衝動と情熱だけで生きている

主に観劇の記録。

ヘドウィグ、あなたはあなたのままでいい

キタ。
2024年にヘドウィグが上演されるって聞いたときから、予感はしていた。
そしてその会場がシャルロッテシアターだと知った瞬間から、予感は確信に変わった。

ドンドゥィグゥーーーーー!!!!!*1
もうずっとずっと再演待ってた!!出てくれてありがとう!!!!!
文章化することを考えただけでも胸やけするほどのクソデカ感情を抱え、これまでちゃんと感想を残せていないヘドウィグという大好きな作品。
本陣様の再登板記念に、当時の下書きに手を加えながら改めてきちんと向き合ってみたいと思います。お付き合いよろしくお願いします。

ミュージカル『ヘドウィグ』とは

アメリカ人の俳優、映画監督であるジョン・キャメロン・ミッチェルが、自身のアイデアを基にミュージシャンのスティーヴン・トラスクと共に創作した舞台作品。ジョン自身が主演した舞台がオフブロードウェイで絶大な人気を博し、のちに映画化して更に話題を呼んだ。


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舞台や映画を見たことなくても、インパクトがあるヘドウィグのかつら姿に見覚えがある人も多いはず。日本でも2004年の初上演以降、キャストや演出を変えながら繰り返し上演されている、世界的な人気作品です。

あらすじ

全米各地を旅する売れないロック歌手のヘドウィグ。派手な衣装に身を包んだドラァグクイーンである。共産主義体制下の東ドイツで生まれた彼女は、幼少期に母親からプラトンの「愛の起源」の話を聞き、この世のどこかに自分の”片割れ”がいると信じている。
ヘドウィグは幼い頃、ハンセルという名の少年だった。窮屈なアパートで母と二人が住むハンセルの唯一の楽しみは、米軍のラジオ放送でデビッドボウイ、ルーリード、イギーポップなどのロック音楽を聴くことだった。
ある日、アメリカ人の軍人ルーサーに出会い恋に落ちたハンセル。結婚して渡米するために、ルーサーから性転換手術を迫られる。ハンセルの母親は、自身の名であるヘドウィグをハンセルに与え、闇医者で性別適合手術を受けさせたが失敗。ハンセルの股間には「怒りの1インチ(アングリー・インチ)」が残された。
ヘドウィグはルーサーと渡米するが、ルーサーは浮気してヘドウィグのもとを去る。その日は最初の結婚記念日で、ベルリンの壁が崩壊した日だった。
絶望に暮れるヘドウィグは、昔抱いたロック歌手になる夢を思い起こし、韓国軍兵の妻たちを引き連れてバンドを結成する。
アルバイトをしながら身を繋いでいる中、ベビーシッター先で、ロックスターに憧れる17歳の少年トミーと出会う。トミーにロックを教えるうちに、恋に落ちる二人。しかしある日、ヘドウィグの手術痕がばれてトミーはヘドウィグのもとを去る。
その後、トミーはヘドウィグと作った曲すべて盗んでヒットを飛ばし、人気絶頂のロックスターになった。怒り狂ったヘドウィグは、自分のバンド「アングリー・インチ」を引きつれて、トミーの後を追いかけながら巡業を続ける。
途中、巡業先のクロアチアで出会ったイツハクを夫に迎え、トミーの全米ツアーを追って公演を続けるヘドウィグとその一行は、トミーのツアー最終地であるニューヨークに到着する。
トミーが公演を行うタイムズスクエアのすぐ隣でライブを開催するヘドウィグ。ある事件がきっかけでトミーとヘドウィグの関係が世間で騒がれることになり、今日ばかりは会場も満員。少しずつトミーとの話を語り始めるヘドウィグ。
今夜、失われた片割れを探すヘドウィグの長い旅は終焉に向かう・・・

元々映画よりも舞台の方が先に作られた作品なので、映画を見れば予習としては完璧だと思います。ミュージカルでは、あらすじの最後に出てくるニューヨークの公演場、ミレニアムシアターを舞台に、舞台上のヘドウィグが観客に過去を語るという流れで物語が進んでいきます。

登場人物

映画にはたくさんの登場人物が出てきますが、ミュージカルには実質的にヘドウィグとイツハクの二人しか登場しません。ヘドウィグのライブ会場という設定なので、バックバンドのみなさんがアングリーインチ役です。ヘドウィグ役がトミー役を一人二役で演じながらほぼ一人語りで話を展開し、そこにイツハクがスタッフ兼コーラスとして登場する、という感じ。

・ヘドウィグ

東ドイツ、ベルリン出身のドラァグクイーン。売れないロック歌手。この世のどこかにいる”片割れ”と出会えば、完璧な存在になれると信じている。かつて自身の片割れだと思っていたトミーに裏切られ、憎しみとも愛ともつかない思いを抱えながらトミーを追って巡業を続けている。

・トミー・ノーシス

ヘドウィグがベビーシッターをしていた先の息子。ヘドウィグからロックを学び、やがてロックスターになる。ニューヨーク公演を前にヘドウィグと同乗していたタクシーが交通事故に遭い、ヘドウィグとの関係が世間に騒がれることになる。
ちなみに”ノーシス”はヘドウィグが与えた芸名だが、実はここに深い意味がある。

・イツハク

2019年のホンソヨンちゃんイツハク

ヘドウィグの夫。クロアチアで人気のドラァグクイーンだったが、女装禁止を条件にヘドウィグと結婚してクロアチアを抜け出した。ちなみにこの設定は舞台上では語られないが、大変重要なポイント。

・アングリー・インチ

韓国軍の妻たちで構成されるバンドメンバー。俳優ではないミュージシャンのみなさんなので台詞はないが、たまに俳優からいじられたり歌わされたりする。

ヘドウィグのここが好きその1:哲学的なストーリー

派手なヴィジュアルや激しい曲調にばかり目が行きがちですが、ヘドウィグの背景にはとても深い設定や伏線があります。

・魂の片割れ
ヘドウィグが探し求めている、自身の”片割れ”。
これは古代ギリシアの哲学者、プラトンの著書『饗宴』に記されている話がベースになっています。『饗宴』は、プラトンの師匠であるソクラテスが、他の哲学者たちとの愛に関する対話を本としてまとめたものです。その中で哲学者アリストパネスがこう語ります。
「昔、人間は二人で一つだった。男と女、男と男、女と女という三種類の人間が、背中合わせに繋がっていた。しかし人間の力を恐れた神々が、それを二つに引き裂いた。それ以来、人間は自らの完璧な片割れを追い求めている。それが愛なのである。」
母から寝物語としてこの話を聞いた幼いヘドウィグ。劇中、『愛の起源(The Origin of Love)』という曲でこれを語り、歌い終わった後に呟きます。「私の片割れは男、女どっちなの?」
手術に失敗し、アングリーインチを抱えて生きるヘドウィグは、不完全な自分に負い目を感じ、完全な存在になるには”片割れ”が必要だと信じているのです。この設定が、物語の結末に繋がっていくことになります。
伝説のチョドウィグ(チョ・スンウ)
による”The Origin of Love”2013年版


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・抑圧と解放
ストーリー上、随所に感じられる「抑圧と解放」というテーマ。
まずヘドウィグ。自由になるためにルーサーから女性の身体になることを強いられたが、彼はベルリンの壁が崩壊した日にヘドウィグの元を去る。その手にはルーサーが買い与えたウイッグだけが残った。女性の身体に閉じ込められたヘドウィグは、自身の片割れが男なのか女なのか悩み、自分の不完全さを呪う。

そしてイツハク。社会主義国クロアチアで人気のドラァグクイーンだった彼は、奔放なヘドウィグに憧れ、ここから連れ出してと懇願する。ヘドウィグはイツハクに「今後女装しないと誓うなら、結婚して連れ出してあげる」と告げ、彼はそれに従い、ヘドウィグの夫となる。こうして男の身体に閉じ込められたイツハク、舞台上でヘドウィグのウイッグを被ろうとしているところを見つかり、ヘドウィグに激怒されるシーンもあります。

最後にトミー。厳しい親の元で管理されて育ち、自由とその象徴のロックに憧れる少年にとって、ヘドウィグは眩しい存在でした。そのヘドウィグと恋に落ち、よい雰囲気になったものの、ヘドウィグのアングリーインチを前に驚いて逃げてしまいます。そのままヘドウィグと別れてしまったトミーは、ヘドウィグに与えられたトミー・ノーシスという名で彼女と作った曲を歌い、一躍ロックスターになります。トミーは別れたヘドウィグにどういう思いを抱いていたのか、ヘドウィグの語りではわからない彼の思いは、後半の曲”Wicked Little Town Rep.”の中で語られます。

果たして”片割れ”は存在するのか?抑圧された身体と魂がどのようにして解放に向かうのか?これがこの作品の重要なテーマです。
ちなみに登場人物の名前にも聖書や哲学をベースにした深い意味があって、そのあたりも理解すると作品の理解度が格段に深まります。ヘドウィグ、本当に深くて、考察好きのオタクを唸らせる名作だと思います。
いつも他力本願で恐縮なのですが、こちらのブログがそのあたりを大変詳しく解説されているので、興味がある方はぜひご一読ください。

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つらつらと難しいことを書きましたが、そんなに構えて鑑賞する必要はなく、単純に笑って泣けて、最後には「あなたはあなたのままでいい」という励ましをもらえる、とてもいい作品です。私が疲れたときに観たくなる2大ミュージカル、アラジンとヘドウィグっていうくらい。誰も死なないし*2

ヘドウィグのここが好きその2:個性的なキャスト

韓国では「俳優の登竜門」と言われているヘドウィグ。2005年の初演時から、チョ・スンウ、オ・マンソク、オム・ギジュン、パク・ゴニョン、チョ・ジョンソク、ユ・ヨンソク、チェ・ジェウン、イ・ギュヒョンキム・ジェウク、ビョン・ヨハン・・・と、数々の有名俳優たちが演じてきた作品です。
2005年の初演時は大学路の小劇場で上演されていたのが、人気が出るにつれてだんだん会場が巨大化し、ついに忠武アートセンター大劇場やシャルロッテシアターで上演されるまでに。舞台転換も休憩もない二人劇だし、ライブ感が楽しい作品なので、大劇場でやるのはどうなのかと思いますが、小劇場だと絶対チケット取れないし。
大劇場でやるってことはつまり、大空間を一人で盛り上げるだけの力がある俳優のキャスティングが約束されているわけです。
なんと今年はうちのドンソクさんの他にも、チョ・ジョンソクとユ・ヨンソクが復活登板!元々人気も実力もあるうえに、ドラマ「賢い医師生活」で更に人気が出た賢医コンビのヘドウィグ。血ケッティング必死です。怖い。

これまでのシーズンでも途中で追加キャストがあったし*3、今回も公演期間が3月~6月と長いので、追加キャストあるのでは?という噂もチラホラ。怖い。
このような感じで、韓国ヘドウィグは1シーズンに複数キャストが演じるのが通常なのですが、それぞれが個性全開で本当に面白い。
マイケル・リー神演じるヘドウィグは全編英語で演じられ、2019年版は「来韓公演をしているBTSの大ファン」という設定。BTSのバスタオルを肩にかけて登場し、Boy With Luvを歌い踊るリーウィグ、かなりレアなものを拝見しました。
ドンソクさんに至ってはセルフパロディ満載で、「チグミスンガン!!*4」という台詞を連発してみたり、ルーサーからもらったグミを食べながら「熊、おいしい*5」と低音ボイスで呟いてみたり。今期はドラキュラネタ入れてきたりするのかな。
あと、トミーが初めてライブハウスを訪れたシーンでヘドウィグが歌うシーンがあるんですが、ここで歌う曲も俳優さんによって違います。各俳優が好きな曲を自由に選ぶそうで、それぞれの個性がでるところです。2019年のドンソクさんは、WestLifeの”My Love”を歌っていましたが、選曲理由については「昔よく聞いていて、好きな曲だから」とのこと。あっさりしすぎ。きっと何か思い出があるんでしょう(笑)
ちなみにイツハクのソロ曲もキャストによって違うので、組み合わせで色んな曲が聴けるのもお楽しみポイントです。

