衝動と情熱だけで生きている

主に観劇の記録。

フランケンシュタインと私~2024

2024年、私の夏はフランケンシュタインとともに始まり、終わりました。

2021年、コロナ禍の中で上演されている4演の情報を追いながら、私は誓いました。
いつしか必ずやこの訳わからん状況を乗り越え、雪辱を果たすのだ、と。
そしてついに2024年、フランケンシュタイン10周年記念公演。出ないんじゃないかと噂されていた我が本陣、チョン・ドンソク俳優様の出演が発表された瞬間、時は来たのです。
ドンソクビクター初日のアンリ/怪物がウンテさんだと分かった瞬間、この夏が10年に1度の祭りとなることを確信しました。

ドンビク初日の7/6から8/24の最終公演まで7週間、祭りでわっしょいした結果。平均して1週間に2回ペースと考えれば、常識の範囲内である気がする。

近年稀にみる熾烈な血ケッティングを乗り越え、仕事の合間を縫いながら渡韓し、幕間で仕事しながら観劇し、早朝にソウルから出勤してまた週末に飛ぶというアイドル並みのハードスケジュールをこなした暑い夏。共に支えあいながら乗り越えた、フランケンガチ勢の仲間たちにも心から感謝します。
前回観た2018年の3演から早6年、フランケンシュタインは更なる進化を遂げていました。私自身の韓国語の解像度が上がったこともあり、1回1回が宝物のような舞台になりました。6年分の雪辱を晴らした記録として、たっぷりと感想を残しておきたいと思います。

演出・セット・音楽について

今回からEMK傘下の作品になってしまったため、ファンの意にそぐわない改変があるのでは、と心配していたのですが、演出はほぼ変更なしでした。よかった。
むしろラストの北極では自由度が上がっていて、キャストごとのキャラクターの違いがよく分かる演出になっていて、とても満足度が高かったです。予定されたランニングタイム通りに終わる回なんてなかったのではと思うくらい、時間をかけ、終息に向かって物語を紡いでいく主演二人に、毎回魂が削られるほど泣かされました。
セットもほぼそのままで、生命創造装置のライトが派手になっていたくらい。大好きな衣装もそのままでした。
曲についても大きな改変はなく、気づいたのは’위대한 생명창조의 역사가 시작된다다’(偉大なる生命創造の歴史が始まる)のラストがちょっと変わってたくらい。今回は作曲者であるイソンジュン音楽監督も含め、指揮者が3人いらっしゃったのですが、やっぱり音楽監督が振る日は舞台全体の締まり方が全然違って、コンダクターって大切だ!と実感しました。
ちなみにイソンジュン監督ともう一人の男性指揮者は、フォルムが似ていて後ろ姿では見分けがつきにくいのですが、オケピに入る一瞬、わずかに見えるつむじで見分けるという特技を習得しました。はたして次使う時が来るのか。

豆知識;イソンジュン音楽監督とカイさんは学生時代の同級生らしい。仲良し。

俳優について

助演&アンサンブル

主演は長くなりそうなので、ここから簡単に。

・エレン/エヴァ

この役ってエレン/エヴァのバランスが本当に大切。どちらもバランスよく演じられる俳優さんって貴重だなと実感させられました。
・チョン・スミ:エヴァは得意だけどエレンが難しいなあと思っていたのですが、上演期間後半にかけてエレンの中にも優しさが出てきて、姉弟の絆の強さが感じられる関係性がよかった。
・チャン・ウナ:こちらもエヴァは想像つくけどエレンどうなる?と思っていたのですが、さすがの演技力。厳しくも愛情があるエレンで、エレンの死後に歌われる’그 날에 내가’(その日に私が)では、厳しく接していた裏でどれだけビクターを思い、辛さを押し殺していたのかが伝わり、毎回号泣させられました。エレンだって全てを背負えるほど大人じゃなかったはずなんだ・・・
・キム・ジウ:フランス革命のため早上がりされたジウさんは観られず。4演でも評判がよかったのでとても残念だったけど、オスカルに転生したジウさん、最高に恰好よかったです。
転生後

・ジュリア/カトリーヌ

エレン/エヴァ同様、両役のバランスがとても難しい役。それにしてもジュリアの扱いはもう少し何とかならないのでしょうか。ようやくビクターと結婚できたその日に怪物に命を奪われるなんて、残酷すぎやしないか。カトリーヌも憐れすぎるけど。
・ソンミン:他作品で拝見したときは薄幸な感じが好みだったんだけど、今回はジュリアもカトリーヌも中途半端な感じが否めず、もっとできるはずなのに!という私の中の謎の期待を満たすことができず残念でした。’그곳에는’(そこには)で「♪人間もいない、争いもない~」の「ない」のところで手で×を作るアクションは可愛かったです。(怪物もマネして×するの、ほっこり。)
・チェ・ジヘ:以前ベンハーやベートーヴェンで拝見し、また歌が上手い人が出てきたなあと思ってたんですが、今回改めて演技も素敵な方だと確信。この難しい両役を上手く演じ切り、錚々たる顔ぶれの俳優陣相手に引けを取らない存在感。今期のトリプルの中で一番私の好みに合ったジュリア/カトリーヌでした。退勤動画を拝見して知ったのですが、3演のフランケンシュタイン(ドンソクビクター)を観てミュージカル俳優を志したとのこと。まさに成功したオタクってやつですね。次作は韓国初演アラジンのジャスミン役!きっと素敵なジャスミンになるはず。楽しみです。
・イ・ジヘ:3演ではジュリアは最高だけどカトリーヌが今一つで、正直印象に残らなかったんだけど、大化けしてました。さすが、大役エリザベートを経てきただけのことはある。カトリーヌの見せ場である’산다는 거’(生きるということ)。ラスト前の「自由・・・」という呟きからのシャウトは、イジヘさんだけのオリジナル。胸が締め付けられるような、諦め、哀しみ、憤り全てが込められた絶叫。
怪物に薬を盛ったことをばらされるシーンで、必死に言い訳するカトリーヌの手を、ふと怪物が握るのもイジヘさんだけ。手を握られた瞬間のあの絶望的な表情、そこから怪物を蹴りつけるまでの狂気に満ちた振る舞い。この一連の流れだけで、カトリーヌが背負う地獄が垣間見えるようで、どうか彼女にも幸せな時が訪れてほしい、と願わずにはいられませんでした。

チェ・ジヘカトリーヌの『生きるということ』

・ルンゲ/イゴール

・シン・ジェヒ:初演以来の復活登板。スキンヘッドがトレードマークで、最近まではオペラ座で怪人に吊るされてしまっていたことで有名。ビクターとの軽妙なやり取りが絶妙で、酒場シーンではドンビクがそのスキンヘッドにキスする流れが後半定着し、アンリ役にも無理やりキスさせてそのリアクションを試すのが最高に楽しかったです。大千秋楽の挨拶では、一人ひとり名前と役柄を説明しながら淀みなくアンサンブル全員を紹介されたそうで、本当にお人柄の良さがにじみ出ているなと思いました。
・キム・デジョン:ウンテさんとともに初演からの継続登板。ベテラン勢との掛け合いはお手の物で、酒場でお会計!と迫られたときに「一杯も飲んでないのに?」って返すのもデジョンルンゲの定番。あと実験室で実験体アンサンブルズを片付ける指示をするときの合図の出し方が大好きです。回転しながら足踏みするやつ(細かすぎるフランケンシュタイン選手権)。期間後半、どこかをケガされたのか、1回休演された後、酒場でテーブルを上り下りするアクションを避けられていたのが心配でした。どうかお大事に・・・。

・シュテファン/フェルナンド

・ムン・ソンヒョク:渋い見た目に似つかわしくないフェルナンドのあのラッパー的な動き、どこで習得されたのでしょうか。ブレイクダンスとかできそうな感じ。ソンヒョクフェルナンドの時だけ、ジャックがチュバヤにお姫様抱っこしてもらうムーブが生まれるのが大好きでした。
・イ・ヒジョン:多分私が人生で一番多く観ている、安定の助演おじさん。幼いビクターとジュリアがお別れするとき、大きくなったら結婚しようと約束するジュリアを引きはがし、後ろでお説教するのは今回も変わらず。厳しすぎるシュテファンとねっとり気持ち悪いフェルナンドの落差が大好き。

アンサンブル

事あるごとに言うのですが、グランドミュージカルの質はアンサンブルで決まると思ってます。今期のアンサンブルのみなさん、子役も含めて本当にレベルが高くて、舞台の質が爆上がりでした。歌もダンスも筋肉も最高。私を始め、周りのフランケンガチ勢もお気に入りアンサンブルを見つけていて、舞台の隅々まで楽しませていただきました。同行した韓国ミュージカル初心者のお友達(兼Jr.オタク)は、初見にもかかわらずアンサンブルのみなさんを漏れなくチェックしており、終演後に全員からサインをもらうという偉業を成し遂げ、目の付け所と行動力に感心するばかりでした。

私の1pickアンサンブル、ノクォンさん。最初の登場シーンであるウォータールーの指揮官から結婚式、闘技場まで全ての立ち位置を把握していた。『平和の時代』でのやや強引なリードのダンスが大好きでした。

 

ビクター・フランケンシュタイン

・ユ・ジュンサン

初演メンバーのジュンサンビクター(通称ユビク)、満を持して10周年記念公演に登場。
今期のビクターの中で最も研究への信念と執着を感じたユビク。歌詞の一つ一つに抑揚をつけ、語り掛けるように歌う’단 하나의 미래’(ただ一つの未来)は、次第にその信念に傾倒していくアンリの様が手に取るようにわかり、まるで新興宗教の教祖様のよう。他のキャストに比較すると歌唱力は及ばないものの、さすがの演技力で、舞台のまとまり方はダントツでした。
マッドな面を強く見せながらも、人間としての器が大きく、アンリへの愛情も感じられるユビク。おそらく実験は失敗したと悔やんでいて、アンリに自責の念を感じながら生きてきたのではないでしょうか。怪物が登場したときに見せた、驚きとも悲しみとも取れる表情や、怪物と対峙しながら精神をズタズタにされ、ボロボロになっていく様は、どのビクターよりも憐れでした。私が観た回の北極では、あまりにズタボロで言葉らしい言葉を一切発せなかったので、観劇後の私の感想メモには「ユビクがちいかわ化」と記されていました。精神を病んでしまったかのようなラストシーン、衝撃的でした。
ユビクといえば2幕でのジャック。エヴァの前ではおバカな振る舞いをしてるのに、エヴァがいなくなると急にシリアスになって、真顔で低い声でしゃべり始めるんです。ずっとハイテンションなジャックよりだいぶ怖い。
御年(1969年生)を考えると精神的にも体力的にもかなりのチャレンジだったと思いますが、千秋楽の挨拶では「みなさんが結婚式シーンさえ耐えてくださるのならこの先も出たい(笑)」とおっしゃっていたそうなので、また新しい世界を見せてくださることを期待しています。

