって常に目に炎を燃やしてる感じ、特に陰の部分が目立つスンウファントムとの組み合わせだと、ファントムの悲しさをより一層引き立てて最高。
一方、自信溢れるドンソクファントムとの組み合わせでは、バリトン同士のマッチアップが最高。墓場のシーンでは天下一武闘会みたいな波動の飛ばしあいで、間に挟まれるクリスティンが心配になるくらい。この二人の「ただ一つの未来」(フランケンシュタイン)を聴くまで私は死ねない、オタクはそう思ったのであった。

チョ・スンウオペラ座の怪人

ずっと噂はあったし期待はしてたものの、現実になった瞬間「チケット取れるのか…?」という不安に襲われたスンウ先輩ファントム。開幕前からレジェンド公演だと言われたキャスティング。そしてその期待を上回るものを見せてくれるチョ・スンウという人。本当に恐ろしい。
スンウ先輩の魅力は歌そのものよりもその演技と存在感なのだけれど、今回は第一声を聴いた瞬間、鳥肌立ちました。もんのすごく歌が上手くなっている…!!声楽家揃いのファントムの中、ものすごいプレッシャーで、直前まで歌の特訓に励み、幕が開けるまで不安で仕方なかったというスンウ先輩。努力を惜しまないからこその実力と人気なんですね。
深みを増した歌声に乗せて紡がれるファントムの感情。最後のシーンで静かになった会場のそこかしこから聞こえるすすり泣き。オペラ座の怪人って、こんなに感情移入する物語だったっけ?私たちは何を見せられたのか?終演後に魂抜かれてフラフラと夜道を歩いたプレビューの夜がまだ忘れられません。
でも実はプレビューから楽までに一番演技が変わったと感じたのがスンウファントム。プレビューでは子供っぽく、人と触れ合ったことがない、コミュ障の極みのようなキモオタクファントムだったのに、次に観たときは、人の恐ろしさを知り尽くして人を避けているような、愛を拒否して生きてきたような悲しく切ないファントムになっていて愕然としました。兄ちゃん、この人の引き出しいくつあるん?
そしてなんといってもチョユリョン*1と言えば、細かすぎる演技。今回も小道具の使い方から吐息の使い方や間の開け方、指先から足先の動きに至るまで、舞台にあるものを一つも無駄にせず使いこなす職人技。
クリスとラウルが屋上で互いに愛を告白するシーンで隠れている大天使像をユラユラ揺らしたり、墓場のシーンでは火の玉を出す箇所にこだわってたり*2、その火の玉で舞台に火をつける流れにしてたり、ドンファンの勝利で指先だけで喜怒哀楽を表現したり(北島マヤもびっくり)、マネキンをどかして椅子に座るシーンでマネキンとワルツ踊ったり、クリスが脱ぎ捨てたブーケを大切に扱ってたり。
私が一番ハッとしたのは、ラストシーンでクリスがファントムにキスしたとき、クリスがチョユリョンの右頭の大きな傷に触れるんだけど、その手をそっと外して袖口でクリスの手のひらを拭うんですよ。まるで、汚いものに触れた手を浄化するように。初期の頃はしていなかったので、初めてそれを見たときは頭をぶん殴られたような衝撃を受けました。
チョユリョンにとってクリスティーヌは正に穢れなき天使で、触れようとしても触れられないディテールが1幕からそこかしこに見られるんですが、最後にそんな伏線回数してくるなんてさーーー!!ずるいよ!泣くしかないよ!どちらのクリスティンもチョユリョンのときだけ傷に触れるので、スンウ先輩ならではの演技プランなのでしょう。
指輪を返すために戻ってきたクリスを泣きながら見送った後、マスカレードを演奏する猿オルゴールに笑顔で駆け寄り抱きしめるんだけど、この一瞬で、オルゴールが彼の唯一の友達だったんだって観客に理解させるのよね。そしてその後椅子に消える前、被ったマントを一度剥がし、最後に猿の頭を優しく撫でて消えていくのです。書きながら思い出して泣いてます。
私は幼い頃から四季版を観ていて、ファントムはクリスとラウルの幸せを引き裂く恐ろしい存在だと思っていたのですが、こんなに悲しく憐れなファントムがいたなんて。ここまで怪人に心を寄せる演技ができる俳優は、きっと世界でチョ・スンウだけだと思う。世界中のオペラ座ファンに観てほしい。チケット取れないけど。
チョユリョンといえば、他キャストと違って唯一右手に指輪を着けてるんですよね。キョンシー扮装で作曲してる時とか、地下にラウルが乗り込んできたときとか、心に迷いが生じたときに指輪を触るんだけど、なんで右手なんだろう。左手の方が観客には見えやすいし、だから他のキャストも左手に着けてるんだと思うけど、スンウ先輩のことだから何か深い意味があると思う。誰かインタビューで突っ込んでみてほしい。
そしてスンウ先輩について要注意なのは、彼の演技は毎回変わります。観るたびに新鮮な驚きと感激があります。チケットをください。
まだまだ書き足りないけど、ひとまずここまで。