ヘドウィグのここが好きその3:ライブ感

ヘドウィグはミュージカルではありますが、バンドの生演奏ということもあり、ほぼライブといっても過言ではないです。特に韓国版は。
ヘドウィグが縦横無尽に客席を駆け回り、観客を煽り弄りまくります。口から噴き出した水をかけられたり、舞台に上げられたり、トミーに見立てて目を見つめて歌われたり、股間を擦り付けられたり*6。さすが歌って踊る血が流れている韓国人、観客もノリノリな人が多く、毎回会場中が大盛り上がり。コロナ禍公演では無かったようですが、今年は趣向を変えて復活予定とのことで、大劇場でオンニがどんな風に暴れまくるのかが楽しみです。
あと、上演時間135分となってますが、この時間通りに終わった公演を私は知りません。まず、ヘドウィグが喋りまくる。好き勝手にアドリブを入れながら、とにかく喋る。もちろんキャストによりますが、特にベテラン陣は酷い。韓国語がよくわからない状態で観ても猛烈なお下劣さを感じる、終わりのない一人つっこみだべり。早口でまくし立てるうえに俗語だらけなので、外国人の私は置いていかれることもしばしば。周りは大爆笑の渦。
もう一つのポイントは本編終了後のアンコール。劇中曲をダイジェストで演奏してくれるんですが、もちろん客席は総立ち、ジャンピングやらヘドバンやらで踊りまくるライブハウス状態。しかもW、トリプル、クワトロアンコールもアリ。マチネ公演のアンコールを2時間近くやった後、「そろそろソワレが始まる時間だから終わらなきゃ~」って言いながら去っていった俳優さんもいました。チョン・ムンソン、お前だぞ。膀胱限界だったぞ。休憩なしの4時間公演、最高に楽しかったぞ。
これまでの最長公演はチョドウィグの4時間半と聞いたことがあります。さすがスンウ先輩。開演前の水分摂取と終演後のスケジュールには十分にご注意ください。
こんな感じで自由度が高いので、毎公演ごとに趣が全然違うのも醍醐味。何度も通いたくなる理由がそこにある。
最高に楽しく最高に膀胱が限界だったムンソンさんのヘドウィグ


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ヘドウィグのここが好きその4:いつもと違う推しの姿

普段はオーケストラの中、声楽発声のバリトンボイスを響かせている俳優さんが、エレキギターをバックにシャウトする姿を見られるなんて、考えただけで最高じゃないですか?オペラ座の怪人がヘドウィグやる世界線が存在するなんて*7
ええ、推しのチョン・ドンソクさんのことなんですけどね。
ヘドウィグは映像でも活躍する演劇寄りの俳優がキャスティングされることが多くて、正統派ミュージカル俳優が出ることってこれまであまりなかったので*8、2019年にドンソクさんの出演が発表されたとき、ミュオタ界隈がかなりざわつきました。
え、大丈夫なの?ロック歌えるの?客席煽れるの?踊れるの?脱げるの?・・・等々。
そんなオタクどもの心配をよそに、ご本人は女性アイドルの動画を見ながら漢江沿いで必死に骨盤を振る練習をし、せっせと体を作った(?)努力の結果、眩しいほどに煌めく、美しく儚く強いロックスターを生み出したのです。

ヘドウィグを演じるドンソクさん、今まで見たことがないくらい楽しそうなのが伝わってきて、観てるこっちもうれしくなっちゃうくらい。「自分を変えるためのチャレンジ」として役を引き受けたそうですが、確かにヘドウィグ以降は度胸と自信がついたなと感じることがしばしばありました*9
あとね、美しいうえに可愛い。キュート。小悪魔。お友達がドンドゥィグを評して『186cmのプリキュア』と呼んでいたのですが、まじでプリキュア。きゅるきゅるしてるんだもん。お肌艶々でメイクもネイルもキラキラしてて、私も綺麗にメイクアップして観に行きたい!って思わせてくれる可愛さ。ファンの間でドンオンニと呼ばれ、ご本人もまんざらでは無さそう。舞台上から「私、最高にかわいいでしょー!!」って同意を求めてくるオンニ。はい、可愛いです。
ちなみにキャストごとに異なる衣装も見どころ。長身で色白のドンオンニはピンクやパープル系の衣装が中心で、長くて綺麗な足が映えるホットパンツやショートドレスがよくお似合いでした。
もちろん外見だけでなく、何よりもロックを歌うドンソクさんが素晴らしくカッコよくて。普段からカラオケでは激しいロックやメタルをよく歌うって話してたので、ジャンルとして好きなんだと思う。声楽が歌える人のロック、めちゃくちゃ音域が広くて声がデカい。超高音の地声シャウトで会場を沸かせたかと思うと、イツハクと大声対決して観客の耳を麻痺させたり。かと思えば一人ひとりに語り掛けるように歌うバラードで涙を誘い、最後はヘドバンしながら踊り歌う。初めて観たときは衝撃が強すぎて、終演後に開場下のスタバで2時間ほど茫然としてました。
デフォルトがタキシード仮面なドンソクさんのこんな姿が見られるのは、間違いなくヘドウィグだけ。名優揃いなキャストだし、他作品も目白押しな2024年ですが、ぜひドンドゥィグをお見逃しなく。

 

というわけで、今回も長くなってしまいましたが、とにかくヘドウィグはいいぞ、という話です。ぜひキャスト違いで制覇してください。全キャスト観たら、絶対にもう一周したくなるはず。
喋りが多いので初見予習なしだとかなり厳しいと思いますが、映画や日本版を見たことある方なら十分楽しめるかと。そして少しでも韓国語がわかれば楽しみ倍増。私も開幕に備え、リスニング力を鍛えたいと思います。そして今やパジャマと化しているヘドウィグTシャツを仕込み、きれいにメイクアップしてシャルロッテシアターに乗り込みたいと思います。2024年ヘドウィグは3月22日から6月23日まで、シャルロッテシアターにて上演です。オンニ待っててね!!
2024年版のティーザー映像


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*1:俳優の名前+ウィグをつけて呼ぶのが韓国流。スンウ先輩はチョドウィグ、ドンソクさんならドンドゥィグ。ドンドゥィグは日本語の発音的には「タンポポ」のイントネーション。間違っても「ドンタコス」のイントネーションで発音してはならない。

*2:オタクが好きなミュージカル作品、大抵主人公が死ぬ。

*3:2019年はマイケル・リーとイ・ギュヒョンが途中参加

*4:ジキル&ハイドの有名な曲”時が来た(지금 이 순간)”のこと。ちなみに2019年当時、ジキハイのソウルアンコール公演とヘドウィグの公演期間が被っており、ヘドウィグに染まっていたドンソクさんはジキハイ公演の中で「足が跳ねてしまうジキル」「小指が立ってしまうハイド」などの名シーンを残して伝説となった。

*5:みんな大好きフランケンシュタインより、怪物の有名な台詞。

*6:カーウォッシュと呼ばれる儀式。”Sugar Daddy”という曲中でヘドウィグが着用しているビラビラしたスカートを、客席にまたがり観客の顔にこすりつける。ドンドゥィグは最後にありがと♡と呟きほっぺにチューしてくれる。

*7:ご存知の通り、韓国にはこれをやり遂げた俳優がもう1人実在する。すごい世界だ。

*8:ミュージカル俳優枠では、2019年にはユン・ソホさん。2021年にはコ・ウンソンさんが出演されています。

*9:ソロコンでの客席を煽るトークや、羞恥を捨てた役への入り込みなど。あときっとダンスに自信ついたんだと思う。フランケンのインタビューで自らダンスが得意だと話していたし・・・うん。

イルテノーレ、それは美しき群像劇

前回のエントリーが去年の7月(釜山オペラ座)だという事実に驚いています。ご無沙汰しております。ツイッター(永遠にこう呼び続ける)では常に叫び続けているのでお分かりかと思いますが、私は全力で元気です。

全然追いついていないけど、2023年は前半は主にオペラ座の怪人、後半はドラキュラ、あと全編を通してNCTに捧げました。過去は振り返らないタイプなので、かかった費用と遠征回数については考えないことにしています。

そんな中でも、この作品についてはどうしても記録に残しておきたい。2023年年末に観て、とても心に残った作品について書かせてください。ぜひたくさんの人に観ていただきたい。本当に素晴らしい作品だから。

『イルテノーレ』とは

ジキル&ハイド、スウィーニートッド、ドラキュラ、デスノートなどを手掛ける韓国の大手ミュージカル制作会社ODカンパニーによる新作オリジナルミュージカル『イルテノーレ』。
バンジージャンプする』『メイビー、ハッピーエンディング』の制作で知られる作曲家ウィル・アロンソン、作詞家パク・チョンヒュコンビによる作品。数年前に公開されていたリーディングにはチェ・ジェリムさん、チョン・ミドさん、イ・サンイさんという豪華メンバーが参加していて、今回も登板が噂されていたのですが、残念ながら実現しませんでした。(とはいえ、期待の斜め上をいくキャスティングだったのですが)
ちなみにイルテノーレとは、イタリア語でテナーを意味します。

ジェリムさんとミドさんの歌声が聞ける貴重なリーディング動画。イサンイさんの姿も。


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あらすじ

1930年 日本帝国統治下の京城
抗日運動の集会である「文学会」メンバーは、ますます激しくなる総督府の検閲を避ける方法を探している際、偶然にイタリアオペラ公演を計画することになる。

外圧に対抗して戦うヴェネツィアの人々を主人公としたオペラ『I Sognatori-夢見る者たち』が京城市民の抗日精神を鼓舞することを期待し、この得体の知れない「西洋創劇」を公演するために奮闘するメンバーたち。
その中心は、自分でもその才能に気づかなかった特別なテナーの声の持ち主である医大生ユン・イソン、京城で最も英雄的なリーダーであり演出家であるソ・ジヨン、危険なほど情熱的な独立運動家であり、ステージデザイナーであるイ・スハンである。

思わぬ展開に流れていく状況の中、彼らの「朝鮮初オペラ」は無事に公演できるのだろうか?(Interparkより)

主人公のユン・イソンは、実在の人物である韓国初のオペラ歌手イ・インソン(1907~1960)をモデルにしていて、インソン氏もセブランス医大卒の医師だったそう。
日本の植民地時代が舞台なので、日本人の私にとって目を背けたくなるような作品だったらどうしよう、と思っていたのですが、もちろん向き合わねばならない時代背景が前提ではあるものの、作品の焦点は登場人物それぞれの情熱であり、美しい音楽に載せて描かれるその物語に、激しく心を揺さぶられました。
詳しいストーリーはこちらのブログで大変丁寧にご紹介されています。ネタバレ無しで観ることを強く強く強く推奨しますが、台詞も多いので、事前予習したほうが良い方はネタバレ前の部分までどうぞ。

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メインキャスト紹介

・ユン・イソン(ホン・グァンホ/パク・ウンテ/ソ・ギョンス)

セブランス医大に通う医大生。抗日運動で命を落とした医大生の兄の志を継ぐため、父親に言われるがままに医者を目指している内向的な学生。ある日偶然オペラを耳にしてその美しさの虜になる。今まで歌ったこともなかったが、類まれなる才能を見出され、オペラに夢中になる。ついには医者の道を捨て、文学会のメンバーであるジニョン、スハンと共に朝鮮初のオペラ上演のために奔走する。

・ソ・ジニョン(キム・ジヒョン/パク・ジヨン/ホン・ジヒ)

表向きは劇団、実態は抗日運動を行う学生たちの集まり「文学会」のカリスマ的リーダー。劇団では演出家である。両親は抗日運動で命を落としている。演劇を通して朝鮮人の誇りを取り戻し、日本帝国から独立することを夢見て活動している。

・イ・スハン(チョン・ジェホン/シン・ソンミン)

「文学会」で舞台デザインを担当する建築学科の学生。文学会のリーダーの座をジニョンと争っている。独立運動への強い情熱を持つ過激派であり、緻密に計画を進めようとするジニョンとしばしばぶつかる。

 

おすすめポイントその①:メインキャスト

さすがOD新作、気合がすごい。主人公のイソン、とんでもないラインナップでやってまいりました。
韓国の至宝ホン・グァンホ、韓国の神ことパク・ウンテ、そして色物から正統派まで全て自分色に染めるスーパーカメレオン俳優*1、ソ・ギョンス!ついに韓国二大巨頭に並んだソ・ギョンスさん、すごいや。
類まれなる才能を持つオペラ歌手という設定上、歌唱力は絶対なんですが、この3名は文句なし。歌声だけでもチケット代の元が取れます。私はまだギョンスさん観られていないので、グァンホさんとウンテさんの推しポイントを。

一昨年の冬、オペラ座の怪人のキャストにグァンホさんがいなかったときはがっかりしたんですが、まさかここにきてグァンホさんのオペラを堪能できるなんて。
グァンホさんのオペラ歌唱、久しぶりにフルスロットルで声出してて*2、これぞホン・グァンホ!って総毛立ちました。初めて歌うシーンで、先生や学生たちに「うわー、声が大きい!!」ってびっくりされるシーンがあるんだけど、グァンホさんまじですごい。アンサンブルと合唱してても飛びぬけて声がデカい。
歌声で展開するシーンがいくつかあるんですが、アカペラで響き渡るグァンホさんの歌声、声圧だけでなく表現力が素晴らしくて、作品のテーマであるアリアの旋律が今も脳内から離れない。年を取ったシーンで歌うアリア、しゃがれ声から始まり、次第に強く響き渡っていくあのシーン。涙が止まらずハンカチを眼鏡の下に挟みながら観るという初体験をしました。今も思い出すだけで泣けます。
あと、イソンの冴えない役柄がグァンホさんにピッタリ。学ランに丸眼鏡で猫背の学生姿なんて、あー陰キャなんだ、って一目でわかったし、ぼさぼさ頭にしわっぽいタキシード、ちょっと曲がった蝶ネクタイも最高にイソンのキャラを表現してました。ジニョンへの告白シーンもものすごくぎこちなくて、歌声だけじゃなくキャラもグァンホさんのあてがきなのかな?って思っちゃうくらいの野暮ったさ(褒めてます)。
歌声といい、役柄といい、まさにイルテノーレなのがホンイソンだと思います。