シン・ソンロク

あれ、ソンロクさん、前にも演ってなかったっけ?と思わせるほどの既視感があるソンロクビクター(通称トクビク)。実は初登板。しかし軍服が似合いすぎじゃないですか?さすが、リアルあしながおじさん
いつも変わった解釈の演技で、舞台に驚きを与えてくれるソンロクさん。2022年エリザベートのラスト、ソンロクさん演じるトートが、首を吊るルキーニを見上げて驚愕した表情で暗転し、まるでルキーニに仕組まれたと思わせんばかりの終わり方に観客席がざわついた回があったんですが、兄さん、今回もやってくれました。
一見すると孤高の天才、でも実は人情派。アンリにだけ見せる無邪気な表情やふとした優しさ、弱さがとても人間臭いトクビク。『生命創造』の「♪この瞬間から私を創造主と呼ぶのだ」の部分、アンリの生首を抱き、涙声で歌うトクビクからは、アンリのために必ず実験を成功させる、創造主になってみせる、という決意が感じられます。生首を掲げて地鳴りのような声で歌う、マッドサイエンティストな某ビクとは大違い。
酒場シーンで、ついに、ようやく、踊るソンロク兄さんを観られたのも貴重な体験でした*1。期待通りのカクカク踊りだったけど、手足が長すぎるので仕方ないと思います。ウンソンアンリとのペアでは、毎回変な動きの踊りで観客の笑いを誘うんですが、実はこれが伏線になっていて、北極で怪物が死んだ後、「アンリ・・・!起きろ!起きてまた一緒に踊ろう・・・!!」って言うアドリブに結び付くのです。(号泣)
そしてトクビクが残した伝説のラストが、8月20日のソワレ。数日前から予兆はありました。まず8月10日マチネ、ウンソンアンリとの回。

落ちてる銃を拾い、こめかみに当てたけど、思いとどまるようにアンリのほうを振り返り、俺が生き返らせるから・・・!と言い放ったトクビク。アンリを生き返らせたくて思いとどまった感じ。
そしてついに8月20日ソワレ、ヘジュンアンリとの回。

 

ついに一緒に逝ってしまった。
銃を持ったまま最後の歌唱に入って、え、何、何するつもりなの、とそわそわしながら観ていたけれど、まさか暗転とともに心中。暗転好きの私もびっくり。
初演からフランケンを見守ってきた友人も、初めて見たという心中オチ。
衝撃的ながら、アンリを心から大切に思っていたからトクビクだからこその、納得感ある最後でした。
ソンロク兄、新しいフランケンシュタインをありがとう!これだからフランケンはやめられない!

・キュヒョン

通称ギュビク。私にはアイドルであるキュヒョンさんの印象が強く、そんなに回数も拝見したことがないため、あんなに線が細いビクターで大丈夫なのかと思っていたのですが、全くの杞憂でした。ますますミュージカル歌唱に磨きをかけ、低音も楽々発声していたギュさん。歌はもちろんのこと、演技も素晴らしかった!
神経質なほどの研究熱心さを感じる一方、アンリとの友情を強く感じさせるビクターで、年上のウンテアンリにも気安い感じ。アンリが歌う’너의 꿈속에’(君の夢の中で)で「♪これだけは約束して、どんなことがあっても諦めないと」と言うアンリに対して、必死にうんうんって頷いて見せるのが強く印象に残ったんですが、確かにギュビクには、決して諦めず、最後まで怪物を救おうとする気持ちが感じられました。

 

この日の北極の演技について、キュヒョンさんが後日語っていらしたのですが、「自分の親しい人たちを殺し、憎くてたまらなくてナイフでとどめを刺そうとしたのに、アンリの顔で『ビクター』と呼ばれて混乱し、再びアンリの声で呼ばれたので、一気に感情が溢れて刺すことができず、ナイフを落としてしまった」とのこと。あの瞬間は演じるというより、役に生きているんだと感じさせられたエピソードでした。
酒場では唯一のダンスマシーン*2として他キャストを牽引していたギュビク。4アンリのダンスの実力についても言及していて、ウンソク氏は一緒に何やるかを打ち合わせできるんだけど、他のアンリは・・・特にカイ兄は・・・とおっしゃっていました。木彫り人形ズ、みんな大好きだよ*3

・チョン・ドンソク

チケットが、取れない。
座席を掴むことから困難を極め、劇場入りした観客席の面子は皆、歴戦の戦士の面構えをしているという。特にウンテさんとのペア回(ドンウン)については、体力も精神も(経済も)限界を超えたオタクしか集まらないため、観客席の集中力がすごい。物音を立てようものなら潰されそうな緊張感に包まれます。
それもそのはず、開幕から1か月遅れての合流*4で、ただでさえ回数が少ないのに加え、熱狂的な人気があるドンビク。
顔がいいから?歌が凄いから?もちろん否定はしません。しかし私は声を大にして言いたい。彼の真の魅力はそんなに表層的な部分で語られるものではない。ドンビクは、特にドンウンは、フランケンシュタインという作品を超えた一つのジャンルなのだ、と。
2015年の再演から登板し、役と共に年齢を重ね、深みを増してきたドンビク。若い頃は若さゆえのふてぶてしさ、生意気さが目立っていたけど、6年ぶりに観るドンビクは、高慢さが独り歩きしない貫禄を身に着け、抗えない魅力を纏った、唯一無二のマッドサイエンティストになっていました。
そんなカリスマに『ただ一つの未来』で圧倒的な歌声で説き伏せられたかと思えば、「お願いだ、友よ」と優しい笑顔で頬を撫でられたり、酔っぱらって抱きつかれて甘えられたり(対ウンアンのみ)した日には、私だったら正気でいられない。
『生命創造』では地を揺るがすような低音からメタルばりの超高音シャウトまで、ドンビクにしかできないアレンジで圧倒的な世界を展開し、最後には「俺が!生命を!創造した!!!(ドヤァ)」という決め台詞*5まで。もちろんこれまでもドンビクの生命創造はすごかったけど、今期は更に気迫が増していました。
気迫でいうと1幕最後の’또 다시’(また再び)。ドンビクは毎回ロングシャウトで終わり、暗転した後も足元がおぼつかず、スタッフに支えられながら捌けていくのですが、ドンウンペアマク(ペア最終日)ではシャウト後に仰向けに倒れ、しばらく起き上がれず、スタッフが走って助けに来てました。回を追うごとに長くなっていく絶叫が、魂の叫びのようで凄まじかったです。
今回のドンビクで一番変わったのは、精神的な弱さを感じなくなったこと。少なくとも2018年の3演までは、後半にかけて生命力を失っていくような痛々しさがあったけど、今期は最後まで力強い意志を感じました。「北極に死にに行くビクター」から「北極に決着を付けに行くビクター」に変わっていたような気がします。
ドンビクは他者との関係に影響を受けない、あくまで自己完結型のビクターだと思います。後悔や絶望も「自らの実験の失敗」についてのそれで、アンリに対しての感情はあまり感じません。アンリが自分のために死んだ後も、アンリの首を高々と掲げながら嬉々とした様子で「♪私を創造主と呼ぶのだ」って歌ってるし、北極でも「俺が何を間違ったっていうんだ!」とか言っちゃうし、自分は生命創造をやり遂げたのに何が悪いんだ、とか言いそうな雰囲気。
でも、ウンテアンリに対してだけは違うんです。唯一、ドンビクの矢印がアンリに向くのがウンテアンリ。これについてはアンリ編で詳しく書きたいと思います。

先に、今期は北極の自由度が増した、と書きましたが、ドンビクでこんなに毎回異なるアドリブを観られたのは今期が初めてでした。これまでは、北極での最後の歌唱「♪いっそ俺に呪いをかけろ 神と対峙し 戦った俺は・・・」の後、一言アドリブを挟み、最後に「♪フラーンケーン、シュターーーインッ!!!」で終わるのが定番だったのですが、今期は様々なパターンがありました。

<ドンビク北極アドリブ集>
一言アドリブ
・「待ってるよ(기다리고 있어)」
・「ごめん(미안해)」
・「地獄で会おう(지옥에서 보자)」
歌唱前アドリブ
・「まだ話したいことがあるんだ」
・「死とは一時的な放電・・・再充電によって生命創造・・・」(幼いビクターが歌う通称『タンパク質ソング』の一節)
・「俺が悪かった」
・「俺の何が間違ったっていうんだ!」
・「お前は誰だ!!!」
・「何で俺にそんなことを!」

アドリブを読むだけでも、対峙する怪物によって全く違うラストを迎えているのが分かっていただけると思います。どの台詞がどの怪物に対して投げられたものか、フランケンオタクなら分かるはず。
ドンビクについては語り始めると三日三晩でも終わらないのですが、キリがないのでいったんこの辺で。とにかく出演してくれてありがとうという感謝の気持ちでいっぱいです(下記参照)。6演もぜひよろしくお願いします。

 

アンリ・デュプレ

・コ・ウンソン

人気、実力ともに、次のフランケンに出るんじゃないかと期待していた俳優さんの一人。フランス革命との掛け持ちのため、残念ながら2度しか観られなかったウンソンアンリ/怪物(通称コアン/コケムル)。
フランケンでは新キャストが登板するたびに注目が集まり、熱狂的なファンがつくことで有名ですが、元々人気があったウンソンさん、フランケンで更に人気に拍車がかかった感じがします。
ウンソンアンリ、ニュータイプ。めっちゃ強い。剛腕アンリ。戦場で人助けしてるときは目が死んでるのに、ビクターと出会って目に光が宿っていくの。自らの野心のためにビクターを利用したのではと感じさせるほどの強さ。裁判で有罪判定されたときもニッと笑うし(夜神月か)、『君の夢の中で』も最後まで力強く、自ら望んだ最期を貫いた感じ。
一方のウンソン怪物、急に孤独を全面に出してくる。え、そんなに執着してたっけ?っていうくらいビクターに対して寂しげな表情を浮かべ、その寂しさを怒りに変えて叩きつけるように歌い上げてくるので、こちらとしてもアンリとの乖離に大変戸惑ってしまったのですが、’난 괴물’(俺は怪物)の演技を観て、私の中で腑に落ちたところがあります。
「お前らに俺と同じ苦しみをそのまま返すんだ!」と怒りを爆発させた後、そっと床を撫で、お腹の中の赤ちゃんのように膝を抱えて横たわり、「♪昨日初めて夢を見たんだ・・・」とピュアな声で歌い出すウンソン怪物。ああ、この怪物は、生まれて一度も愛されたことがない子供と同じなんだ。ビクターを求めるのとは違う、純粋に「誰かに愛されること」を求めてるんだ、と急に腹落ちし、ウンソン怪物の孤独のありかを理解できたような気がしました。
その後の’상처’(傷)で、そっと少年に両手を開き、ハグを求めるウンソン怪物。戸惑いながらも怪物を抱きしめる少年。安堵した表情のウンソン怪物に、涙をこらえきれませんでした。
8月6日のドンビク回での北極で、死に際に「ただ、笑ってくれないか?」(『君の夢の中で』前のアンリの台詞)という爆弾発言をしたというウンソン怪物。そしてそれに対して「地獄で会おう」というアドリブで返したというドンビク。観た回数が少ないので確信はないんですが、ウンソン怪物は、アンリの記憶があるかないかが毎回違っていたような気がします。アンリを取り戻したウンソン怪物の孤独がどれだけ深いものだったのか、そしてそれを受けて地獄で会おうと返したドンビクの解釈の一致具合が素晴らしく、一人咽び泣きました。
後日拝見したコウンソンさん演じるベルばらのアンドレも、頼りがいのある兄貴っぽくてとてもよかったです。韓国版ベルばらは10月13日まで!未見の方はぜひ!!そして次作は私の大好きなシラノです!楽しみ!!