チョン・ドンソク(オペラ座の怪人

いや、ファントムなのに顔良すぎ。逆にハンデ。
別作品とオーディションが重なって迷ったと話していたけど、選んでくれてありがとう。
プレビューで1幕が終わった瞬間、隣の女子二人連れが「演技はチョスンウ、歌はチョンドンソク!」って同時に叫んで周りがみんな笑うという出来事があったのですが、ドンソク氏の声楽発声をここまで思う存分堪能できるミュージカル作品は他にないでしょう。とにかく歌が凄い。前方席ではマイクを通さない生声が直で響いてきて、クリスティーンを歌声で虜にしたという劇中の設定を実体験してしまった。歌ってないはずのレッドデスでも歌声聞こえたんだけど、音源じゃなくて生歌に変更したのか、音源に生歌が勝ってしまっていたのか、真相は不明です。
ドンユリョンは自信家で激情型。でもふと見せる弱さが子供のようで、見た目の輝かしさと不器用で繊細な内面とのギャップが哀れみを感じる…ってあれ?この感じどっかで観たな?と思ったら、そりゃそうだ、コピット版ファントムで観たやつだ。

他に両ファントムやったことある俳優さんっているのでしょうか?両方演じてみてどうだったか、ぜひ感想を伺ってみたい。
ドンユリョン、クリスの前ではひたすら強く恐ろしいのに、たまに見せる優しさがずるい。花嫁衣裳のマネキンに驚いて倒れたクリスにそっとマントをかけて顔を撫でるところとか、ドンファンの勝利でクリスにそっと指輪をはめて愛を語るところとか(王子?)、DV男のそれである。チョユリョンが大切に扱うマネキンも、ドンユリョンは壊れるんじゃないかって勢いで床に投げ捨てるので、毎回ハラハラしてました。
あとね、クリスに「偽善者!信じてたのに!」って言われた後、顎クイしながら「俺を試すな…」って呟いた時、私の中の何かが爆発した。あのズラと特殊メイクにすら打ち勝つ美しさ、俳優として本当に不利だと思う。
そしてドンソク氏、気持ちが乗ってくると色々なことをやり始めるので、目を皿のようにして見張っていないと見逃してしまう。最後のシーンでクリスから返された指輪にそっとキスしたり(観客に背を向けて)、椅子に消える前、マントを被った後に悲しそうに微笑んでいたり(下手前方じゃないと物理的に見えない)、今回も観客から見えない演技がご健在。舞台としてはもっと分かりやすくやるのが正解なんだろうけど、中の人の感情のままに演じてるのがわかるし、毎回ボロボロになって泣いているので、身を削って役に入っているのだと思います。
緻密な演技プランがあるスヌユリョンと、感情のままに演じるドンユリョン、ここでも違いがはっきりしてて面白い。釜山後半ではスヌユリョンみたいに大天使を揺らすのもやっていたので、ソウルではもっと色々やってくるのではないかと期待しています。
細かい萌えポイントを言い始めるとキリがないので、こちらもこの辺で。

 

以上、超主観的な感想でした。お付き合いいただきありがとうございました。
釜山公演はスンウ先輩ではありえないくらい簡単にチケットが取れたし、経験したことがないくらい前方席で観ることもできたし、食べ物もおいしかったしアクティビティも楽しかったので、バスの運転が荒い以外は大満足でした。
ソウル公演は全キャスト平日も完売状態なので、まずスタートラインに立つことが難しい状況ですが、オタクのみんな、戦いを乗り越えてまたソウルで会おうな。
最後は釜山の思い出写真で締めくくり。

コラボしていた海雲台の海辺列車
コラボしていた影島のカフェ
釜山ドリームシアター入口
劇場内のフォトスポット

劇場1階のトイレ。そこかしこがオペラ座仕様。

 

*1:韓国語では怪人=유령(ユリョン;幽霊)という

*2:髑髏の目と口から火の玉を飛ばすのですが、目と口とでおそらくスイッチが違うようで、それを確認しながら右目→左目→口の順番で飛ばしていた