一方、ウンテさんのイソン、ウンイソン。ウンテさんの歌声って声圧はそこまで感じないけど、空間を包みこむ独特のオーラがあるじゃないですか。ウンテさん自身テノールの音域ではないし、オペラ歌唱とは路線が違うんだけど、ひとたび歌い始めると周りの空気が一変して、聖なるオーラに包まれる。もうこれはウンテさんにしか作り出せない世界観。音楽をひたむきに愛し、夢を追い、仲間を思う心が伝わるウンイソン。もはや尊さに近い純粋さが、あの歌声に乗って伝わってくるんですよ。前日にホンイソンを観て、こりゃウンテさんはバスタオル案件だと悟った私、涙を拭くのを諦め、ハンドタオルをよだれ掛け状態にして臨みました。正しかった。
役柄は圧倒的にグァンホさんのほうが合ってるんだけど、ウンテさんの感情への訴求力は誰も勝てないと思う。会場中がすすり泣き状態。
あとね、ウンイソン、冒頭、涙目なんですよ。1回観た人はその理由がわかるはず。ウンテさんは観客に伝わりやすく演じてくれるので、2回目に観ると色んなところでハッとさせられる場面があって、個人的におススメです。
見た目は、素敵さを隠すためにわざとダサくしてる?って感じ。眼鏡姿は素敵だし、タキシードなんて最高に似合っちゃってるし、ジニョンに対してもすごく紳士的だし、ところどころで色気漏れちゃってるし。中の人のお茶目さも垣間見えるシーンもたくさんあるので、ウンテさんファンは必見の作品だと思います。

メイン二名について長く書きすぎましたが、ジニョンも実力派揃いだし、スハンも舞台好きならおお!と飛び上がる絶妙なキャスティング。ODカンパニーのキャスティング力は本当にすごいと思います。いつも信じてる。

陰キャのホンイソンと素敵すぎるウンイソン



おすすめポイントその②:アンサンブル

直前までメイン3役しか公表されなかったし、上演会場が中劇場クラスだったので、3人劇なのか?と思っていたのですが、蓋を開けてみたらびっくり。総勢20名弱の個性豊かなアンサンブルが、一人ひとり役を生きているではないですか。
オペラ歌手を夢見ていたアメリカ人宣教師、美しい声でイソンをオペラをいざなった女学生、イタリア語を翻訳する女学生と彼女と恋に落ちる気難しいピアニスト、バイオリニストの日本人学生シンイチ・・・彼らが繰り広げるサイドストーリーも面白く、それぞれの思いが作品中に丁寧に表れているのがとても素晴らしいと思いました。
タイトルにも書いたように、この作品はメインキャスト3名を含む群像劇だと捉えるのが正しい気がします。
この作品は初見が宝物になると思うのですが、2回目以降はサイドストーリーにもしっかり目を向けることができるので、スルメ的にも楽しめる作品だと思います。

キャスト多いじゃん!ってなったキャストボード

おすすめポイントその③:伏線だらけのストーリー

そう、この作品は初見が宝物になります。
韓国のミュオタの皆さんも、それを痛いほど分かってるからSNSやブログには詳しい内容はほとんど書いていません。なんて優しい世界。
私も詳しくは書かないですが、観終わった後に劇場から踏み出した瞬間、目に入る殿堂の垂幕を見て涙があふれること必至。宣材に使われてるイメージや舞台セット、小道具、色んなところに伏線があるので、ぜひ上演中は隅々まで目を光らせて観劇してください。
ちなみに上演会場である芸術の殿堂トウォル劇場、会場全体が半円形で奥行きがあって、ダイナミックに回転する舞台が売りなんですが、全く回転する様子がなく。あと生演奏なのになぜかOP席が売られている。なんでだ?と思ってたこの会場への疑問も、すべて作品中で回収されました。本当によくできた作品。
よく韓国の大劇場作品は粗が多いとか歌でねじ伏せるとか言われてるのを見かけますが、こういう作品もあるということが広く認知されるといいな。

終演後に観ると泣ける垂幕

おすすめポイントその④:美しい音楽

バンジージャンプする』や『メイビー、ハッピーエンディング』を観たことがある方ならお分かりかと思いますが、ウィル・アロンソン&パク・チョンヒュコンビの曲って、耳に残る美しい旋律が多いんですよね。韓ミュといえば強くて圧がある曲が多いと思われてる傾向がありますが、こういう湿度を感じる曲もたくさんあるんです。
特に作品のキーとなるオペラ『夢見る者たち』の愛のアリアは、作品中随所に散りばめられていて、それが最後のシーンで全て収束していきます。終演後もずっと耳から離れないアリア、一度観た後にこのティーザーみると感情大爆発するので試してみてください。


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この冬はライセンス作品の大作が豊作だからか、感想見たくてエゴサしても、「イルテノーレ観ました!」っていう方が少なくて寂しがっているオタク。実は韓国では直前に色々あって不買運動が起こってしまい、普段は全然取れないキャストなのにチケットも取りやすい状況なんです。ただ最近は評判が評判を呼んで、ミュージカルファンじゃない一般の人にチケットが売れている様子。
2月25日までやってるので、韓国まで足を延ばした際にはぜひとも観ていただきたいです。そして観た人たちであーだこーだネタバレ含めて語れたらうれしいな。

私もあと1,2回は観ると思います。そのあとはヘドウィグに向けて色々と整えていく所存です。2024年も忙しくなりそうですね。

文学会のアジトを模したフォトスポット

 

*1:NtoNのゲイブ、シラノのクリスティアンといった正統派(?)からキンキーブーツのローラ、デスノートリュークといった色物まで本当に何でもこなす。ちなみに高校生の頃に現代舞踏を学んでいたのでめちゃくちゃ踊れるらしい。

*2:体感ジキハイ以来

オペラ座の怪人と私~釜山編

相変わらずアウトプットが追いつきません。エリザやJCSのあれこれも書きたいし、デスノートアンコール公演についても色々書きたいことはあるけれど、とりあえず2023年上期を捧げたこれを先に。

オペラ座の怪人が13年ぶりに韓国で再演!
しかも!推しが!ファントム役に!!
私が記憶がある中でおそらく一番最初に観たミュージカル。世界中にコアなファンがいる、あの名作中の名作に、ドンソク氏が?
デビュー前から応援してたアイドルが東京ドーム公演やる気持ちって、こんなだろうか。
しかも、チョスンウ先輩がいる。これはレジェンド演目になるに違いない。

一年で一番忙しい年度末やら突然の転勤引っ越しやら、目が回るような忙しさと並行しつつ、チケッティングやら飛行機ホテル手配やらをこなし、定番となった月曜朝帰りパターンで、仕事に穴をあけることなく前半の釜山公演をプレビューから楽日まで見届けることができました。

厳しいライセンス作品なので、舞台セットも演出も曲も全てオリジナル準拠なのに、そこはかとなくダダ洩れる感情の渦。遊びの部分がないから1,2回観たら満足するかなって思ってたのですが、予想を裏切る俳優陣の熱演と、キャストごとに全く色が違うファントムのせいで、気がついたら回数増し増し。
8月からはファントム役にジェリム先輩が加わり、4か月間のソウル公演が始まります。頼むから舞台を愛する皆さんに観ていただきたい。あなたが知っているオペラ座とは違うオペラ座が、そこにはあります。

今回はスケジュールの都合でジュテクファントムが観られなかったのですが、そのほかのメインキャスト陣について感想をつらつら書かせていただきます。

ソン・ジス(クリスティーヌ・ダーエ)

通称ジスクリ。ジスさんは本業の声楽家。ソウル大声楽科を主席卒業→イタリアに留学→現地でオペラデビューという、輝かしい経歴の持ち主。ミュージカルは初出演。
とにかく歌が素晴らしい。小さな体のどこからそんな声が?という声量で、難解な旋律を天使の声で歌いこなす、まさにリアルクリスティーヌ。
初期のころは、歌が動きに先行する感じでぎこちなさも感じたけど、後半は上手く動きに感情も乗せてきていて、安定感抜群。釜山のスンウ先輩とのペア楽が本当に素晴らしくて、クリスティーヌのファントムへの愛や迷いが手に取るように伝わり、スンウファントムの切なさと相まって号泣しました。
あと、他の俳優陣がみんな体格がいいから、それに合わせるために一生懸命舞台を走り回るジスクリが可愛いの!特にマスカレードのシーン。ちょこちょこちょこって小さい歩幅で必死にラウルを追いかけてて、がんばれ!って応援したくなる。
後半のソウル公演ではもっと良くなるだろうな。個人的には歌唱対決が見られるドンソクファントムとの組み合わせがお勧め。

ソン・ウネ(クリスティーヌ・ダーエ)

通称ウネクリ。延世大学声楽科出身。ポッペラというポップス+オペラを組み合わせたジャンルの歌手として活躍していて、YouTubeチャンネルもあります。
ミュージカルデビューは2018年エリザベートのアンサンブルだったとのことで、もしかしてと思って当時のキャスボ見てみたら、いた!!

ここからヒロインに抜擢されたことを思うと、主役級も完全オーディションの実力主義社会の凄さを感じます。
ウネクリはとにかく感情表現が豊か。クルクル変わる表情に白くて赤ちゃんみたいなプニプニさがとても愛らしい。見てるとこっちもニコニコしてきちゃう。その上に恵まれた体格で、めちゃくちゃ生命力を感じるクリスティーヌ。ラウルの助けがなくともオペラ座地下から生還しそう。特にスンウファントムとの組み合わせではこのペアだけで観られる演技のディテールも多く、オペラ座ってこんなに感情のやり取りあったっけ?って思わせてくれます。2幕後半は1秒たりとも見逃せない激しい感情の応酬。
ウネクリのおかげで、クリスティーヌからファントムへの愛情の深さを感じることができたし、それが恋の類ではなく親に対するものと同類なのだと腹落ちしました。
もちろん歌も文句なし。釜山千秋楽ではThink of Meラストの高音を伸ばして歌い上げていて、会場から拍手が沸き起こってました。

ソン・ウォングン(ラウル)

ウォングンさんがラウル!と話題騒然だったキャスティング。最初に発表されたときはファントム役だと思ってた。そしてジュテクさんがラウル役だと思ってた。
スリルミーの彼役やStory Of My Lifeのトーマス役、Daddy Long Legsのジャーヴィス役などで有名なウォングンさん。ちょうど釜山公演中はソウルでやってたRed Bookとかけもちで、毎回カテコでは心配になるくらい憔悴してたけど、無事に釜山公演駆け抜けました。
大人でしっとり落ち着いた雰囲気のウォングンラウル。スンウさん以外のファントム3俳優より年齢も上で、包容力抜群。Think of Meでクリスを発見したときも、隣に座ってるマダムに丁寧にお願いしてオペラグラスを拝借。ジェントル。
そしてウォングンさん、こんなに歌えるなんて知らなかった。元々ファッションモデル→歌手→俳優という異色の経歴で、韓国中の声楽家が応募したというオーディションでラウル役を勝ち取った実力。これまでの出演作ではそんなに歌い上げる曲がなかったからなのか、私が気づかなかっただけなのか。
釜山の楽日に偶然退勤に遭遇したのですが、公演期間中に3度目のコロナに罹患して大変な思いをしたとのこと。キャストも関係者も細心の注意を払っていて、本番以外は全員マスク必須。特にファントム役の俳優は仮面の上からマスクするから大変だそうです。そんな厳戒態勢の中、毎回素晴らしい公演を見せてくださることに感謝しかないです。ソウル公演も無事に乗り切れますように。
ところでウォングンさん、IUの日本デビュー曲のMVに出てたの知ってました?私最近知ってめちゃくちゃびっくりした。アイドル歌手の名残を感じる素敵なお姿。
参考資料

youtu.be

ファン・ゴナ(ラウル)