コウンソン氏演じるアンドレ、通称コンドレ

・イ・ヘジュン

EMKに移籍して以来、『エリザベート』『モーツァルト!』などの大作に出演し、順調に大劇場スターの階段を駆け上がっているイヘジュン氏。トートを観て、退廃的な雰囲気が好きだな、とは感じてた。フランケンにも出るだろうなと思っていたし、1回は観たいな、位のレベルだった。
しかし今回、私が最も狂わされたのが、彼でした。
とにかく、演技が、素晴らしい!
その一:表情の作り方が最高。
ビクターに振り回されてちょっと困った顔で笑う時、眉間に皺を寄せて苦悩する時、ビクターに向ける優しい笑顔、スポットライトが当たっていないときでもくるくる変わるアンリの表情に、私の防振双眼鏡が釘付け。
その二:演技が細かい。
『ただ一つの未来』で「♪お前の信念も野望に過ぎない」と歌うビクターに対して「なんだって?」と返していたり、パーティーでシュテファンと言い争うビクターをみて、ルンゲに「どういうこと?」と耳打ちしていたり、メインパート以外でもずっと演技してる。
その三:所作が美しい。
トートの時も思ったけど、特に余韻のある指先の動きが秀逸。座る時に長いコートの裾を払う仕草、『また再び』でビクターに銃を放たれ、絶叫して飛び降りていく姿、『絶望』で殺してくれと懇願するビクターに「まだダメだ」と言い放つときのコートを広げる指先、全てが美しい。
そしてそれら全てが投入された、役の解釈が素晴らしい。
『ただ一つの未来』の最後、ビクターと握手した手を不思議そうに見つめるヘジュンアンリ。『君の夢の中で』では「♪君と共に夢見ることができるなら」と歌いながらその手を見つめ、更に『俺は怪物』では「♪その夢の中で生きることはできなかったのか」と歌いながら手を見つめるんです。「夢」という単語に、何度もあの日の握手をリプライズさせてる!と気づいたときには声が出そうになりました。
そして同じように声が出そうになったのが、8月24日、ドンビクとの最後の回。ヘジュン怪物は毎回、『俺は怪物』で自らの首を捥ごうとするのですが、いつもであれば、アンリの記憶が過った後、それを打ち消すようにやるのに対して、この日は記憶が過る前に傷を見ながら絶叫して腕や首を捥ごうとした後、ハッと記憶が戻った様子を見せ、ゆっくりとその傷を愛おしそうに撫でたんです。その姿に『君の夢の中で』で笑いながら死んでいったアンリが重なり、声を抑えるのに必死でした。

自分の首を捥ごうとするヘジュン怪物

北極での登場の仕方も大好き。ビクターが’후회’(後悔)ラストを歌い上げるのと同時に北極のセットが登場し、その一番高い所で怪物が待っているのですが、他の怪物は正面を向いてるのに対し、唯一ヘジュン怪物だけが後ろ姿で登場して、ゆっくり振り返るんです。「来たな」っていう『君の夢の中で』前の台詞と、「♪来たな、我が創造主」っていう『絶望』の歌詞を思い起させるような登場シーン。最高です。
振り返ったヘジュン怪物

そして北極の最後。ヘジュン怪物はアンリなのか、アンリじゃないのか、はっきりとわからない終わり方をするので、解釈が観客に委ねられている感じも大好き。
個人的にはヘジュン怪物は「アンリの記憶はあるけれど、アンリではない。かつてアンリだったという記憶を持つ、怪物という別人格」だと思っています。
アンリの記憶に苦しめられながら、怪物として復讐を遂げるヘジュン怪物。そしてそれを受けてドンビクも「お前は一体誰なんだ!!」と返していました。
ウンテさんが千秋楽の挨拶で「アンリの記憶がなかったなら、怪物は幸せだったでしょう」とお話しされたそうですが、本当にそのとおりだと思わせられるヘジュン怪物。
初演ながら、一生私たちの記憶に残るアンリ/怪物を残してくれました。
私の周りの濃いオタクの中では、今回ハマった人が一番多かったヘジュンさん。フランス革命掛け持ち組として、現在ベルばら出演中です。そしてその次は11月から2月まではtick,tick…BOOM!への出演が決まっています。ベルばらではオスカルに手を焼いて困り顔のヘンドレや、立ち姿が絵画のようなヘンドレが観られます!みなさんもぜひ一緒にヘジュン沼に浸ってみませんか!(強火)

ヘジュンアンリの『君の夢の中で』。儚さがあってとっても良き。

・KAI

眼鏡のカイアンリ、そして十字架を背負ったカイ怪物。フランケンオタクが大好きなカイアンリ/怪物です。耳を溶かすような美声が重なるドンビクとの『ただ一つの未来』も、背筋をピンと張ったまま躊躇いもなく断首台を上る『君の夢の中で』も健在。そして「アンニョン」とお手振りを多用する怪物もそのままでした。
『君の夢の中で』では外に連れ出されるビクターに対して手を振っていたカイアンリが、格闘場の敵に対して、森で出会った迷子の少年に対して、その少年を突き落とした後も、怪物として「アンニョン」と手を振る。カトリーヌに教えてもらった唯一のコミュニケーション手段だからなのか、アンリの頃の記憶がそうさせるのか、私は前者がきっかけとなって、アンリの記憶が引っかかっているのだと感じています。ほとんどアンリらしさを出さないカイ怪物だからこそ、この仕草が唯一のアンリの記憶の現れなんじゃないかと思わずにはいられません。
そう、カイ怪物は北極でもほとんどアンリを出さない怪物として有名だったのです。だった、と過去形なのは、8月23日ソワレ、ドンビクとのペアマクがあったから。
ドンカと言えば、親密さがあまりない、信念だけで繋がっている、お互いを利用しているかのようなソリッドな感じが定番でした。
しかし8月23日ソワレ。この日は1幕からなんだかカイアンリの様子が違いました。眼鏡をキュッと上げながら「違う!」とドンビクの信念を否定する『ただ一つの未来』はいつも通り。でも、酒場辺りから何か雰囲気が違う。何というか、いつもより心を許している感じ。「僕の代わりに生きろ!友よ」(『君の夢の中で』で前の台詞)の言い方なんて、柔らかいというか、愛情すら感じるような・・・はて・・・?
幕間に友達と会話したときも、なんかカイさんいつもと違くない?気のせいかなあと話したのでした。
そして迎えた2幕。『俺は怪物』でもいつも通り、記憶が戻る様子のない、憤怒にまみれたカイ怪物。北極も銃を放つまではいつもの流れでした。今回も「お前は誰だ!」ってビクターに言われて終わるパターンかな、と思っていたその時、突然、カイ怪物の口から、「ビクター」という呟きが聞こえたのです。いつもの怪物の声ではなく、アンリの声で。
おそらく会場にいたオタク全員が「え?」と思ったはず。
驚愕した表情で、震えながらカイ怪物に手を伸ばし「・・・ア・・・アン・・・?アン・・・リ・・・・・?」と、なかなかアンリと呼べないドンビク。きっとオタク以上に驚いていたに違いない。ラストでは、カイ怪物の胸を震える手で掴み、トントン叩きながら絶唱していました。
ドン×カで、リアルアンリエンドが、キターーーーーーーーー!!!!!
カイ怪物の歴史上、私が知る限り、初めてのリアルアンリエンド(怪物が本物のアンリとして死んでいく最後)。フランケン史上、レジェンド級の出来事だったと思います。
その後のカーテンコールでは、ずっと仏頂面で、口をへの字に曲げていたカイさん。ドンソク氏から舞台中央に招かれても、ドンソク氏の方を見ることもなく、ずっとへの字口。何か不満でもあったのか?ペアマクなのにどうした?と客席がハラハラする中、最後の音楽とともに二人で舞台奥に歩いて行く二人。ドンソク氏がカイさんのほうを向いて、困ったように顔を覗き込んだ瞬間、耐えきれないという感じで仏頂面が崩れ、一気に涙を流し、号泣しだしたのでした。ドンソク氏に抱きしめられながら号泣するカイさん、幕が下りる時も客席を構うことなく、ずっと泣いていました。あんなに泣くカイさんを見るのは初めてだし、いつもサービス精神旺盛なのに、一切客席を見ないカイさんも初めてでした。どれだけの想いでこのペアマクに臨んだのか、なぜ最後にリアルアンリを出してきたのか、その涙だけで充分伝わったような気がします。
素晴らしい舞台を見せてくれてありがとう。これだからフランケンはやめられない。