TV「ファントムシンガー3」で一躍有名になったゴナさん。
187cmの長身、彫刻のようなお顔立ちに、音域の広いバリトンボイス。これは人気がでないわけがない。事実、プレビューを観たドンソクファン(私も含む)が口々に「あの子は誰???」と騒然としてた。
ゴナラウル、とにかく熱い。お友達が「修造ラウル」と呼んでいた。熱血。
Think of Meでは隣のマダムのオペラグラスを無理やり奪い取り、立ち上がってクリスに嵐のようなブラボーを送る、強火オタクの様相。四季版でのマスカレードのクリス肩乗せ、韓国版にはないのですが、ゴナラウルなら絶対できるからやってみてほしい。
若くて自信と勢いがあって常に目に炎を燃やしてる感じ、特に陰の部分が目立つスンウファントムとの組み合わせだと、ファントムの悲しさをより一層引き立てて最高。
一方、自信溢れるドンソクファントムとの組み合わせでは、バリトン同士のマッチアップが最高。墓場のシーンでは天下一武闘会みたいな波動の飛ばしあいで、間に挟まれるクリスティンが心配になるくらい。この二人の「ただ一つの未来」(フランケンシュタイン)を聴くまで私は死ねない、オタクはそう思ったのであった。

チョ・スンウオペラ座の怪人

ずっと噂はあったし期待はしてたものの、現実になった瞬間「チケット取れるのか…?」という不安に襲われたスンウ先輩ファントム。開幕前からレジェンド公演だと言われたキャスティング。そしてその期待を上回るものを見せてくれるチョ・スンウという人。本当に恐ろしい。
スンウ先輩の魅力は歌そのものよりもその演技と存在感なのだけれど、今回は第一声を聴いた瞬間、鳥肌立ちました。もんのすごく歌が上手くなっている…!!声楽家揃いのファントムの中、ものすごいプレッシャーで、直前まで歌の特訓に励み、幕が開けるまで不安で仕方なかったというスンウ先輩。努力を惜しまないからこその実力と人気なんですね。
深みを増した歌声に乗せて紡がれるファントムの感情。最後のシーンで静かになった会場のそこかしこから聞こえるすすり泣き。オペラ座の怪人って、こんなに感情移入する物語だったっけ?私たちは何を見せられたのか?終演後に魂抜かれてフラフラと夜道を歩いたプレビューの夜がまだ忘れられません。
でも実はプレビューから楽までに一番演技が変わったと感じたのがスンウファントム。プレビューでは子供っぽく、人と触れ合ったことがない、コミュ障の極みのようなキモオタクファントムだったのに、次に観たときは、人の恐ろしさを知り尽くして人を避けているような、愛を拒否して生きてきたような悲しく切ないファントムになっていて愕然としました。兄ちゃん、この人の引き出しいくつあるん?
そしてなんといってもチョユリョン*1と言えば、細かすぎる演技。今回も小道具の使い方から吐息の使い方や間の開け方、指先から足先の動きに至るまで、舞台にあるものを一つも無駄にせず使いこなす職人技。
クリスとラウルが屋上で互いに愛を告白するシーンで隠れている大天使像をユラユラ揺らしたり、墓場のシーンでは火の玉を出す箇所にこだわってたり*2、その火の玉で舞台に火をつける流れにしてたり、ドンファンの勝利で指先だけで喜怒哀楽を表現したり(北島マヤもびっくり)、マネキンをどかして椅子に座るシーンでマネキンとワルツ踊ったり、クリスが脱ぎ捨てたブーケを大切に扱ってたり。
私が一番ハッとしたのは、ラストシーンでクリスがファントムにキスしたとき、クリスがチョユリョンの右頭の大きな傷に触れるんだけど、その手をそっと外して袖口でクリスの手のひらを拭うんですよ。まるで、汚いものに触れた手を浄化するように。初期の頃はしていなかったので、初めてそれを見たときは頭をぶん殴られたような衝撃を受けました。
チョユリョンにとってクリスティーヌは正に穢れなき天使で、触れようとしても触れられないディテールが1幕からそこかしこに見られるんですが、最後にそんな伏線回数してくるなんてさーーー!!ずるいよ!泣くしかないよ!どちらのクリスティンもチョユリョンのときだけ傷に触れるので、スンウ先輩ならではの演技プランなのでしょう。
指輪を返すために戻ってきたクリスを泣きながら見送った後、マスカレードを演奏する猿オルゴールに笑顔で駆け寄り抱きしめるんだけど、この一瞬で、オルゴールが彼の唯一の友達だったんだって観客に理解させるのよね。そしてその後椅子に消える前、被ったマントを一度剥がし、最後に猿の頭を優しく撫でて消えていくのです。書きながら思い出して泣いてます。
私は幼い頃から四季版を観ていて、ファントムはクリスとラウルの幸せを引き裂く恐ろしい存在だと思っていたのですが、こんなに悲しく憐れなファントムがいたなんて。ここまで怪人に心を寄せる演技ができる俳優は、きっと世界でチョ・スンウだけだと思う。世界中のオペラ座ファンに観てほしい。チケット取れないけど。
チョユリョンといえば、他キャストと違って唯一右手に指輪を着けてるんですよね。キョンシー扮装で作曲してる時とか、地下にラウルが乗り込んできたときとか、心に迷いが生じたときに指輪を触るんだけど、なんで右手なんだろう。左手の方が観客には見えやすいし、だから他のキャストも左手に着けてるんだと思うけど、スンウ先輩のことだから何か深い意味があると思う。誰かインタビューで突っ込んでみてほしい。
そしてスンウ先輩について要注意なのは、彼の演技は毎回変わります。観るたびに新鮮な驚きと感激があります。チケットをください。
まだまだ書き足りないけど、ひとまずここまで。

チョン・ドンソク(オペラ座の怪人

いや、ファントムなのに顔良すぎ。逆にハンデ。
別作品とオーディションが重なって迷ったと話していたけど、選んでくれてありがとう。
プレビューで1幕が終わった瞬間、隣の女子二人連れが「演技はチョスンウ、歌はチョンドンソク!」って同時に叫んで周りがみんな笑うという出来事があったのですが、ドンソク氏の声楽発声をここまで思う存分堪能できるミュージカル作品は他にないでしょう。とにかく歌が凄い。前方席ではマイクを通さない生声が直で響いてきて、クリスティーンを歌声で虜にしたという劇中の設定を実体験してしまった。歌ってないはずのレッドデスでも歌声聞こえたんだけど、音源じゃなくて生歌に変更したのか、音源に生歌が勝ってしまっていたのか、真相は不明です。
ドンユリョンは自信家で激情型。でもふと見せる弱さが子供のようで、見た目の輝かしさと不器用で繊細な内面とのギャップが哀れみを感じる…ってあれ?この感じどっかで観たな?と思ったら、そりゃそうだ、コピット版ファントムで観たやつだ。

他に両ファントムやったことある俳優さんっているのでしょうか?両方演じてみてどうだったか、ぜひ感想を伺ってみたい。
ドンユリョン、クリスの前ではひたすら強く恐ろしいのに、たまに見せる優しさがずるい。花嫁衣裳のマネキンに驚いて倒れたクリスにそっとマントをかけて顔を撫でるところとか、ドンファンの勝利でクリスにそっと指輪をはめて愛を語るところとか(王子?)、DV男のそれである。チョユリョンが大切に扱うマネキンも、ドンユリョンは壊れるんじゃないかって勢いで床に投げ捨てるので、毎回ハラハラしてました。
あとね、クリスに「偽善者!信じてたのに!」って言われた後、顎クイしながら「俺を試すな…」って呟いた時、私の中の何かが爆発した。あのズラと特殊メイクにすら打ち勝つ美しさ、俳優として本当に不利だと思う。
そしてドンソク氏、気持ちが乗ってくると色々なことをやり始めるので、目を皿のようにして見張っていないと見逃してしまう。最後のシーンでクリスから返された指輪にそっとキスしたり(観客に背を向けて)、椅子に消える前、マントを被った後に悲しそうに微笑んでいたり(下手前方じゃないと物理的に見えない)、今回も観客から見えない演技がご健在。舞台としてはもっと分かりやすくやるのが正解なんだろうけど、中の人の感情のままに演じてるのがわかるし、毎回ボロボロになって泣いているので、身を削って役に入っているのだと思います。
緻密な演技プランがあるスヌユリョンと、感情のままに演じるドンユリョン、ここでも違いがはっきりしてて面白い。釜山後半ではスヌユリョンみたいに大天使を揺らすのもやっていたので、ソウルではもっと色々やってくるのではないかと期待しています。
細かい萌えポイントを言い始めるとキリがないので、こちらもこの辺で。

 

以上、超主観的な感想でした。お付き合いいただきありがとうございました。
釜山公演はスンウ先輩ではありえないくらい簡単にチケットが取れたし、経験したことがないくらい前方席で観ることもできたし、食べ物もおいしかったしアクティビティも楽しかったので、バスの運転が荒い以外は大満足でした。
ソウル公演は全キャスト平日も完売状態なので、まずスタートラインに立つことが難しい状況ですが、オタクのみんな、戦いを乗り越えてまたソウルで会おうな。
最後は釜山の思い出写真で締めくくり。

コラボしていた海雲台の海辺列車
コラボしていた影島のカフェ
釜山ドリームシアター入口
劇場内のフォトスポット

劇場1階のトイレ。そこかしこがオペラ座仕様。

 

*1:韓国語では怪人=유령(ユリョン;幽霊)という

*2:髑髏の目と口から火の玉を飛ばすのですが、目と口とでおそらくスイッチが違うようで、それを確認しながら右目→左目→口の順番で飛ばしていた

韓ミュ限界オタクの一人渡韓術

渡韓への制限が一切なくなり、コロナ禍に韓国コンテンツにハマった周囲の皆さんから「いつもどうやって行ってる?」と相談を受けることが多くなってまいりました。
私は計画性が無い上に目的が観劇メインなので、常に時間との勝負旅。情報がかなり偏ってるし、一般の旅行客を楽しませる自信などない。というわけで毎回「旅行会社の安いツアーで十分ですよ」という当たり障りのない返答で凌いでいます。
しかし、ふと思ったのです。私のニッチな情報は、ニッチな誰かのお役に立てるかもしれない。そして、私が知らないニッチ情報を、世のオタクたちはまだお持ちかもしれない。
というわけで、今回は限界オタクの一人渡韓術について書いてみたいと思います。私はこうしてるよ!とか、お得なTIPSあるよ!というみなさん、ぜひツイッターまで情報をお寄せいただけると嬉しいです。

 

1.飛行機予約

私はとにかく安さ重視なのでLCC一択。まずはスカイスキャナーでその時期の相場感を確認し、googleフライトで価格推移を確認します。海外航空券は購入するタイミングで値段が変動するのですが、googleフライトで大体の底値が把握できます。
フライトに目星をつけたら、あとはスカイスキャナーで安いサイト*1から購入。

ちなみにeチケットは印刷せずスクショ。スクショが溜まっていつの分のエアかわからなくなること多数。良い管理方法あったらご教示いただきたいです。
マイル使うという選択肢もあるのだけど、結局サーチャージ*2と空港使用税は別途支払いになるから、チケット代自体が安い韓国便だとあまりお得感がないんですよね。せっかくならハワイとか行きたい。オタク行く暇ないけど。

2.ホテル予約

①劇場にアクセスが良い場所に目星をつける
・江北地区*3:世宗文化会館、国立劇場、忠武アートセンター、大学路地区などの場合→東大門付近。
・江南地区:芸術の殿堂、シャルロッテシアター、COEXなどの場合→新論峴、江南、三成付近。
・ブルースクエアの場合→東大門か新論峴、江南。
複数作品をマチソワではしごする場合も、上記の場所が拠点なら地下鉄でもバスでも移動可能。マチネ前の午前中や、ソワレ後の遅い時間でも、買い物や食べ物に困らないので気に入ってます。

②①で目星をつけた地区のホテルをネットで検索する

まずはエクスペディアの地図検索でよさげなホテルをピックアップ。候補を絞ったら、トラベルコで金額を比較。場合によっては、飛行機チケットを購入したサイトでまとめて予約すると割引が大きい場合もあるので、その金額も確認。そのうえで一番安いサイトから予約します。

というのが流れなのですが、実は私も含めて多くの観劇オタクは東横インの怪人。東横インクラブカードを作って公式サイトから予約すると、10泊で1泊無料になるからです。国内遠征や出張もあるオタクにとって、10泊なんてあっという間。パジャマも貸し出し無料だし、いざという時に日本語通じるという安心感もあるし、ホテル内で売ってるお酒がコンビニより安い。最近は人気過ぎてなかなか予約取れないのが難点。東横イン東大門1の復活求む!

釜山の東横インにはご当地のおいしいマッコリ(福順都家)も売ってる。

3.Wi-Fi

ルーターを借りる、SIMを買う、eSIMを買う等の選択肢がありますが、私は最近はeSIM一択。貸し借りの手間がかからないし、SIMの抜き差し不要だし、何よりSIMを無くす心配がないのがいい。難点は日数の単位が限られているので、ルーター借りるより高くつくこと。でもギリギリで生きている限界オタクにとって時間は最優先ですからね。
あと、SIMかeSIMなら、受信通話可能プランを選ぶと電話番号がもらえるのも良い。最近はお店のウェイティングとかカフェの注文とかもSMSでやることが多いので、番号があると何かと便利です。*4
限界渡韓オタクの中には、追加費用無しで海外利用できるahamoユーザーも多いです。ただし韓国で何かのサイトに登録するとか、予約するとかの場合、010で始まる電話番号じゃないと弾かれる場合もあるので、その場合はやっぱりSIM系が便利かも。

3.両替

キャッシュレスが進んだ韓国ではほぼ現金使わないし、使えない店も多い。とはいえ何かのときのために多少の現金は持っておきたい。でも両替のために時間はかけられない。というわけで私は、両替もチャージも簡単にできて、どこでも使える WOWPASS派です。ソウル市内なら至る所に機械があるし、最近ついに仁川空港にも機械が設置された模様。釜山にもいくつかある。レートもまあまあ良いし、Tmoneyカードとしても使えるから、これ1枚持ってればまず困らない。残高不足の備えとしてあとクレカ1枚持ってれば、まず困ることはないと思います。

両替について面白い記事があったのでシェア。両替所までいく時間と交通費考えたら、大金を両替することがない限り、ギリギリで生きるオタクは手軽さを選びます。

news.yahoo.co.jp

4.仁川空港⇔市内の移動

江北地区なら空港鉄道、江南地区ならリムジンバス。
空港鉄道はソウル駅までノンストップの直通電車と各駅停車の一般電車があるのですが、かかる時間は15分くらいしか違わないのと、直通電車は40分に一本しかなくて料金は一般電車の倍(直通1,000円、一般500円程)なので、一般電車に乗ることの方が多いです。まあ乗る時のタイミング次第かな。ちなみに直通電車に乗る場合は事前にコネストとかで予約したら割引になります。当日でもOK。

www.konest.com

リムジンバスは日本円で2千円くらいかかるけど、路線が多くてホテル近くまで運んでくれるのでとってもラクチン。江南地区なら電車より早いし。渋滞さえなければ。
そう、空港→市内のリムジンバス乗る場合に要注意なのが、夕方の大渋滞。移動時間帯が17時〜18時台にかかる場合は、大変でも電車使ったほうがいい。通常は仁川→江南まで1時間ちょいだけど、渋滞に巻き込まれると2時間超かかる場合も。推しのコンサートに遅刻しそうになって発狂しかけたオタクからの忠告です。
バスの路線と時刻表はNAVER地図*5から確認します。

5.荷物どうする問題

時間に余裕があればいったんホテルにチェックインするか、ホテルに荷物だけ預けて出かけられるけど、ギリギリで生きる私の場合、空港から劇場に直行することもしばしば。その場合は空港からホテルに荷物運んでくれる有料サービスを使うこともあります。色んな会社があるけど、今度使ってみようと思っているやつ。

news.yahoo.co.jp

ちなみに配送サービスを依頼する時間すらない場合は、根性で持ち運んで劇場クロークに預けます。結局のところ頼れるのは体力と根性。

6.ごはん

韓国は一人飯が一般的ではないので、一人だとどうしても粗食になりがち。でも私は絶対に諦めない。ホテルでカップ麺は最終手段なのだ。

①お店に食べに行く
前述のNAVER地図で”맛집”(マッチプ。「美味しい店」の意味)と周辺検索し、心惹かれる店を調べる。そして現地に赴き、元気に「一人でも大丈夫ですか?」と尋ねてみる。韓国のお店は2人前からじゃないと注文できないお店も多いので、場合によっては2人前注文してモリモリ食べる。満足。

②持ち帰る(포장 ポジャン)
元々食べ物をなんでも持ち帰れる文化がある韓国ですが、コロナ禍以降、より一層お持ち帰り文化が発展した印象。以前は珍しかったお弁当屋さんもチラホラ見かけるようになりました。
夜遅いときや部屋でゆっくりしたい時なんかは、お店で元気に「持ち帰りにできますか?」と頼んでみる。アツアツの汁物以外は断られたことない*6です。

③ホテルに出前(배달 ペダル)
出前超大国の韓国、コロナ禍以降は一人飯の出前メニューも増えてます。注文はアプリから。日本でメジャーなUber Eats同様、カード決済で指定場所まで届けてくれます。
ペダルアプリたくさんあるんですが、外国人でも使えて一番メジャーなのが”요기요”(ヨギヨ)。最近”Shuttle”という英語表記のアプリもあるらしいので、今度使ってみようかと。持ち帰りより高くつくのが難点。

7.帰国

当方カレンダー通りに働く会社員なので、週末渡韓がほとんどなのですが、せっかくなら日曜も観劇したい。でもそうすると日曜中に帰国できない。しかしプロリーマンオタクとして、仕事に穴をあけることはできない。なので月曜早朝便で帰国して出勤するのが常です。
そんな時によく使うのが仁川空港第1ターミナルにあるカプセルホテル”다락휴”(ダラクヒュ)。綺麗で静かだし、シャワー付きの部屋もある。起きてすぐチェックインできるの最高。

www.walkerhill.com

江南地区なら朝3時台からリムジンバスあるのでそれを使う場合もアリ。早朝なら1時間くらいで着く。

午後便以降で時間ギリギリまで市内で遊びたい場合は、都心空港ターミナルを使うこともある。前はCOEXにもあったんだけど、今はソウル駅のみ。ソウル駅の専用カウンターで仁川空港出発便のチェックイン&手荷物預けができて、空港でも専用入り口から出国できるので超便利。対象航空会社も増えてるみたいだし、またCOEXも再開してくれると嬉しいです。

www.konest.com

ちなみに韓国から直行出勤の場合はスーツケースは預けず、前方通路席を指定予約。
着陸した瞬間から私の戦いは始まる。シートベルトサインが消えるや否や立ち上がり、スーツケースを取り出し、乗客列の最前を陣取る。ドアが開いた瞬間、無表情でスーツケースを引きながらダッシュかまし、入国ゲートと免税ゲートを瞬殺した後、タクシーに飛び乗る。そして何事もなかったかのように出勤するのだ。いつかプロフェッショナルで特集してほしい。

8.一人渡韓に関する情報収集

一人でも行けるご飯屋さんとか、時間潰せるカフェとか、その他お役立ち情報は、ツイッターの韓国整形アカウントさんを参考にさせていただくことが多いです。コロナ禍の彼らの情報は大変有益で、たくさん助けていただきました。
特に江南地区の情報は豊富だし、周辺知識もかなり習得できた気がする。人中って縮められるんだな、とか、〇〇病院の△△先生は鼻が得意、とか。

 

誰の参考になるかわからないけど、私の場合はこんな感じです。気力と体力が続く限り頑張りたいと思います。
そのうち劇場周りのおいしいお店とかみんなで共有できたらいいな。

*1:安くてもトラブル防止のため、評価が悪いサイトや日本語対応していないサイトからは買わないようにしている。

*2:サーチャージの見直しは基本2か月ごと。偶数月に変更される場合が多いので、購入のタイミングが重要。

*3:ソウル市内は漢江を挟んで北を江北、南を江南地区と呼ぶ。

*4:韓国の電話番号は使いまわしなので、直前まで誰かが使ってた番号に当たる場合もあり、前の持ち主宛の電話やらSMSが頻繁にくる場合もある。私も過去1回だけ当たった。

*5:渡韓民必須アプリ。日本語対応版もあります。

*6:石鍋で出てくるスンドゥブチゲは断られた

ミュージカル『ベートーヴェン』は何を伝えたかったのか

お久しぶりです。前回の記事からあっという間に半年過ぎててびっくりしました。冬の日韓エリザベートミルフィーユ観劇以降、アウトプットが全く追いついていませんが、マイペースで観劇オタクを続けています。

先日、韓国EMKプロダクション制作の『ベートーヴェン』が日本でも上演されるという発表があり、キャストの豪華さにびっくりしました。韓国のキャストもすごかったけど、日本でこれだけ揃うのも珍しいですよね。

www.tohostage.com

日本版はセミレプリカ公演ということなので、韓国版をベースにしつつ、多少改変が加わる感じでしょうか。というわけで、日本版の予習も兼ねて、今回は私が韓国で観てきた『ベートーヴェン』についてご紹介したいと思います。
※極力ネタバレは避けてますが、情報を入れたくない方は回れ右でお願いします。

概要(韓国namuwikiより)

ドイツの作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの一生を描いた、韓国EMKミュージカルカンパニーの5作目*1の創作ミュージカル。著作権はEMKに所属。
モーツァルト!』や『エリザベート』でおなじみ、劇作家ミヒャエル・クンツェと作曲家シルベスタ・リーヴァイコンビによる作品。クンツェとリーヴァイがこの作品を企画した際、7カ国の製作会社が立候補したが、EMKミュージカルカンパニーが最も適したプロダクションとして選ばれた。
制作期間に7年を費やし、企画段階から海外進出を想定して舞台やセット構成などが創作された。初演前から多くの海外製作会社からの反応があり、プレビュー期間中、世界中のプロダクションが訪問した。
フランケンシュタイン』『ベンハー』『英雄本色』などを演出して人気を博した演出家ワン・ヨンボムと、主にオーストリアやドイツなどで活躍する演出家ギルバート・メマートによる共同演出。音楽監督はキム・ムンジョン。
2023年1月12日から3月26日までソウル芸術の殿堂オペラ劇場で上演後、楽曲を多少改変し、シーズン2と題して4月14日から5月15日までソウル世宗文化会館大劇場で上演された。全編がベートーヴェンの楽曲をベースにした音楽で構成されている。

初演とシーズン2のポスター

予告映像


www.youtube.com


あらすじ

「不滅の音楽、不滅の愛」
19世紀オーストリア・ウィーン。
音楽の都市において当代最高のピアニストであり作曲家として名声を博していたベートーヴェンだが、幼い頃から父の暴力と虐待の中で育ち、愛や人を信じられないまま孤独に生きていた。彼が作った音楽は喝采を浴びて評価される一方、本人には冷たい視線と冷笑がつきまとう。
ある日、ベートーヴェンは自分に無礼を働いた貴族たちに謝罪させようとキンスキー君主を訪ねた際、偶然アントニー・ブレンターノに出会う。愛を信じないベートーヴェンと、一度も愛を感じたことがないトニーは、互いに好感を持つようになる。
ベートーヴェンは聴力を喪失する不治の病の診断を受けて絶望に陥るが、トニーと互いに心の傷を伝え、慰めあううちに、嵐のような恋愛関係におちていくことになる。
しかし彼らの秘密の関係は世間に暴かれることとなり、トニーは自分の家族が傷つくのを恐れてベートーヴェンとの出会いを拒否することになる。
愛するトニーを失ったベートーヴェンはついに聴力を喪失し、人生が暗い影に飲み込まれていくのだが・・・

 

登場人物

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
42歳。当代最高のピアニストで有名な芸術家。厳格な性格で自分の名誉を重要視し、慣習を強要されることを容認しない。誰かに愛されることを想像すらできず、頑固で激しい態度に自身の臆病さを隠し、ただ芸術的才能だけに頼って生きている。聴覚を喪失して絶望に陥り、人生の危機を迎える。

アントニー・ブレンターノ(トニー)
32歳。芸術を愛し、エレガントで魅力あふれる女性。フランクフルトに住む15歳年上の銀行家・フランツと、17歳で政略結婚し、4人の子を儲ける。貴族である父の遺産を整理するためウィーンに滞在。本当の愛を経験したことのない自分の人生に虚しさを覚えていたが、ベートーヴェンとの出会いにより、心が癒されていくことを感じる。偉大な芸術家ではなく、人間ベートーヴェンの内面の傷と孤独に深く共感し、彼を通して真実の愛とは何かを悟るようになる。

・ベティーナ・ブレンターノ
自然を愛し、詩を書くのが大好きな女性。幼い頃、ドイツの詩人ゲーテに送った手紙で有名になった彼女は、詩人になるというロマンチックな夢を持っている。フランツの妹でありトニーの義理の妹。トニーを訪ねてウィーンに滞在し、トニーがベートーヴェンと恋に落ちるのを見守り、その熱病のような愛に理解を示すが、フランツとの結婚生活が壊れることを懸念し、トニーを裏切って兄にすべてを打ち明ける。

・フランツ・ブレンターノ
47歳。トニーの夫であり、成功した銀行家。人生の優先順位は家族よりもお金。トニーとの結婚も成功のためにしたものであり、契約として割り切っている。トニーの父の遺産を独占しようと目論んでいる。妻に無関心であり、新しい仕事の話が来ると、トニーとオペラに行く約束を破棄する。常にトニーを服従させ、彼女の芸術性は認めず、役に立たないものと考えている。