背中に十字架を背負うカイ怪物の『俺は怪物』。チュバヤとの戦いで装具を付けないカイ怪物、十字架を強調するためなのかな、と思ったり。

・パク・ウンテ

唯一初演からアンリ/怪物役を演じ続けているウンテさん。
毎回、本当に辛い、出演するのは今回が最後にする、と言い続けながら早10周年。あなたがいないフランケンなんて考えられない。ウンテさん抜きにフランケンシュタインは語れないくらい、作品の一部分になっている俳優さんです。
独自の深い解釈に基づいてアンリ/怪物を演じ続けているウンテさん。アンリのビクターに対する感情について「間違いなく愛はあるが、それだけでは語れない、愛を超えた執着である」と語っていました。その解釈を背景に観劇すると、執着の末に行きついたのがこの北極の最期なのか、怪物による復讐という名分で、ビクターを自分だけのものにしたのか、などと考え始めてしまい、フランケン地獄から一生抜けられる気がしません。
また、「アンリに比重を置いて演じたい」とも語っていました。
劇中でアンリについて語られるのは唯一「♪僕には親も兄妹もいないけど、ただ一人の友がいる」という酒場の曲の一節のみ。そこからアンリ像を膨らませているという話を聞いて驚いたのですが、こんなに包容力ありそうなのに、どこか悲しく儚げ(なのに逞しすぎる大胸筋)なのは、孤独なアンリにとって唯一の存在であるビクターに、実は激しい感情を抱いているからなのか・・・などと、楽しいはずの酒場シーンで地獄のような感情が渦巻いてしまいます。
アンリの処刑前のシーンで、ビクターに対して、生きて夢を叶えてくれと説得するために「僕の代わりに生きろ!・・・友達よ」と言う台詞があるのですが、ウンテアンリだけが「『僕の』友達」って、『僕の』をつけるんです。そして北極でも、ウンテ怪物はビクターに向かって「ビクター・・・ビクター・・・『僕の』友達」と呼びかけるんですよね。そこでビクターがハッとして、アンリだと確信するという流れ。台詞や仕草一つ一つが伏線になっていて、最後の北極でのアンリに収束していくウンテアンリ、すごいを超えて凄まじさを感じます。
アンリのビッグナンバーである『君の夢の中で』も更に深みを増していました。語り掛けるような歌い始めから、ビクターに出会い、輝き始める人生をなぞるように力を増す歌声、そしてビクターとその夢のために命を捧げることに対して、もはや歓びともとれるような最後の歌い上げまで、一曲の中にアンリの人生が詰め込まれているような濃密さでした。

ウンテさんは4演時のインタビューで、怪物にアンリの記憶があるのかという質問に対して、このようにお話しされていました。

アンリの記憶はあると思います。覚えているだけで、かといってアンリとは違う。 私の場合はそうです。ビクターとの様々なことは思い浮かぶが、魂はアンリではない状態(中略)本当のアンリなのに、アンリの姿を借りて怪物の言葉を話す時もあり、怪物なのにアンリを思いながら話す時もあります。やる度に新しい感情が出るんです。

※ウンテさんの解釈についてはこちらのエントリーにまとめています。

また、「アンリと怪物の差をできるだけ無くすように演じている、それによってアンリではないのに、アンリと呼ばれる怪物の悲しみが深まるから」とも話されていました。
これらを踏まえて過去の北極でのやり取りを振り返ると、これはアンリなのか、怪物なのか、はたまたどちらでもないのかの解釈は、観客に委ねられる部分が大きかったと思います。
ところが今期のウンテ怪物は、方向性が明確に、わかりやすくなっていました。
『俺は怪物』で、はっきりとビクターの名を呼び、アンリの記憶を取り戻すのです。
最初は意識せずに口をついて出た「ビクター」という単語。無意識に繰り返すうちに、それがかつての親友の名前だったという記憶がはっきりと蘇り、一瞬で様々な感情を爆発させるウンテ怪物。この、「ビクター」という呟きからの流れが毎回毎回違うんですが、ある時は嬉しそうに笑った後に哀しみに襲われ、最後は憤怒の絶叫。またある時は苦悩にもがき、首の傷に触れながら咽び泣き。その後も何度も何度も「ビクター・・・!」と呟きながら歌うので、その度に胸が締め付けられ、こちらは嗚咽を抑えるのに必死。
まさに魂を削り取るような演技と歌唱で、終わった後は大喝采のショーストップ状態。ウンテ怪物の”난 괴물”、これだけで一つの作品だと思います。

貴重なウンテ怪物の『俺は怪物』2024年版フルver.これだけでも十分凄いんだけど、生舞台のはこれの100倍は濃い。生舞台観た後にこれみるとあっさりしてると感じるほど。

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今期のウンテ怪物は、アンリそのもの、アンリの魂を持った怪物だったと感じました。
なぜ10年目でこのような演技にしたのか、どのような思いがあったのか、きっと深い考えがあるはず。だれかウンテさんに聞いてみていただきたい。

そしてこのようにビクターへの執着が深いアンリだからこそ、通常は自己完結型なはずのドンソクビクターとの組み合わせが、唯一無二になるのです。
自分の野望以外には興味がなさそうなドンビクですが、ウンアンだけは心から愛おしそうなご様子。他のアンリには絶対に見せない、甘えた素振りを見せます*6
そして北極でも、怪物が絶命した後、ウンテ怪物に対してだけは、「まだ話したいことがあるんだ」とか「こんな風に別れるなんてダメだ」とか、「僕が間違ってた」とか、「ごめんね、気づいてあげられなくて」とか、後悔に溢れた言葉を投げかけるんです。他ペアでは「ごめん」と呟くことはあっても、自分の生き方を後悔する様子は見られないドンビク。そんな高慢なドンビクを、最後の最後に自分だけに縛りつけるウンテ怪物。それがあなたの復讐なんですか・・・?なんという地獄。
私のドンウンへの思いは上記の通りですが、全世界のフランケンオタクが、ドンウンペアに対しては、それぞれ格別な思いを抱いています。そのため、ドンウン回のチケットの取れなさが尋常ではなくなってしまうのです。フランケンシュタインの代名詞にもなっている特別なペア、みんなに観てほしいのに・・・次は世宗でやってください・・・

 

思いのたけを綴ったらあっという間に17,000字を超えてしまいました。
ここまでお読みいただいた方は、きっと私と同じフランケンガチ勢ですね?お付き合いいただきありがとうございました。どこかでお会いできたら酒を飲みかわしながらフランケン談義をしましょう。また近いうちに6演が観られることを祈っています!

フランケンシュタイン、永遠なれ!!

おまけ

・俳優陣作成のVlog

KAIさんとウナさんがフランケン舞台裏のVlogを残してくださっています。メイクシーンからリハーサル、終演前後の様子など、貴重な映像が盛りだくさん。ほかの俳優さんたちもたくさん出ていて、見ごたえがあります。

KAIさんのVlog。初公演~最終公演までの様子が収められていて、共に駆け抜けた夏を振り返りながら胸が熱くなりました。

チャン・ウナさんのVlog。最終公演の舞台裏の様子です。キュヒョンさんとのやり取りが面白い。

・キュヒョンさんのYouTube

キュヒョンさんが自身のYouTubeチャンネルで、最終公演後にフランケンについて語った回。北極(私が観た8/23マチネ、×ウンテアンリ回)を演じたときの気持ちについてや、4アンリのモノマネ(激似)など、今期のフランケン観た人なら必ず楽しめます。ウンテ兄さんの怪物(俺は怪物)は長いから、裏でゆっくりできる、らしいです(笑)そんなこと言えるのギュさんだけだよ。

さすがSJの毒舌マンネ、口が立つ。

・写真スポットたち

ブルースクエア外観。フランケンの後はキンキーブーツ。ウンテさんはローラに転生。
生命創造装置とビクターの実験室

休憩スペースは酒場仕様
人柱シリーズ

・スタンプラリー

劇場内のカフェ3か所でフランケンコラボのスペシャルドリンク(オリジナルカップ付き)を買うと、ビクターの実験日誌にスタンプを押してもらえるという謎スタンプラリーが開催されていました。更に3種類のスタンプ集めて、HDPE高密度ポリエチレン)のプラ素材を10個持参すると、4つ目のスタンプとともにHDPEをリサイクルした記念キーホルダーがもらえるというイベントまで。
ビクター博士とともにリサイクルに取り組もう!みたいな謎のスローガンに踊らされ、韓国ダイソーで必死にリサイクルマークを確認しまくる怪しいオタク。

韓国のプラスチック製品リサイクルマーク

しかし見つからない・・・もういいやと思いかけたその時、もしかして?と思い立ってスーパーに駆け込み、手あたり次第にペットボトルを裏返してみたら、やっぱり!
そう、ペットボトルの蓋がHDPE素材であることに気づき、500ml×20本を根性でホテルまで持ち帰ったのでした。翌日は腕が筋肉痛になりましたが、おかげ様で勉強になりました。

スタンプラリーの成果と、残ったオリジナルカップたち。どうするんやこれ

以上、フランケンのおかげで、本編以外でもめいっぱい楽しめた2024年の夏でした!

*1:私の中では絶対に踊らないソンロクさんで有名。エリザベートのトート演じたときなんて、決して無駄な動きをしない、踊るなんて考えられない、山のようなトートだった。

*2:泣く子も黙るSMエンタ出身のスーパーアイドル。SJ内の立ち位置は別として、フランケンキャスト内ではダンスマシーンなのに違いないのです。

*3:カクカクダンスが木彫り人形のようだ、と称されている、ダンス苦手な俳優陣。代表格はKAIさん、ウンテさん、ドンソクさん。ただしドンソクさんはダンスの実力に自信は持っているご様子。

*4:前作ヘドウィグが終わり、ご自身の結婚式まで済ませてからの合流でした。おめでとうございます!

*5:これはドンビクオリジナル。最初に聞いた時はびっくりして歌詞の改変なのかと思ったら、やってるのドンソクさんだけだった。狂っている。

*6:酒場シーンで喧嘩を止めに入ったアンリに対して、「たくさん飲んじゃった~」と呟き、アンリの腰に抱き着いてお腹を揉み揉みする。そしてウンアンはそんなドンビクの手を撫でてあげる。その後もドンビクの話を愛おしそうな目で聞くウンアン。尊い

フランケンシュタイン、偉大なるミュージカルの歴史が始まる

2024年、私の暑い夏がついに、ついに始まりました。そう、この作品とともに。


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フランケンシュタイン!!!!!
待ってたよーーーーー(号泣)
私を本格的に韓ミュに狂わせた最高にして最強の作品。
コロナ禍で4演を見られなった海外オタクたちが、まだかまだかと鼻息を荒くしながら待ちに待っていたフランケンシュタインが!ついに!!始まっております!!!