・カスパー・ヴァン・ベートーヴェン
36歳。ベートーヴェンの弟。芸術家である兄を献身的に支える。素直で純粋な性格で、天才的な兄の才能を尊敬し愛している。ヨハンナと恋に落ちるが、ベートーヴェンは彼女の評判が悪いと反対する。兄に対する愛情を持ちながら、ヨハンナへの愛を貫くため兄に逆らうことを決心し、兄弟は別々の道を歩むこととなる。

・パプティスト・ピジョック
35歳。欲望に溢れた弁護士。どんな対価を払ってでも勝者となることを望む。良心の呵責を感じず、自分の才能を使って強者を説得し、弱者を冷酷に脅す。

・フェルナンド・キンスキー君主
多くの財産と富を有する40代半ばの貴族。芸術を愛する温厚な性格で、高度な教育を受け、音楽に対する造詣も深い。楽器を演奏する実力も備えており、芸術を広く世に普及させようとする献身的な精神の持ち主。彼のパーティーには著名な貴族たちが招待される。財産管理は他人に任せている。

・ヨハンナ・ライス(ヨハンナ・ヴァン・ベートーヴェン
29歳。ウィーンの工芸家の娘で、様々な男と噂を流し,、父の金を盗んで逃げたという噂があるなど、きな臭いところがある女性。飛び降りて人生を終えようとしていたところ、偶然通りかかったカスパーに引き留められて一命をとりとめる。 その後、ヨハンナに一目惚れしたカスパーと結婚を約束する。

・音楽の精霊
ベートーヴェンの内面に存在する音楽が擬人化された精霊。叙情的でドラマチックなベートーヴェンの音楽を踊りで表現する。メロディックス、ハーモニー、フォルテ、アレグロ、アンダンテ、ピアノの6人の精霊で構成されている。


韓国キャスト紹介(個人的視点)

ベートーヴェン(左上から時計回りに)

・パク・ヒョシン
別名・ヒョ神様。どんなに大きな会場でも一瞬で雪原状態*2にする人気と実力の持ち主。EMKの切り札。笑う男に続く登板。高音で独特な細かいビブラートと圧倒的な音圧で、どの作品を観ても「ああ、ヒョ神だな」という満足感を得られる。ミュージカル出演多数だが本業は歌手で、中島美嘉の「雪の華」のカバーでも有名。

・パク・ウンテ
どの作品のどんな役でも母性と神々しさがにじみ出てしまう、韓ミュ界のマリア様。彼が流す涙の美しさは世界一。音圧で押すタイプではないが、広がりのある高音と包み込むような優しい声色、時には鋭いシャウトや威圧的な低音など、多彩な表現ができる実力の持ち主。

・KAI
声楽出身の正統派。美しく伸びのあるバリトンボイスで、クラシックを歌わせたら世界一。ストイックで真面目な性格で、それが役でも随所に感じられる。日本が大好きで愛読書はベルばらとの噂。EMK所属。

トニー(左から)

・チョ・ジョンウン
情緒的で湿度のある声と雰囲気で、愁いを秘めた役をさせたら世界一。別名天女様。

・オク・ジュヒョン
別名・女帝。どこまでも地声で歌い上げる音圧オバケ。大体会場の屋根が飛ぶ。元アイドル。

・ユン・ゴンジュ
力強くソウルフルな歌声と切れのあるダンスが持ち味だが、今回は残念ながら踊らない。

カスパー(左から)

・イ・ヘジュン
雰囲気があるルックスと抜群のスタイル、美しい低音ボイスの持ち主。大学路で人気を博し、EMKに移籍後はエリザベートのトートに抜擢されるなど、大劇場でも活躍の場を広げている。
・ユン・ソホ
アイドル並みのルックスと卓越した演技力で、大学路から大劇場まで幅広く活躍。

・キム・ジヌク
エクスカリバーで学生アンサンブルとして初舞台を踏んだ後、大学路で活躍。本作でEMKオリジナル作品に再登場。

作品のポイント&感想

※最初にお断りしておきますが、私が観たのは初演のほうで、シーズン2は観ておりません。ただ、多少楽曲に変更があった程度で、大筋は初演と変わっていないようです。

EMKが契約を取った直後から、ずっと「ベートーヴェンをクン&リーでやるよ!」って煽ってて、何かにつけて宣伝し、コロナ禍もあってようやく初演を迎えた本作。豪華キャスト陣を揃え、ミュージカル好きの期待をロッテタワー*3より高くしまくっていたのですが、プレビューから驚くほどの酷評の嵐。

煽っていたころのクン&リー写真。イメージロゴが今とだいぶ違う。

まあ、でも、ね?この目で見るまでは分からないし、まだプレビューだし、ね?という気持ちで、恐る恐る足を踏み入れました。

お馴染み殿堂の垂幕とフォトスポット。ピアノは演奏自由。

ベートーヴェンという題名からして、天才の苦悩と葛藤の物語なのかと思いきや、中心にあるのはトニーとの恋物語モーツァルト!との違いを出そうとしたのかもしれないけど、だったらこれ、ベートーヴェンを題材にした意味はあるの?
トニーの夫やら子供たちやら義理の妹やら悪徳弁護士やら、グランドミュージカルらしく登場人物も多いけど、要素が多くて散漫だし、大劇場のスケール感を全く活かせてない。残念ながら印象に残ったのはキャストの熱演と歌声だけ。

とにかくベートーヴェンの曲を使うことに終始している感じで、キリングナンバーが少ない割に、必要性が感じられないサブキャストのソロ曲(夫とか弁護士のやたら長いソロ)が多く、歌詞も説明調で余韻が無い。
グランドピアノを中心に添えたセットやカレル橋の造形は目を引くものがあったけど、舞台セットはあくまでストーリーへの没入感を高める背景に過ぎないと実感。どんなに豪華でも、物語がなければただの装置に過ぎません。楽譜が舞う中、ベートーヴェンがピアノの上に立って歌い上げたり、オケピに降りて指揮したり、その辺の演出はさすが韓国ミュって感じではあったけど、覚えてるのそれくらい。

あとね、カスパーの出番少なすぎる。シンプルに足りない。人気実力俳優を3人も揃えたのに、これぞ究極の無駄遣い。1幕途中でヨハンナとの結婚を反対されてベートーヴェンと決別した後、2幕後半まで出番なし。サブキャラの夫と弁護士と義妹のほうが出番多い。日本版では出番増やしてくれないと、オタクが暴れるよ?
音楽の精霊の存在も謎で、ベートーヴェンの内なる音楽を擬人化したもの、といいつつ、ベートーヴェンの心が動くシーンでの登場はなく、数少ない作曲シーンで急に表れて踊り狂う。(やたら上手い。)モーツァルト!のアマデ的な存在にしたかったのかもしれないけど、そもそも本作はベートーヴェンを芸術家として描いているわけではないので不要だったのでは。

音楽の精霊とベートーヴェン

厳しいこと言ってますが、ちゃんと3ベートーヴェン3トニー3カスパーともコンプリートした上での感想なので、お許しください。3階席でもチケット1万円以上するんだぜ・・・。
期待値が高かっただけに非常に残念な虚無作品ではあったのですが、主要キャスト陣の熱演はすごかった。いつもなら即完売のはずなのに、チケットの売れ行きも悪く、ご本人たちも相当きつかっただろうけど、彼らのおかげでシーズン2まで何とか乗り切れたと思う。

ヒョ神ベトベンは常に猫背で近寄りがたい偏屈さがありつつも、愛に目覚めた後は純粋さも垣間見えて、愛に飢えた孤独な芸術家がピッタリはまってた。彼が歌えば全てがキリングナンバーと化すため、毎曲ショーストップ。今回もヒョ神観たなあ、という満足感で満たされましたありがとう。
KAIベトベンは中の人のストイックさを上手く生かしつつ、芸術家らしい繊細さも感じさせるベトベン。3人の中で役柄的には一番合ってたと思う。何より、ベートーヴェンの曲+KAIニムの声楽=極上の調べ!耳が溶けそうなくらい幸せで、たぶん私の耳レベルが10くらい上がったありがとう。
そしてウントベン。3キャスト中最後に観たのですが、初めてベートーヴェンが哀れで泣きました。偏屈さゼロの、優しくて包容力あるベートーヴェン。幸せになれる道はあったはずなのに、優しすぎて全てを諦めたウントベン。物語の本筋すら変えてしまう役者の力に圧倒されましたありがとう。

トニーについてはジョンウン天女の一人勝ち。上品で控えめでありつつ、内に秘めた情熱が感じられるジョンウントニー。ドラキュラのミナといい、本当にこういう役やらせたら右に出る役者さんはいない。酷評の中でもウンテさん×ジョンウンさん回の評判は良く、二人の愛を主軸にしたストーリーラインを、最もうまく表現できたペアだったと思います。
女帝トニーは一人で突っ走って生きていけそうだったし、ゴンジュトニーも夫より明らかに強そうだったので、役としてはもったいなかったかな・・・

楽曲については、前述のとおり無理やりシーンにベートーヴェンの曲を当てはめてる感じでイマイチしっくりこなかったのですが、その中でもうまくはまってると思ったのが” 너의 운명 (It's In Your Heart;ピアノソナタ第26番『告別』より)” と"사랑은 잔인해 (LOVE IS CRUEL;ピアノソナタ8番『悲壮』より) "
相当実力ある人じゃないと歌いこなせないと思うけど、3キャストともそれぞれの個性を生かしつつ素晴らしい歌い上げでした。

ウントベンの"It's In Your Heart"1幕ラストver. 終盤に向けて感情高めていくのはさすが。

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KAIトベンの"LOVE IS CRUEL"耳が溶けないように注意。

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というわけで内容は虚無ったものの、キャストの熱演が光った韓国版ベートーヴェン。オリジナル作品なので、これから再編を重ねてどんどん良くなっていくことに期待します。日本版でのブラッシュアップを切に期待。

EMKにしては大変珍しく全編のハイライト映像がありますので、興味があるかたはどうぞ。日本のオタクたちが気にしている兄弟デュエットは14:05~、26:11~、29:10~

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おまけ

キャストボード

芸術の殿堂お馴染みの人柱

 

*1:あと4作品はマタハリ、笑う男、エクスカリバー、フリーダ

*2:韓国のチケットサイトは座席表から席を選んで購入する方式で、完売だと座席表が真っ白になることから、雪原と表現する。

*3:韓国一の超高層ビル。地上555m。ジュンスが住んでいることでも有名。

韓国版エリザベートって何が違うの?というあなたへ

エリザベート、それはどの界隈のオタクでも心動かされる、公演界のビッグタイトル。公演が発表されるたびに、そこかしこから集まった屈強のオタクたちが、血みどろになりながらチケット争奪戦を繰り広げます。国は違えど事情は同じ。

2022年、韓国版エリザベートは初演から10年を迎えました。今年は東宝版と韓国版が同時期に上演していることもあり、日本から観に行かれた方も多いのではないでしょうか。そしてつい先日、FNS歌謡祭に韓国からトート様が降臨し、初めて韓国版エリザに触れた方も多かったはず。テレビの影響ってすごい。

私自身、生エリザを最初に観たのは韓国初演版なのですが、2015年から東宝版デビューし、幾度となく黄泉の国へ旅立ってまいりました。もちろん今年は東宝→韓国→東宝→韓国…と世にも贅沢なサンドイッチ観劇を実施中です。
どちらにもそれぞれの良さがあってどっちも大好きなんですが、どこがどう違うのか?と聞かれる機会がとても多いので、韓国エリザの特徴を中心にざっくりまとめてみようと思います。

1.舞台セット

韓国エリザで一番特徴的なのが「盆」。ほとんどのシーンがぐるぐる回る盆の上で演じられます。結構な速度で回り続けるので、俳優さんは見た目以上にハードだと思う。この回り続ける盆が、人が抗うことができない時代の流れや運命を表しているような気がします。特に私が好きなシーンが『私が踊る時』。回る舞台の上で踊るシシィのドレスが弧を描いてとても美しいし、時代の流れすら私が操ってみせる!っていう人生最高潮なシシィの確固たる自信が上手く表現されてると思います。

本舞台の映像を見つけられなかったので、2018年版の練習映像より『私が踊る時』オクジュヒョン×パクヒョンシク。

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この他にもマダムヴォルフのコレクションでは娼婦達がメリーゴーランドのようなセットでくるくる回ったり、闇広では閣下にぐるぐる追いつめられるルドルフの後ろで革命が始まってたり。この盆の動きを思う存分堪能したければ、席は2階以上がお勧めです。