2018年の冬、釜山でドンビクに言われた「기다려…(待ってて…)*1」から、まさか6年も待つなんてね。うちらだいぶキダリョったよね。

というわけで、6年間溜めに溜めたオタクのパッションが爆発している夏です。

※6年前の爆発についてはこちらを参照ください。勢いしかなくて恥ずかしい。 

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日本でも上演されてすでに熱狂的なファンを獲得している本作ですが、今回、韓国ミュージカル初心者のお友達に韓国版を観てもらえることになったので、改めて冷静に説明しなければと思い、この記事をしたためることにしました。
韓国フランケンの素晴らしさが少しでも伝わればうれしいです。

ミュージカル「フランケンシュタイン」とは

イギリスの小説家、メアリー・シェリーが1818年に出版したゴシック小説を原作として、ミュージカルとして再構築された作品です。韓国ミュージカル界では今や知らない人がいない演出家ワン・ヨンボム氏&作曲家イ・ソンジュン氏コンビ*2によるオリジナル作品で、2014年に忠武アートホールの開館10周年記念作品として公開されました。
公開当初から熱狂的な人気を集め、2015年、2018年、2021年、2024年と再演を重ねていますが、回を追うごとに人気に拍車がかかり、再演ごとに新たなスターが生まれる話題作です。2017年には日本でも上演されました。その人気は言わずもがなですね。
2024年版から制作会社が大手のEMKに変わったので改変がないかとひやひやしていたのですが*3、ほぼこれまでの演出が踏襲されていて安心しました。

あらすじ

19世紀の欧州ナポレオン戦争当時、スイス ジュネーブ出身の科学者ビクター・フランケンシュタインは、戦場で死なない軍人についての研究を進めていたところ、身体接合術の鬼才アンリ・デュプレに出会う。
ビクターの確固たる信念に感銘を受けたアンリは彼の実験に参加するが、終戦により研究室は閉鎖される。
ジュネーブに戻ったビクターとアンリは、研究室をフランケンシュタイン城に移して生命創造の実験を継続するが、予期せぬ事件に巻き込まれ、無実の罪でアンリが命を落としてしまう。
ビクターはアンリを生き返らせようと、アンリの亡き骸に自らの研究の成果を注ぎ込む。しかし誕生したのは、アンリの形をした“怪物”だった。
事件が起き、ビクターの前から忽然と姿を消す怪物。
3年後、結婚を控えたビクターの前に怪物が再び姿を現すが…
インターパークHPより)

登場人物

・ビクター・フランケンシュタイン
哲学、科学、医学に長けた天才だが、幼い頃の経験により強いトラウマを持った人物。
神に逆らい、自らが生命を生み出す神になるのだと、生命創造研究に執念を燃やす。
マッドサイエンティスト、ドンソクビクター


・アンリ・デュプレ
医師として戦場で人命救助に駆け回っていた際、ビクターによって命を救われる。当初はビクターの考えに反発していたものの、彼の強い信念に心を打たれ、共に生命創造の研究を行うようになる。無実の罪により、ビクターの代わりに死刑となり命を落とす。
ウンテ・神・アンリ様

・エレン
ビクターの姉であり、唯一の肉親。幼い頃に両親を失い、親代わりにビクターを育ててきた。
一足早くフランス革命に旅だってしまわれたジウエレン様

・ジュリア
ビクターの幼馴染であり婚約者。
三演から出演、回を追うごとに強くなるイジヘジュリア様

・シュテファン
ジュリアの父。ジュネーブ市長。怪しい研究を行うビクターのことをよく思っていない。
おそらく私が人生で一番回数を観ている俳優、イヒジョンさんシュテファン

・ルンゲ
フランケンシュタイン家の忠実な執事。幼い頃からビクターに仕え見守ってきた人物。
二演以外は皆勤賞のキムデジョンさんルンゲ


フランケンシュタインの魅力①:哲学的で考察性のある物語

200年前の名作小説を3時間弱でミュージカルとしてまとめられた本作、過去と現在を行き来しながらものすごい速度で話が進んでいきます。一度観ただけでは色々と疑問点も多いかもしれませんが、実は色々な裏設定や伏線があり、それを知るのと知らないのとでは面白みの深さが全く違ってきます。

例えばビクターとアンリの出会い。戦場で敵軍を治療したためスパイ容疑をかけられ、処刑されそうになっていたアンリ。そこに登場するビクターは「アンリ!アンリ・デュプレ!!」と歓喜しながらアンリに近づきますが*4、これは身体接合術という当時では考えられない医術を持ったアンリの噂を聞き、ビクターが戦場中を探し回っていた、という裏設定があるそうです。

また、この作品の見どころである一人二役設定。アンリが怪物となる二幕では、ビクター役がジャック、エレン役がエヴァ、ジュリア役がカトリーヌ、シュテファン役がフェルナンド、ルンゲ役がイゴールとして登場します。この二役目は、怪物が拉致されていた地下闘技場での登場人物なのですが、同じ役者が演じるのにはちゃんと理由があるそうで「怪物がアンリの時に接した人々の記憶が投影されている」からだそうです。単なるエンタメのための試みだと思っていた私は、これを知った時に衝撃を受けました。

「怪物にはアンリの記憶があるのか」についてはオタクたちがこぞって考察する点で、演じる役者ごと、回ごと、組み合わせごとに違ったりするのがものすごい沼ポイント。途中でアンリの記憶を完全に取り戻す怪物もいれば、最後まで記憶がない怪物もいるし、さらにはビクターへの復讐のためにアンリを利用するような怪物もいたり。フランケンガチ勢の私はこの話をし出すと寝ずに語れる自信があります。覚悟のある方はぜひ声をかけてください。

あと、2幕後半に「傷」というシーンがありますが、このシーンの演じ方も役者によって大きく異なり、オタクの解釈が分かれるところです。(以下超ネタバレ注意)
森を彷徨う怪物が、道に迷った少年に出会います。泣く少年に「話をしてあげる」と声をかけ、”空の星のような存在になろうとした人間と、その人間が生み出した生物の物語”を聞かせる怪物。
「おじさんが、人間に作られた生物なの?」と怪物の首の傷を指さす少年に、怪物は「そうだよ、君も大きくなったら人間のように振るまうんだろう?」と答え、少年を突如として湖に突き落とします。
静かになった湖面を見つめながら、「そうならないで」と呟き、”ただ幸せを探していた生物”の話を続け、嗚咽する怪物。
怪物の空想だという解釈もあれば、実際の出来事で少年に幼いビクターを投影しているのだという解釈もあり、さらにはアンリの人格を投影しているのだという解釈もあったり。
日本版では少年を突き落とすシーンがカットされていたような記憶がありますが、私はこの怪物の行動には物語上とても重要な意味があり、怪物の孤独と悲しみがこの一瞬に込められていると考えています。
このシーン自体、当初の構想には無く、初演の練習中にワンヨンボム氏が数日籠って付け足したシーンだそうです。初演から出演し続けている唯一の俳優であるアンリ/怪物役のパク・ウンテ様は、この「傷」の追加に衝撃を受けた、ストーリーを象徴する重要な場面だと感じたとお話しされていました。

フランケンシュタインはストーリーが雑でツッコミどころが多い、という人もいるようですが、表立って語られないこうした設定や伏線の数々が俳優ごとの方向性の違いを生み出し、オタクの想像力を掻き立て、毎回異なる結末を導くのであり、それこそが作品としての最大の魅力だと私は思います。創作ミュージカルなので自由度が高くてアドリブも豊富です。

ちなみにウンテさんは、初演時のインタビューでアンリとビクターの関係性について、日本の漫画「ベルセルク」を引き合いに出し、「同性愛的ではあるが、愛だけではなく、それを超えた執着」だと解釈していると語っていました。

ウンテさんはこれまでに作品と役への解釈をたくさん語ってくださっているので、ぜひ一度目を通してみてください。

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フランケンシュタインの魅力②:壮大な音楽

このように深く難解で哲学的な物語をエンタメ作品として成り立たせているのは、イ・ソンジュン作曲家が創る壮大な音楽があってこそ。ドラマチックな楽曲がその世界観を更に色濃くしています。イ・ソンジュンさん、見た目は熊さんみたいに丸くて可愛らしいお姿なんですが、ひとたび指揮棒を持つと背中からひしひしと感じるカリスマ性。ご本人が指揮をされる日は舞台全体の締まり方が違います。*5
そしてこの楽曲が俳優泣かせの超難曲揃い。役を引き受けた俳優は、誰もがかなりのプレッシャーを感じるという話を聞いたことがあります。ストーリーのハードさも相まって、初演時はみんな泣きながら練習していたとか。
でもそんな超難曲を歌いこなし、オタクの期待を飛び越えるどころか追いつけないような俳優が韓国には複数存在します。代表格としてまず、我が本陣のチョン・ドンソク様を紹介させてください。これまで生きてきて聴いたことがない音域を生で聴いた時の衝撃たるや。映像がなくて残念なのですが、世界中のミュオタにドンソクビクターの「偉大なる生命創造の歴史が始まる」を一度聴いていただきたい。地を這うようなバリトンからクリスティーヌ(©オペラ座の怪人)ばりの高音シャウトまで、一曲の中で聴いたことない音をたくさん経験できます。
こちらは2018年三演時のドンソクビクター×ウンテアンリの「ただ一つの未来(단 하나의 미래)」。生ける伝説のドンウンペア。ドンビクの空気を振るわす低音と、ウンアンの包み込むような高音のケミストリーが素晴らしいです。

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ミュージカルの歌って、ただ上手いだけじゃダメなんですよね。物語の一部だから、そこで語られる感情がないと作品として成り立たない。こんなに難しい曲に、こんなに複雑な感情載せてくる・・・?って毎回号泣してしまう、そんな曲がフランケンにはあります。二幕で怪物が歌う「俺は怪物(난 괴물)」。
地下闘技場で闘士としてモノのように扱われていた怪物が、企みにより闘いに敗れ、唯一心を通わせていたカトリーヌにも裏切られ、ゴミとして捨てられて歌う曲。
特に初演~三演まで出演したハン・チサンさんの「俺は怪物」は一曲の中で語られる物語の展開がものすごく、感情の振り幅がジェットコースターのようで、毎回観ているだけでも疲労困憊でした。
ウンテ怪物の「俺は怪物」は再演ごとに方向性が違うんですが、今期はそう来たか・・・!という感じ。更に回を追うごとに感情表現が増していて、オタクたちは毎回嗚咽を抑えながら鑑賞するのに必死。ちなみに私は毎回大きめのタオルハンカチを首から掛けて鑑賞しています。
初演時のチサン怪物ver. 優しくて弱虫で人間臭いチサンアンリからの振り幅…

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2024年版のウンテ怪物ver. 無垢な赤ん坊のような歌い出しからの感情の爆発。そして…

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どんな歌詞なのか知りたい方はこちらもどうぞ

 

フランケンシュタインの魅力③:主演級俳優2名のがっぷり共演

フランケンシュタインはタイトルの通りビクターが主役ではありますが、アンリ/怪物も主役と言っていいレベルの存在感がある役です。主役級の俳優二人が共演して、しかも比重が同じ位で、そのうえがっつり(物理的にも精神的にも)絡む作品って、グランドミュージカルだと意外とないですよね?(私が思いつく限りではデスノートくらいですが、月とLの絡みはフランケンほどは無い。)
フランケンシュタインは実力派俳優二人のがっぷり四つが思う存分観られるという点で、大変オタク向きな作品だと思います。小劇場に通いがちな濃さを求めるオタクたち(偏見)もフランケンと聞けば大劇場に集まってきますし、毎シーズン新しいキャストが加わるごとにそれぞれの推しケミが生まれ、SNSには星の数ほど創作物が流れてきます。特に眼鏡姿のカイアンリの人気は高く、眼鏡をクイっと上げながらビクターに反論する姿や、時に見せる眼鏡の奥の優しい眼差しは、様々な創作欲を掻き立てるようです。
キャストの組み合わせでも全く違う物語が生まれるので、今日の酒場シーンはどうだったとか、北極でこんなアドリブ言ってたとか、毎公演終わるごとにオタクたちによる大収穫祭が開催されています。
キュヒョンビクターとカイアンリの「ただ一つの未来」。私の中での通称は「神経質ペア」。多分両者潔癖。

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フランケンシュタインの魅力④:その他もろもろ

・言うまでもなくセットの豪華さ。前にも書いたことありますが、非現実的な物語の世界に誘われるには、それなりの空間演出って絶対に必要だと思います。
・アンサンブルの豪華さ。すごくレベル高い!グランドミュージカルの質ってアンサンブルで決まると思っているのですが、特に今期のフランケンシュタインのアンサンブルは子役も含めてみんな歌もダンスも演技も上手。
・衣装も最高にいい。長身の俳優たちが軍服や踝丈のロングコートを翻しながら演じる舞台、それだけで絵になります。そして怪物とアンサンブルはみんな筋肉自慢。なぜコウンソン怪物のパンツだけがローライズなのかについて友達と熱く語りましたが、理由は不明。ご存じの方はただちに連絡ください。

 

 

日本のフランケンシュタイン好きだから韓国のも観てみたいなという方、よくわからないけどそんなに言うならちょっと観てみたいかもという方、8月25日までソウルで上演されているので、ぜひこの機会に足を延ばしてみませんか!チケット売り切れてる回も多いけど、粘れば何とかなったりします!暑い夏を北極で乗り切りましょう。

*1:フランケンシュタイン3演時のドンソクビクター千秋楽、北極でのアドリブより。

*2:他には"ベンハー"や"英雄本色"、今年公開された韓国版の”ベルサイユのばら”もこのコンビによる作品です。

*3:「ベンハー」はEMK制作になってから大きな改変があり、それがオタクの意向に沿わなかったため、界隈が大変荒れました。

*4:2024年のドンソクビクター初日はよほど嬉しかったのか「アンリデュプレ!!アンリデュプレ!!!」とフルネームで2度、歓喜の雄たけびを上げていました。

*5:2024年の5演では私が知る限りご本人が指揮をされたのは1回だけ。平行して世界初演のベルばらが開幕したので、そちらに注力されるのではないかと思いますが、寂しいです(涙)

ヘドウィグ、あなたはあなたのままでいい

キタ。
2024年にヘドウィグが上演されるって聞いたときから、予感はしていた。
そしてその会場がシャルロッテシアターだと知った瞬間から、予感は確信に変わった。

ドンドゥィグゥーーーーー!!!!!*1
もうずっとずっと再演待ってた!!出てくれてありがとう!!!!!
文章化することを考えただけでも胸やけするほどのクソデカ感情を抱え、これまでちゃんと感想を残せていないヘドウィグという大好きな作品。
本陣様の再登板記念に、当時の下書きに手を加えながら改めてきちんと向き合ってみたいと思います。お付き合いよろしくお願いします。

ミュージカル『ヘドウィグ』とは

アメリカ人の俳優、映画監督であるジョン・キャメロン・ミッチェルが、自身のアイデアを基にミュージシャンのスティーヴン・トラスクと共に創作した舞台作品。ジョン自身が主演した舞台がオフブロードウェイで絶大な人気を博し、のちに映画化して更に話題を呼んだ。


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舞台や映画を見たことなくても、インパクトがあるヘドウィグのかつら姿に見覚えがある人も多いはず。日本でも2004年の初上演以降、キャストや演出を変えながら繰り返し上演されている、世界的な人気作品です。

あらすじ

全米各地を旅する売れないロック歌手のヘドウィグ。派手な衣装に身を包んだドラァグクイーンである。共産主義体制下の東ドイツで生まれた彼女は、幼少期に母親からプラトンの「愛の起源」の話を聞き、この世のどこかに自分の”片割れ”がいると信じている。
ヘドウィグは幼い頃、ハンセルという名の少年だった。窮屈なアパートで母と二人が住むハンセルの唯一の楽しみは、米軍のラジオ放送でデビッドボウイ、ルーリード、イギーポップなどのロック音楽を聴くことだった。
ある日、アメリカ人の軍人ルーサーに出会い恋に落ちたハンセル。結婚して渡米するために、ルーサーから性転換手術を迫られる。ハンセルの母親は、自身の名であるヘドウィグをハンセルに与え、闇医者で性別適合手術を受けさせたが失敗。ハンセルの股間には「怒りの1インチ(アングリー・インチ)」が残された。
ヘドウィグはルーサーと渡米するが、ルーサーは浮気してヘドウィグのもとを去る。その日は最初の結婚記念日で、ベルリンの壁が崩壊した日だった。
絶望に暮れるヘドウィグは、昔抱いたロック歌手になる夢を思い起こし、韓国軍兵の妻たちを引き連れてバンドを結成する。
アルバイトをしながら身を繋いでいる中、ベビーシッター先で、ロックスターに憧れる17歳の少年トミーと出会う。トミーにロックを教えるうちに、恋に落ちる二人。しかしある日、ヘドウィグの手術痕がばれてトミーはヘドウィグのもとを去る。
その後、トミーはヘドウィグと作った曲すべて盗んでヒットを飛ばし、人気絶頂のロックスターになった。怒り狂ったヘドウィグは、自分のバンド「アングリー・インチ」を引きつれて、トミーの後を追いかけながら巡業を続ける。
途中、巡業先のクロアチアで出会ったイツハクを夫に迎え、トミーの全米ツアーを追って公演を続けるヘドウィグとその一行は、トミーのツアー最終地であるニューヨークに到着する。
トミーが公演を行うタイムズスクエアのすぐ隣でライブを開催するヘドウィグ。ある事件がきっかけでトミーとヘドウィグの関係が世間で騒がれることになり、今日ばかりは会場も満員。少しずつトミーとの話を語り始めるヘドウィグ。
今夜、失われた片割れを探すヘドウィグの長い旅は終焉に向かう・・・

元々映画よりも舞台の方が先に作られた作品なので、映画を見れば予習としては完璧だと思います。ミュージカルでは、あらすじの最後に出てくるニューヨークの公演場、ミレニアムシアターを舞台に、舞台上のヘドウィグが観客に過去を語るという流れで物語が進んでいきます。

登場人物

映画にはたくさんの登場人物が出てきますが、ミュージカルには実質的にヘドウィグとイツハクの二人しか登場しません。ヘドウィグのライブ会場という設定なので、バックバンドのみなさんがアングリーインチ役です。ヘドウィグ役がトミー役を一人二役で演じながらほぼ一人語りで話を展開し、そこにイツハクがスタッフ兼コーラスとして登場する、という感じ。

・ヘドウィグ

東ドイツ、ベルリン出身のドラァグクイーン。売れないロック歌手。この世のどこかにいる”片割れ”と出会えば、完璧な存在になれると信じている。かつて自身の片割れだと思っていたトミーに裏切られ、憎しみとも愛ともつかない思いを抱えながらトミーを追って巡業を続けている。

・トミー・ノーシス

ヘドウィグがベビーシッターをしていた先の息子。ヘドウィグからロックを学び、やがてロックスターになる。ニューヨーク公演を前にヘドウィグと同乗していたタクシーが交通事故に遭い、ヘドウィグとの関係が世間に騒がれることになる。
ちなみに”ノーシス”はヘドウィグが与えた芸名だが、実はここに深い意味がある。

・イツハク

2019年のホンソヨンちゃんイツハク

ヘドウィグの夫。クロアチアで人気のドラァグクイーンだったが、女装禁止を条件にヘドウィグと結婚してクロアチアを抜け出した。ちなみにこの設定は舞台上では語られないが、大変重要なポイント。

・アングリー・インチ

韓国軍の妻たちで構成されるバンドメンバー。俳優ではないミュージシャンのみなさんなので台詞はないが、たまに俳優からいじられたり歌わされたりする。

ヘドウィグのここが好きその1:哲学的なストーリー

派手なヴィジュアルや激しい曲調にばかり目が行きがちですが、ヘドウィグの背景にはとても深い設定や伏線があります。

・魂の片割れ
ヘドウィグが探し求めている、自身の”片割れ”。
これは古代ギリシアの哲学者、プラトンの著書『饗宴』に記されている話がベースになっています。『饗宴』は、プラトンの師匠であるソクラテスが、他の哲学者たちとの愛に関する対話を本としてまとめたものです。その中で哲学者アリストパネスがこう語ります。
「昔、人間は二人で一つだった。男と女、男と男、女と女という三種類の人間が、背中合わせに繋がっていた。しかし人間の力を恐れた神々が、それを二つに引き裂いた。それ以来、人間は自らの完璧な片割れを追い求めている。それが愛なのである。」
母から寝物語としてこの話を聞いた幼いヘドウィグ。劇中、『愛の起源(The Origin of Love)』という曲でこれを語り、歌い終わった後に呟きます。「私の片割れは男、女どっちなの?」
手術に失敗し、アングリーインチを抱えて生きるヘドウィグは、不完全な自分に負い目を感じ、完全な存在になるには”片割れ”が必要だと信じているのです。この設定が、物語の結末に繋がっていくことになります。
伝説のチョドウィグ(チョ・スンウ)
による”The Origin of Love”2013年版


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・抑圧と解放
ストーリー上、随所に感じられる「抑圧と解放」というテーマ。
まずヘドウィグ。自由になるためにルーサーから女性の身体になることを強いられたが、彼はベルリンの壁が崩壊した日にヘドウィグの元を去る。その手にはルーサーが買い与えたウイッグだけが残った。女性の身体に閉じ込められたヘドウィグは、自身の片割れが男なのか女なのか悩み、自分の不完全さを呪う。