盆と合わせて特徴的なのが、舞台の高低差。韓国の劇場って日本より奥行きも高さもあるところが多いんですが、エリザは特に高さを使った演出が多い。トート閣下は基本、高いところにいらっしゃいます。原作(ウィーン版)と同じく、銀のつり橋からご登場。黄昏時の結婚式では、なんとワイヤーアクションまで披露されます。

わーっはっはっは!と叫びつつ登場するトート閣下。結構な時間ぶらんぶらんしてる。※キャストの運動神経によって動きは異なります。

この他、全体的にセット自体も大きく重厚なので、場面転換に時間がかかる分、東宝版と比べると暗転が多いです。場面転換でルキーニの歌や語りを挟むことも多く、東宝版よりルキーニの出番が多い気が。

あと照明の使い方もすごく印象的。やたらスポットライト使うし、俳優さんの動きも激しいので、照明さん忙しそうだなと余計な心配をしてしまいます。


2.ビジュアル

東宝版は小池先生が演出される限り、トート閣下×アデランス(協賛)が続くことと思われますが、韓国版の閣下はずっと地毛です。キャストごとに閣下の衣装が違うのは東宝版と同じ。

2012年再演時の3閣下。左からキム・ジュンス、パク・ヒョシン、チョン・ドンソク

3.構成

ストーリーは同じでも、シーンの構成は結構違います。特に2幕はシーンの順番が大きく異なります。韓国版には『HASS』がないのが一番大きな違いで、精神病院とコルフ島の順番も違います。

①HASS

民族主義者シェネラーによって反ユダヤ思想が唱えられ、ファシズムが台頭していた当時のウィーン。ドイツ民族によるユダヤ人迫害が強まり、そのまま第一次世界大戦に突入していくのですが、この一連の流れを描いているのが『HASS』です。
東宝版では舞台上に大きなハーゲンクロイツが表れ、その前で苦悩するルドルフ、ハーゲンクロイツの下から登場するトート閣下…という流れで、なぜルドルフがハンガリー独立運動に傾倒したのかが描かれているのですが、韓国版では一切カットされています。また、東宝版で登場するハンガリーの革命家たちも登場しません。
なので、ルドルフの苦悩の背景がよくわからず、ただの愛に飢えた孤独な皇太子のような印象。ただこの点は、「血は水より濃い」という考え方が根付いている韓国文化に合わせた、敢えての変更なのかもしれません*1
独立運動のシーンも短くてダンス無し。私が東宝版で大好きな「名を名乗れ!姓は!」からの「ルドルフ・・・ハプスブルク!!」の台詞もありません。王宮の執務室で書類を盗もうとするところをフランツに見つかって終了。闇広からの一連の流れとして描かれるのみです。
なのでルドルフの出演時間も東宝版よりさらに短く、キャストの番手は東宝版では4番手なのが、韓国版では6番手になっています。

②精神病院・コルフ島

韓国版では『安らぎのない年月』で放浪するシシィが描かれた後に『精神病院』のシーンが入ります。放浪の旅の中でもシシィが熱心に通ったところ、として紹介された後に歌われる『魂の自由』(韓国題:『何も』)。私には何もない、と自嘲し嘆く晩年のシシィの叫びが胸に迫る曲ですが、韓国版ではこの『魂の自由』と1幕の『私だけに』との対比が色濃くなっていて、2幕のシシィの大きな見せ場になっています。
また、韓国版ではコルフ島で父親の面影と対面したシシィが体調を崩し、衰弱した様子が描かれた後に『ママ鏡』に入ります。シシィが本心からルドルフを拒否したわけではない、という背景が描かれるので、その後の悲劇が一層辛く悲しく感じます。

4.演出面

上でも書きましたが、韓国版エリザでは1幕と2幕のシーンを対比させる演出が随所に入っているのが印象的。いくつか代表的なものをご紹介します。

①1幕『あなたが側にいれば』と2幕『夜のボート』

1幕ではボートに乗ってキャッキャしているシシィとフランツ、湖上の水屋でフランツがプロポーズ。あなたがいればそれだけで、とキスする二人。それと同じセットで演じられる夜のボート。水屋に一人佇むフランツと、離れたところから、ルドルフが作った帆船の模型を湖に流すシシィ。二度と戻れない、と歌いながら離れていく二人。
盆の演出も相まって、涙なしには見られないシーンです。

左:あなたが側にいれば 右:夜のボート

②1幕『私だけに』と2幕『魂の自由』

未来への決意を歌う若きシシィに対し、私には何もない、と自嘲する晩年のシシィ。「自分の生き方は自分で決める」→「救いはただ死だけ」、「綱渡りがしたい」→「綱の下には何もない」、「魂は縛られない」→「魂は縛り付けられ」・・・等々、歌詞の随所がリンクしていて、シシィの孤独と深い絶望が色濃く浮かび上がります。精神病院のシーンを後半に持ってきたからこそできる対比。

③1幕『私だけに』前のシシィの台詞と2幕『ママ鏡』後のルドルフの台詞

「そう…あなたさえも私を見捨てるのですね…」
『私だけに』ではシシィがフランツに対して、『ママ鏡』ではルドルフがシシィに対して、同じ台詞を呟きます。

④1幕『エリザベート泣かないで』のシシィ→トートの台詞と、『死の嘆き』のトート→シシィの台詞

「必要ない、出ていけ!」
1幕・最後通告の後、孤独感に苛まれるシシィを誘うトートに対してシシィが言い放つ台詞と、2幕でルドルフを失い、死の世界に連れて行ってと縋るシシィに対してトートが言い放つ台詞が同じです。対比的なシーンだけに、シシィとトートのパワーバランスがすごく重要。意識して演じてる俳優さんとそうでない俳優さんとで、毎回すごく差が出るシーンだと思います。

他にも細かいところを拾えばたくさんありますが、韓国版のシーン順だと、シシィの人生が、フランツの裏切りを機に反転していく様がよく描かれているように感じます。

5.演技面

・シシィがめっちゃ強い

もちろん俳優さんにもよりますが、基本的にとても強い。東宝版は宝塚版の影響が強いからかシシィにお姫様感がありますが、韓国版はとにかく気品<<<強さが求められている気がします。
駆け寄ろうとするフランツに「寄るな」って手で止めたり、『私が踊る時』でトートと物理的にタイマン張ったり*2、フランツの愛の証であるネックレスをトート閣下に投げつけたり、お姫様感はあんまり感じません。映像で見る限りウィーン版もそんな印象を受けますが、国ごとに求められるものが違うということでしょうか。
東宝版しか観たことない方が韓国版を観てどんな印象を受けるのか、ぜひ聞いてみたいです。

「近寄るでない」なイ・ジヘシシィ

・トートがめっちゃ動く

前述のワイヤーアクションも驚きですが、銅像の裏からスーッと降りてきたり、シシィやルドルフのベッドに突然現れたり、娼婦のメリーゴーランドに乗ってたり、ドリフもびっくりな角度の銀橋から駆け下りてきたり。突然現れてスッと消えるので人外感満載。
あと、俳優さんによりますが、基本的に『最後のダンス』は本当に踊ります。かなり踊ります*3。『闇が広がる』でのルドルフの追い詰め方も尋常ではありません。
「静」の印象がある東宝版トートと比較すると、韓国版は「動」だと言えます。

銅像裏から現れたシャトート閣下

・ルキーニがめっちゃ歌う

韓国版を見た後に東宝版を見たみなさん、あれ?ルキーニあんまり歌わないな?って感じませんでしたか?特に『ミルク』。韓国版でのミルクはルキーニのビッグナンバーで、毎回めちゃくちゃ盛り上がるんですが、よく聞いてみるとほとんどフェイクとシャウトで構成されてるんですよね。
ちなみにルキーニのキャストの番手は東宝版だと6番手だけど、韓国版ではシシィ、トートに次ぐ3番手。毎回、演技・歌とも優れたベテラン俳優が配役される印象です*4。10周年記念公演である今回の目玉は、間違いなくルキーニ役のパク・ウンテさんでした。

伝説のウンケーニの『ミルク』。毎回ショーストップ。

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6.カーテンコール

韓国ミュージカルといえば、歌うカテコ。もちろんエリザベートも然り。なぜかシシィだけは歌わないんですが、それでも十分満足する内容です。
毎シーズン1週間程のカーテンコールデー期間が設けられて、期間中はカテコ撮影OKになります。

2022年版。カン・テウルルキーニ、シン・ソンロクトート(踊らない)、オク・ジュヒョンシシィ

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2012年~10年間の各シーズンのシシィのカテコをまとめた大作動画。3:20〜はチョン・ドンソクトート様、4:20~踊るシャトート様も見られます。

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以上、取り留めのない内容でしたが、東宝版と韓国版、同じ作品でもこれだけ違うというのがお分かりいただけたでしょうか。一方を観ると一方に対して新しい気づきがあるし、最近では双方が交流することでお互いよい刺激を受けているようにも感じます。
韓国版は今回の10周年で一区切り。次回からは演出も舞台も全て刷新した新しいプロダクションにするそうです。今のプロダクションの良いところを取り入れつつ、また新しい世界を見せてくれることを期待しています。

韓国版が観たかった…と後悔している方!キャストは限られますが、お正月までは地方公演もやってますよ!

将来的には韓日のキャスト交流もあったらいいな・・・と思わずにはいられないFNS動画で締めくくり。静かに煽るシャトートもパッション抑えられない芳雄ルドルフも最高でしたね!!ありがとうFNS様!!!

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おまけ

2022年版韓国エリザベートの公式動画に日本語字幕つけてます。東宝版とは歌詞も違うのでニュアンスも違って面白いです。よろしければどうぞ。

 

 

*1:韓国版プロデューサーがこちらのインタビューで、HASSをカットした理由を「韓国でも受け入れられやすいようにするため」と語ってました。

*2:2022年オクジュヒョン×キムジュンス回で、イキったオクエリがシャトートに対して「踊る相手は!この!私が!!選ぶ!!!」って自分のことを指さしちゃってました。初演から見続けてる私も初めて見た。

*3:2022年版トート様別最後のダンス;ダンスマシーン→ジュンス、踊る→ヘジュン&ミヌ、絶対踊らない→シンソンロク

*4:そういう意味では2018年版のパク・ガンヒョンさんは大抜擢だったと思います。

韓国観劇日記(2022年9月)

7月に続き、9月に今年2回目の韓国行ってまいりました。
ノービザのおかげで7月と比べて観光客がかなり増えていて、かなり活気を取り戻した感があったソウル。明洞のコスメショップも少しずつ息を吹き返していて、ちょっと涙が出そうになりました。
入国時PCR検査廃止で、一気にコロナ前の勢い取り戻しそうですね。

明洞のバニラコも復活。露店も出ていて人通りもかなり増えていた。

今回観た作品について覚書を残しておきたいと思います。

9/16(金)ソワレ:スリルミー

・私;チェ・ジェウン
・彼;ファンフィ

スケジュール的にこの日しか見られなかったので、キャスト気にせずに観に行ったのですが、いやあ、よかった。
二人とも初見の俳優さんだったのですが、私のスリルミー史上の中で、最もまともに愛し合っていた二人でした。
特にジェウン私の、まっすぐにひたむきな愛は、狂いがちな私がスタンダード*1なスリルミー界において、逆に大変新鮮でした。
冒頭、仮釈放の協議会で「我々は真実を知りたいのです」と問われ、「真実・・・?」と呟いた後、一筋の涙を流すジェウン私。彼を見つめる目が、いつもどこか寂しそう。自分だけ見てほしい、無茶なことはしないでほしい、どうやったら彼を止めることができるのか。そんな逡巡が感じられる目線。
彼が投げ捨てたタバコをそっと拾って、大切そうにケースにしまう仕草。(初演ヒョンジン私は、それを踏みにじって、凶悪な笑顔を浮かべていた。)彼が立ち去った後、台詞に入る余韻。全ての瞬間に彼への深い愛情が感じられて、初めて私という役に感情移入することができました。
ファンフィさんがインタビューで「ジェウン私がキャストの中で一番愛情深い」と話していたのを後日読んだのですが、大変わかりみが深い。
そして歌も上手くて感情の乗せ方も自然。同姓同名のチェジェウンさん同様、スリルミ史上に残る俳優さんになることを期待します。

そしてファンフィ彼。見た目からして完全にモテ男なんだけど、大人ぶってるクソガキ感がとてもよかった。愛情に飢えて育ち、私の愛情に甘えているただの子供。いつも私を試すように話すんだけど、それが愛情からくるものだなってのが分かる甘さがある。
放火シーンでは、放火そのものへの満足感というより、ジェウン私が自分のためによくやってくれたっていう満足感を感じたし、とにかくめたくそ甘々だった。私に触れる指先から愛情が漏れてた。冷酷じゃない彼ってのもいいもんですね。しかもキスが壁ドンだったんですけどね。声出そうになりましたよね。
ちなみにその後のスリルミーでの私→彼のキスも壁ドンだったんですよ。劇場中央の柱でね。その柱、そういう使い道だった?ってね。舞台セット考えた人を抱きしめてあげたい気持ちになりました。