そしてイツハク。社会主義国クロアチアで人気のドラァグクイーンだった彼は、奔放なヘドウィグに憧れ、ここから連れ出してと懇願する。ヘドウィグはイツハクに「今後女装しないと誓うなら、結婚して連れ出してあげる」と告げ、彼はそれに従い、ヘドウィグの夫となる。こうして男の身体に閉じ込められたイツハク、舞台上でヘドウィグのウイッグを被ろうとしているところを見つかり、ヘドウィグに激怒されるシーンもあります。

最後にトミー。厳しい親の元で管理されて育ち、自由とその象徴のロックに憧れる少年にとって、ヘドウィグは眩しい存在でした。そのヘドウィグと恋に落ち、よい雰囲気になったものの、ヘドウィグのアングリーインチを前に驚いて逃げてしまいます。そのままヘドウィグと別れてしまったトミーは、ヘドウィグに与えられたトミー・ノーシスという名で彼女と作った曲を歌い、一躍ロックスターになります。トミーは別れたヘドウィグにどういう思いを抱いていたのか、ヘドウィグの語りではわからない彼の思いは、後半の曲”Wicked Little Town Rep.”の中で語られます。

果たして”片割れ”は存在するのか?抑圧された身体と魂がどのようにして解放に向かうのか?これがこの作品の重要なテーマです。
ちなみに登場人物の名前にも聖書や哲学をベースにした深い意味があって、そのあたりも理解すると作品の理解度が格段に深まります。ヘドウィグ、本当に深くて、考察好きのオタクを唸らせる名作だと思います。
いつも他力本願で恐縮なのですが、こちらのブログがそのあたりを大変詳しく解説されているので、興味がある方はぜひご一読ください。

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つらつらと難しいことを書きましたが、そんなに構えて鑑賞する必要はなく、単純に笑って泣けて、最後には「あなたはあなたのままでいい」という励ましをもらえる、とてもいい作品です。私が疲れたときに観たくなる2大ミュージカル、アラジンとヘドウィグっていうくらい。誰も死なないし*2

ヘドウィグのここが好きその2:個性的なキャスト

韓国では「俳優の登竜門」と言われているヘドウィグ。2005年の初演時から、チョ・スンウ、オ・マンソク、オム・ギジュン、パク・ゴニョン、チョ・ジョンソク、ユ・ヨンソク、チェ・ジェウン、イ・ギュヒョンキム・ジェウク、ビョン・ヨハン・・・と、数々の有名俳優たちが演じてきた作品です。
2005年の初演時は大学路の小劇場で上演されていたのが、人気が出るにつれてだんだん会場が巨大化し、ついに忠武アートセンター大劇場やシャルロッテシアターで上演されるまでに。舞台転換も休憩もない二人劇だし、ライブ感が楽しい作品なので、大劇場でやるのはどうなのかと思いますが、小劇場だと絶対チケット取れないし。
大劇場でやるってことはつまり、大空間を一人で盛り上げるだけの力がある俳優のキャスティングが約束されているわけです。
なんと今年はうちのドンソクさんの他にも、チョ・ジョンソクとユ・ヨンソクが復活登板!元々人気も実力もあるうえに、ドラマ「賢い医師生活」で更に人気が出た賢医コンビのヘドウィグ。血ケッティング必死です。怖い。

これまでのシーズンでも途中で追加キャストがあったし*3、今回も公演期間が3月~6月と長いので、追加キャストあるのでは?という噂もチラホラ。怖い。
このような感じで、韓国ヘドウィグは1シーズンに複数キャストが演じるのが通常なのですが、それぞれが個性全開で本当に面白い。
マイケル・リー神演じるヘドウィグは全編英語で演じられ、2019年版は「来韓公演をしているBTSの大ファン」という設定。BTSのバスタオルを肩にかけて登場し、Boy With Luvを歌い踊るリーウィグ、かなりレアなものを拝見しました。
ドンソクさんに至ってはセルフパロディ満載で、「チグミスンガン!!*4」という台詞を連発してみたり、ルーサーからもらったグミを食べながら「熊、おいしい*5」と低音ボイスで呟いてみたり。今期はドラキュラネタ入れてきたりするのかな。
あと、トミーが初めてライブハウスを訪れたシーンでヘドウィグが歌うシーンがあるんですが、ここで歌う曲も俳優さんによって違います。各俳優が好きな曲を自由に選ぶそうで、それぞれの個性がでるところです。2019年のドンソクさんは、WestLifeの”My Love”を歌っていましたが、選曲理由については「昔よく聞いていて、好きな曲だから」とのこと。あっさりしすぎ。きっと何か思い出があるんでしょう(笑)
ちなみにイツハクのソロ曲もキャストによって違うので、組み合わせで色んな曲が聴けるのもお楽しみポイントです。

ヘドウィグのここが好きその3:ライブ感

ヘドウィグはミュージカルではありますが、バンドの生演奏ということもあり、ほぼライブといっても過言ではないです。特に韓国版は。
ヘドウィグが縦横無尽に客席を駆け回り、観客を煽り弄りまくります。口から噴き出した水をかけられたり、舞台に上げられたり、トミーに見立てて目を見つめて歌われたり、股間を擦り付けられたり*6。さすが歌って踊る血が流れている韓国人、観客もノリノリな人が多く、毎回会場中が大盛り上がり。コロナ禍公演では無かったようですが、今年は趣向を変えて復活予定とのことで、大劇場でオンニがどんな風に暴れまくるのかが楽しみです。
あと、上演時間135分となってますが、この時間通りに終わった公演を私は知りません。まず、ヘドウィグが喋りまくる。好き勝手にアドリブを入れながら、とにかく喋る。もちろんキャストによりますが、特にベテラン陣は酷い。韓国語がよくわからない状態で観ても猛烈なお下劣さを感じる、終わりのない一人つっこみだべり。早口でまくし立てるうえに俗語だらけなので、外国人の私は置いていかれることもしばしば。周りは大爆笑の渦。
もう一つのポイントは本編終了後のアンコール。劇中曲をダイジェストで演奏してくれるんですが、もちろん客席は総立ち、ジャンピングやらヘドバンやらで踊りまくるライブハウス状態。しかもW、トリプル、クワトロアンコールもアリ。マチネ公演のアンコールを2時間近くやった後、「そろそろソワレが始まる時間だから終わらなきゃ~」って言いながら去っていった俳優さんもいました。チョン・ムンソン、お前だぞ。膀胱限界だったぞ。休憩なしの4時間公演、最高に楽しかったぞ。
これまでの最長公演はチョドウィグの4時間半と聞いたことがあります。さすがスンウ先輩。開演前の水分摂取と終演後のスケジュールには十分にご注意ください。
こんな感じで自由度が高いので、毎公演ごとに趣が全然違うのも醍醐味。何度も通いたくなる理由がそこにある。
最高に楽しく最高に膀胱が限界だったムンソンさんのヘドウィグ


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ヘドウィグのここが好きその4:いつもと違う推しの姿

普段はオーケストラの中、声楽発声のバリトンボイスを響かせている俳優さんが、エレキギターをバックにシャウトする姿を見られるなんて、考えただけで最高じゃないですか?オペラ座の怪人がヘドウィグやる世界線が存在するなんて*7
ええ、推しのチョン・ドンソクさんのことなんですけどね。
ヘドウィグは映像でも活躍する演劇寄りの俳優がキャスティングされることが多くて、正統派ミュージカル俳優が出ることってこれまであまりなかったので*8、2019年にドンソクさんの出演が発表されたとき、ミュオタ界隈がかなりざわつきました。
え、大丈夫なの?ロック歌えるの?客席煽れるの?踊れるの?脱げるの?・・・等々。
そんなオタクどもの心配をよそに、ご本人は女性アイドルの動画を見ながら漢江沿いで必死に骨盤を振る練習をし、せっせと体を作った(?)努力の結果、眩しいほどに煌めく、美しく儚く強いロックスターを生み出したのです。

ヘドウィグを演じるドンソクさん、今まで見たことがないくらい楽しそうなのが伝わってきて、観てるこっちもうれしくなっちゃうくらい。「自分を変えるためのチャレンジ」として役を引き受けたそうですが、確かにヘドウィグ以降は度胸と自信がついたなと感じることがしばしばありました*9
あとね、美しいうえに可愛い。キュート。小悪魔。お友達がドンドゥィグを評して『186cmのプリキュア』と呼んでいたのですが、まじでプリキュア。きゅるきゅるしてるんだもん。お肌艶々でメイクもネイルもキラキラしてて、私も綺麗にメイクアップして観に行きたい!って思わせてくれる可愛さ。ファンの間でドンオンニと呼ばれ、ご本人もまんざらでは無さそう。舞台上から「私、最高にかわいいでしょー!!」って同意を求めてくるオンニ。はい、可愛いです。
ちなみにキャストごとに異なる衣装も見どころ。長身で色白のドンオンニはピンクやパープル系の衣装が中心で、長くて綺麗な足が映えるホットパンツやショートドレスがよくお似合いでした。
もちろん外見だけでなく、何よりもロックを歌うドンソクさんが素晴らしくカッコよくて。普段からカラオケでは激しいロックやメタルをよく歌うって話してたので、ジャンルとして好きなんだと思う。声楽が歌える人のロック、めちゃくちゃ音域が広くて声がデカい。超高音の地声シャウトで会場を沸かせたかと思うと、イツハクと大声対決して観客の耳を麻痺させたり。かと思えば一人ひとりに語り掛けるように歌うバラードで涙を誘い、最後はヘドバンしながら踊り歌う。初めて観たときは衝撃が強すぎて、終演後に開場下のスタバで2時間ほど茫然としてました。
デフォルトがタキシード仮面なドンソクさんのこんな姿が見られるのは、間違いなくヘドウィグだけ。名優揃いなキャストだし、他作品も目白押しな2024年ですが、ぜひドンドゥィグをお見逃しなく。

 

というわけで、今回も長くなってしまいましたが、とにかくヘドウィグはいいぞ、という話です。ぜひキャスト違いで制覇してください。全キャスト観たら、絶対にもう一周したくなるはず。
喋りが多いので初見予習なしだとかなり厳しいと思いますが、映画や日本版を見たことある方なら十分楽しめるかと。そして少しでも韓国語がわかれば楽しみ倍増。私も開幕に備え、リスニング力を鍛えたいと思います。そして今やパジャマと化しているヘドウィグTシャツを仕込み、きれいにメイクアップしてシャルロッテシアターに乗り込みたいと思います。2024年ヘドウィグは3月22日から6月23日まで、シャルロッテシアターにて上演です。オンニ待っててね!!
2024年版のティーザー映像


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*1:俳優の名前+ウィグをつけて呼ぶのが韓国流。スンウ先輩はチョドウィグ、ドンソクさんならドンドゥィグ。ドンドゥィグは日本語の発音的には「タンポポ」のイントネーション。間違っても「ドンタコス」のイントネーションで発音してはならない。