とにかく、お互いに愛し合っていたのに、方向性を間違えてしまって、引き返せなくなった二人。「わざとだよ」って言った後、涙を流しながら彼に歩み寄るジェウン私と、そんな私を絶望的な泣き顔で見つめるファンフィ彼。私は、ようやく彼を手に入れたけど、同時に永遠に失ってしまったんだな、って、"99年"を聴きながら、すごく切ない気持ちになりました。
幸せになれる道もあったんじゃないかな、と思わせる二人のスリルミー。とてもよかったです。もっかい観たい。

 

9/17(土)マチネ:キンキーブーツ

・チャーリー;キム・ホヨン
・ローラ;チェ・ジェリム
・ローレン;キム・ファンヒ

昨日のスリルミーと同じ忠武アートホールの上の階でやってるキンキーブーツ。スリルミーは地下でやってるので、まさに天国と地獄って感じ。
ついにきたよ!ずっと観たかったジェリムローラを拝める日が!!
チャーリー役は本来INFINITEのソンギュさんだったんだけど、怪我で急遽降板。でもホヨンさんなら間違いない。
観てる間中、ずっと、めちゃくちゃ、楽しかった。
まず開演前にドンが電話しながら出てくるんだけど、「オンマ、電話は鳴らしちゃダメだよ!」とか「前のめりで見ちゃダメだよ!」とか「マスク外すなよ!」とか、故郷のお母さんに電話してる設定で注意事項を説明するんですよ。みんな大笑いしながらそれを見てるから、会場全体に観劇マナーが徹底されるの。素晴らしいと思った。

ジェリムローラ、とにかく圧巻。"ローラの世界"で登場した瞬間から会場中拍手喝采。圧倒的な声量と緩急自在の歌声、そして泣く子も黙るスタイルと筋肉。ローレンのほっぺを可愛い可愛いってつんつんしたり、エンジェルちゃんたちとキャッキャ騒いだり、とろけるような低音ボイスで囁いたり、とにかくジェリムローラの一挙手一投足に会場が沸くのなんの。みんながローラに夢中。
そのパワーに圧倒されながらも、お父さんとの関係に悩み、あるべき自分を探し悩む姿には、手を差し伸べてあげたくなるような繊細さもあって、振り幅がすごい俳優さんだなあと改めて感心しました。
ホヨンチャーリーは、なんとなく日本の小池チャーリーを思い出させる歌声で、力強いジェリムローラとは対照的。さすがベテラン同士、バランスがいい組み合わせでした。
ファンヒローレン、お茶目で可愛く歌も上手い。オンニ~ってローラのことを慕ってる姿が愛おしくて、それだけで舞台上では描かれないローラとの友情が伝わってくるのが素敵だなと思いました。
そしてエンジェルちゃんたちね。最高。開幕前からインスタで扮装前のゴツイ俳優さんたちを見てたので、どう変わるのか楽しみにしてたんですが、みんなめっちゃ可愛い。特にラウンドガールには会場中からものすごい歓声が上がってました。なんでみんなピンヒールで飛んだり跳ねたりできるの?ファティマ(©FFS)なの?
そして、とにかく楽しかったのがカーテンコール。開演前からお客さんがみんな光る指輪みたいなのつけてて不思議に思ってたら、公式グッズでした。カテコ始まった瞬間、みんな指輪のスイッチ入れ、3階席まで全員立って、ヒューヒュー言いながら踊りまくる。日本の声出し禁止観劇に慣れてると、時代が違うのかと錯覚するほど。もちろんマスク越しだけど。日頃のモヤモヤとか来月のカードの引き落とし額とか飛行機飛ぶのかな(台風)って心配とか、全てを何とかなるさ!と思わせてくれるハッピーオーラ。

昨日の切ない帰路から一転、同じ会場をスキップで後にした私でした。思い出すだけで元気でるよ。ありがとう。

 

9/17(土)ソワレ:エリザベート

エリザベート;イ・ジヘ
・トート;キム・ジュンス
・ルキーニ;カン・テウル
・フランツ;キル・ビョンミン
・ゾフィ;ジュア
・ルドルフ;ジン・テファ

今回の観劇というか、この秋のメインイベント、エリザベート
私を韓国ミュージカル沼に叩き落したきっかけであり、初演から見続けてきた作品。しかもついにジヘさんがエリザベートを演じるのですよ。ジキハイのエマで、ドラキュラのルーシーで、誰だあの俳優と思わせたウリジヘペウニムが、グランドミュージカル界のトップオブトップのタイトルロールを!デビュー前から追ってたアイドルが売れたときって、こういう気持ちになるのかな。
10周年の今回、観られなかったらブルースクエアの怪人に転職しようと思ってた。何とか観られて感無量です。

さて、本日はジュンス以外はほとんど初参加のキャスト。他作品ではおなじみだけど、どんなケミになるのかなと楽しみにしてました。

ジヘエリ、やはり、歌が上手い。他作品では可愛らしい役が多く、声楽出身らしい裏声を使ったソプラノが印象的だけど、オクエリ先輩の影響か、地声で歌い上げる強シシィ。どの曲でも全くぶれない歌声で、満足度高い。少女時代は無邪気な可愛らしさで無双だし、容姿も華やかで見た目の満足感も高い。
なのに何だろう、決定的な何かが足りない感じ。ジヘエリならではの役作りというか、主役として観客を惹きつける魅力というか、うまく言えないけど、良くも悪くも癖がなさ過ぎて、印象に残らない。エリザベートの強さばかりが押し出されて、弱さや葛藤がうまく伝わってこなかったのが残念。
ジヘさんは可愛い容姿に鋭い棘を隠した俳優さんだと思うので、それが開花したら絶対にもっともっと魅力的になるはず。こなれてきた後半は、また変わってるかもしれない。好きな俳優さんだけに、今後に期待します。

そして、シャトート。久しぶりに観たけどやっぱり凄いですわ。
今回はマニキュアもなく、メイクも控えめ。でも登場しただけで会場の空気が変わる。前に、野島直人さんが、舞台で歌声に吐息を混ぜる難しさを話していらしたのですが、その吐息で会場の体感温度をどんどん下げていくシャトート閣下。あ、死が近づいてきた、ってのを、あれで観客に伝えるの、すごいですわ。シャウトしながら華麗に踊り、宙を舞う閣下。結婚式のワイヤーアクションだって、ロープはもちろん片手持ちですわ。しかもロープの揺れ幅自分で大きくしてますわ。足で勢い付けてたもん。
そして豹のように音もなくターゲットに近づき、仕留めた後、恍惚の表情を浮かべるシャトート閣下。マイヤーリンクはまじで鳥肌たった。なのに、最後のダンスでは床を踏みしめる生音が、3階席まで聞こえるんですよ。緩急凄まじい。
何度も観てるのに、毎回ハッとさせられる瞬間があるのは、シャ閣下も10年の間に進化されているということでしょう。
ネタバレになるので多くは書かないけど、これから観る機会がある方は、各シーンでのシャトートの登場の仕方にぜひ注目してほしいです。特にルドルフに忍び寄るシーンね。長くなりそうなのでこの辺で。

テウルさんのルキーニは、声質的にも絶対ハマるだろうなってわかってた。高音シャウトが気持ちいい!客席煽りも上手だし、ストーリーに出入りする狂言回しとしての立ち回りもとてもスムーズ。よかったです。

テファさん、めちゃくちゃ歌上手くなった!真面目で神経質そうなルドルフ青年。シャトートとの闇広の相性も抜群。ドリアングレイでこの二人のシーン観たとき、マイヤーリンクみたいな動線だなって思ったのですが、それが2022年に実現するとは。

しかし、何といってもこの回のメインはビョンミンフランツですね。プロローグの第一声から存在感抜群。マイクの音量下げた方がいいんでは?って思うくらい。実年齢からすると適役はルドルフなんだけど、無理無理。声がマエストロだもん。
ビョンミンフランツとジヘエリの声の相性が最高に良くて、ボートが私史上最高に泣けた。ぜひいつかジヘクリスとファントムやってください。

色々思うところはありつつも、韓国ならではのエネルギーに満ちたエリザベートでした。盆大好き。

 

9/18(日)マチネ:エリザベート

エリザベート;オク・ジュヒョン
・トート;シン・ソンロク
・ルキーニ;パク・ウンテ
・フランツ;ミン・ヨンギ
・ゾフィ;ジュア
・ルドルフ;イ・ソクジュン

キャスボ見ただけで泣きそうになりました。10年待ち焦がれたウンキーニ!!
ちなみに10周年の今期はいつものキャスボに加えて、この白いキャスボが地下2階のロビーに設置してあります。特別感あって良き。

今回は開幕前から色々ゴシップ出ててどうなるかなと思ってたけど、オクエリ健在でした。ソウルから台風逸れたの、たぶんオクエリのおかげだわ。
歌声はもちろんだけど、年を重ねるごとに、後半にかけての凄みが増してると思う。精神病院とかコルフ島とかでの孤独や葛藤が重みのある歌声に乗せて伝わってきて、歌だけで引っ張る俳優じゃ10年も演れてないはずって改めて思いました。やっぱり凄い。もうスンウ先輩のジキハイと一緒に重要無形文化財にしてください。

ソンロクトート。昨日観たシャトートと対極的。重厚な歌声に重厚な動き。そして決して踊らない。動きが重いと逆に非現実的な感じがして、これもまた死の表現として面白い。前回のソンロクトートもこんなに動かなかったっけ?
そしてソンロクトートは圧倒的にデカいので、同じ体格のオクエリを軽々とお姫様抱っこできるの。そしてめっちゃ足が長いから、動かないのに、ほんの数歩で上手から下手に移動できるの。この二人の”私が踊る時”は剛vs剛って感じのパワーゲーム。*2どっちも客席に風圧感じそうな迫力。これぞ韓国エリザ!!

そして、ウンキーニ。どの作品でもウンテさんの役の解釈にはびっくりするんですが、ルキーニもそう。本来狂言回しのはずのルキーニが、ウンキーニだとそうじゃない。本当は全てがルキーニの作り話なんじゃないか?トートってもしかしてルキーニの化身なんじゃないか?ってよくわからない妄想にまで発展してしまう。
決して前に出るわけじゃないのに、舞台の端で含み笑いをしていたり、意味ありげな顔で俯瞰していたり、客席に向かって優しく語りかけながら、俺はずっと観てるぞってジェスチャーをしてみたり。
エリザベートって全てのシーンがルキーニの振りから入るじゃないですか。その振りが、ただの振りじゃないんですよね。次に始まるシーンに意味を持たせる、含みのある振り。精神病院のウンキーニの前説が凄いってTwitterでも話題になってたけど、あれ全部アドリブなんですよね。「天才と狂人の差は?」ってやつ。これもネタバレになるので詳しくは書きませんが、エリザベートという作品を深く解釈しないとあんな台詞考えられないと思う。
歌声もビジュアルももちろん最高。ミルクで見せる悪い笑顔は初演から歳月を経てさらに磨きがかかってたし、力強い尖ったシャウトは、ウンテさんの他の役では見られない貴重な声。10周年記念にふさわしいカムバックキャスト、ありがとうございます!

フランツはミン・ヨンギさん。初演からのオクエリとの夫婦コンビは安定感抜群。ヨンギさんって役柄によって歌声変えられるのが凄いなあといつも思うんですが、フランツの時は正統派の声でとても心地良い。*3そこにいるだけで調和をもたらすヨンギフランツ、曲者揃いのキャストの中でとても貴重だと思います。

ソクジュンルドルフ。めちゃくちゃよかった。今まで見た韓国エリザの中で一番好きなルドルフだった。孤独で愛に飢えていて、自分の立場の重さに押しつぶされそうな不安定感。まさにシシィの鏡。シシィに見捨てられた時のルドルフの台詞と表情が、フランツに見捨てられた時のシシィの台詞と表情そのままで、胸に迫るものがあった。”僕はママの鏡だから”で、客席から聞こえるすすり泣き。演技が上手い。スリルミの彼やってた時と全く違う表情。他の役でも見てみたい。

ということで、最後は安定キャストで間違いない観劇での締めくくりでした。

 

今回は台風の影響で色々ありましたが、コロナ前とほとんど変わらない流れで韓国に行けるようになってきたので、これからもスケジュールが許す限り通い詰めたいと思います。その前に日本でキンキーブーツとエリザベート見られるので、比較しながら見るのも楽しみ。

 

*1:韓国だと最近ではキムヒョンジン私とか、イジュスン私とか。日本だと初演の成河私。万里生私もかなりなもんですよね。

*2:オクエリvsシャトートは剛vs柔

*3:M!の癖ありすぎ大司教様も大好きです。