*2:オタクが好きなミュージカル作品、大抵主人公が死ぬ。

*3:2019年はマイケル・リーとイ・ギュヒョンが途中参加

*4:ジキル&ハイドの有名な曲”時が来た(지금 이 순간)”のこと。ちなみに2019年当時、ジキハイのソウルアンコール公演とヘドウィグの公演期間が被っており、ヘドウィグに染まっていたドンソクさんはジキハイ公演の中で「足が跳ねてしまうジキル」「小指が立ってしまうハイド」などの名シーンを残して伝説となった。

*5:みんな大好きフランケンシュタインより、怪物の有名な台詞。

*6:カーウォッシュと呼ばれる儀式。”Sugar Daddy”という曲中でヘドウィグが着用しているビラビラしたスカートを、客席にまたがり観客の顔にこすりつける。ドンドゥィグは最後にありがと♡と呟きほっぺにチューしてくれる。

*7:ご存知の通り、韓国にはこれをやり遂げた俳優がもう1人実在する。すごい世界だ。

*8:ミュージカル俳優枠では、2019年にはユン・ソホさん。2021年にはコ・ウンソンさんが出演されています。

*9:ソロコンでの客席を煽るトークや、羞恥を捨てた役への入り込みなど。あときっとダンスに自信ついたんだと思う。フランケンのインタビューで自らダンスが得意だと話していたし・・・うん。

イルテノーレ、それは美しき群像劇

前回のエントリーが去年の7月(釜山オペラ座)だという事実に驚いています。ご無沙汰しております。ツイッター(永遠にこう呼び続ける)では常に叫び続けているのでお分かりかと思いますが、私は全力で元気です。

全然追いついていないけど、2023年は前半は主にオペラ座の怪人、後半はドラキュラ、あと全編を通してNCTに捧げました。過去は振り返らないタイプなので、かかった費用と遠征回数については考えないことにしています。

そんな中でも、この作品についてはどうしても記録に残しておきたい。2023年年末に観て、とても心に残った作品について書かせてください。ぜひたくさんの人に観ていただきたい。本当に素晴らしい作品だから。

『イルテノーレ』とは

ジキル&ハイド、スウィーニートッド、ドラキュラ、デスノートなどを手掛ける韓国の大手ミュージカル制作会社ODカンパニーによる新作オリジナルミュージカル『イルテノーレ』。
バンジージャンプする』『メイビー、ハッピーエンディング』の制作で知られる作曲家ウィル・アロンソン、作詞家パク・チョンヒュコンビによる作品。数年前に公開されていたリーディングにはチェ・ジェリムさん、チョン・ミドさん、イ・サンイさんという豪華メンバーが参加していて、今回も登板が噂されていたのですが、残念ながら実現しませんでした。(とはいえ、期待の斜め上をいくキャスティングだったのですが)
ちなみにイルテノーレとは、イタリア語でテナーを意味します。

ジェリムさんとミドさんの歌声が聞ける貴重なリーディング動画。イサンイさんの姿も。


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あらすじ

1930年 日本帝国統治下の京城
抗日運動の集会である「文学会」メンバーは、ますます激しくなる総督府の検閲を避ける方法を探している際、偶然にイタリアオペラ公演を計画することになる。

外圧に対抗して戦うヴェネツィアの人々を主人公としたオペラ『I Sognatori-夢見る者たち』が京城市民の抗日精神を鼓舞することを期待し、この得体の知れない「西洋創劇」を公演するために奮闘するメンバーたち。
その中心は、自分でもその才能に気づかなかった特別なテナーの声の持ち主である医大生ユン・イソン、京城で最も英雄的なリーダーであり演出家であるソ・ジヨン、危険なほど情熱的な独立運動家であり、ステージデザイナーであるイ・スハンである。

思わぬ展開に流れていく状況の中、彼らの「朝鮮初オペラ」は無事に公演できるのだろうか?(Interparkより)

主人公のユン・イソンは、実在の人物である韓国初のオペラ歌手イ・インソン(1907~1960)をモデルにしていて、インソン氏もセブランス医大卒の医師だったそう。
日本の植民地時代が舞台なので、日本人の私にとって目を背けたくなるような作品だったらどうしよう、と思っていたのですが、もちろん向き合わねばならない時代背景が前提ではあるものの、作品の焦点は登場人物それぞれの情熱であり、美しい音楽に載せて描かれるその物語に、激しく心を揺さぶられました。
詳しいストーリーはこちらのブログで大変丁寧にご紹介されています。ネタバレ無しで観ることを強く強く強く推奨しますが、台詞も多いので、事前予習したほうが良い方はネタバレ前の部分までどうぞ。

maumudero.blog62.fc2.com

 

メインキャスト紹介

・ユン・イソン(ホン・グァンホ/パク・ウンテ/ソ・ギョンス)

セブランス医大に通う医大生。抗日運動で命を落とした医大生の兄の志を継ぐため、父親に言われるがままに医者を目指している内向的な学生。ある日偶然オペラを耳にしてその美しさの虜になる。今まで歌ったこともなかったが、類まれなる才能を見出され、オペラに夢中になる。ついには医者の道を捨て、文学会のメンバーであるジニョン、スハンと共に朝鮮初のオペラ上演のために奔走する。

・ソ・ジニョン(キム・ジヒョン/パク・ジヨン/ホン・ジヒ)

表向きは劇団、実態は抗日運動を行う学生たちの集まり「文学会」のカリスマ的リーダー。劇団では演出家である。両親は抗日運動で命を落としている。演劇を通して朝鮮人の誇りを取り戻し、日本帝国から独立することを夢見て活動している。

・イ・スハン(チョン・ジェホン/シン・ソンミン)

「文学会」で舞台デザインを担当する建築学科の学生。文学会のリーダーの座をジニョンと争っている。独立運動への強い情熱を持つ過激派であり、緻密に計画を進めようとするジニョンとしばしばぶつかる。

 

おすすめポイントその①:メインキャスト

さすがOD新作、気合がすごい。主人公のイソン、とんでもないラインナップでやってまいりました。
韓国の至宝ホン・グァンホ、韓国の神ことパク・ウンテ、そして色物から正統派まで全て自分色に染めるスーパーカメレオン俳優*1、ソ・ギョンス!ついに韓国二大巨頭に並んだソ・ギョンスさん、すごいや。
類まれなる才能を持つオペラ歌手という設定上、歌唱力は絶対なんですが、この3名は文句なし。歌声だけでもチケット代の元が取れます。私はまだギョンスさん観られていないので、グァンホさんとウンテさんの推しポイントを。

一昨年の冬、オペラ座の怪人のキャストにグァンホさんがいなかったときはがっかりしたんですが、まさかここにきてグァンホさんのオペラを堪能できるなんて。
グァンホさんのオペラ歌唱、久しぶりにフルスロットルで声出してて*2、これぞホン・グァンホ!って総毛立ちました。初めて歌うシーンで、先生や学生たちに「うわー、声が大きい!!」ってびっくりされるシーンがあるんだけど、グァンホさんまじですごい。アンサンブルと合唱してても飛びぬけて声がデカい。
歌声で展開するシーンがいくつかあるんですが、アカペラで響き渡るグァンホさんの歌声、声圧だけでなく表現力が素晴らしくて、作品のテーマであるアリアの旋律が今も脳内から離れない。年を取ったシーンで歌うアリア、しゃがれ声から始まり、次第に強く響き渡っていくあのシーン。涙が止まらずハンカチを眼鏡の下に挟みながら観るという初体験をしました。今も思い出すだけで泣けます。
あと、イソンの冴えない役柄がグァンホさんにピッタリ。学ランに丸眼鏡で猫背の学生姿なんて、あー陰キャなんだ、って一目でわかったし、ぼさぼさ頭にしわっぽいタキシード、ちょっと曲がった蝶ネクタイも最高にイソンのキャラを表現してました。ジニョンへの告白シーンもものすごくぎこちなくて、歌声だけじゃなくキャラもグァンホさんのあてがきなのかな?って思っちゃうくらいの野暮ったさ(褒めてます)。
歌声といい、役柄といい、まさにイルテノーレなのがホンイソンだと思います。

一方、ウンテさんのイソン、ウンイソン。ウンテさんの歌声って声圧はそこまで感じないけど、空間を包みこむ独特のオーラがあるじゃないですか。ウンテさん自身テノールの音域ではないし、オペラ歌唱とは路線が違うんだけど、ひとたび歌い始めると周りの空気が一変して、聖なるオーラに包まれる。もうこれはウンテさんにしか作り出せない世界観。音楽をひたむきに愛し、夢を追い、仲間を思う心が伝わるウンイソン。もはや尊さに近い純粋さが、あの歌声に乗って伝わってくるんですよ。前日にホンイソンを観て、こりゃウンテさんはバスタオル案件だと悟った私、涙を拭くのを諦め、ハンドタオルをよだれ掛け状態にして臨みました。正しかった。
役柄は圧倒的にグァンホさんのほうが合ってるんだけど、ウンテさんの感情への訴求力は誰も勝てないと思う。会場中がすすり泣き状態。
あとね、ウンイソン、冒頭、涙目なんですよ。1回観た人はその理由がわかるはず。ウンテさんは観客に伝わりやすく演じてくれるので、2回目に観ると色んなところでハッとさせられる場面があって、個人的におススメです。
見た目は、素敵さを隠すためにわざとダサくしてる?って感じ。眼鏡姿は素敵だし、タキシードなんて最高に似合っちゃってるし、ジニョンに対してもすごく紳士的だし、ところどころで色気漏れちゃってるし。中の人のお茶目さも垣間見えるシーンもたくさんあるので、ウンテさんファンは必見の作品だと思います。

メイン二名について長く書きすぎましたが、ジニョンも実力派揃いだし、スハンも舞台好きならおお!と飛び上がる絶妙なキャスティング。ODカンパニーのキャスティング力は本当にすごいと思います。いつも信じてる。

陰キャのホンイソンと素敵すぎるウンイソン



おすすめポイントその②:アンサンブル

直前までメイン3役しか公表されなかったし、上演会場が中劇場クラスだったので、3人劇なのか?と思っていたのですが、蓋を開けてみたらびっくり。総勢20名弱の個性豊かなアンサンブルが、一人ひとり役を生きているではないですか。
オペラ歌手を夢見ていたアメリカ人宣教師、美しい声でイソンをオペラをいざなった女学生、イタリア語を翻訳する女学生と彼女と恋に落ちる気難しいピアニスト、バイオリニストの日本人学生シンイチ・・・彼らが繰り広げるサイドストーリーも面白く、それぞれの思いが作品中に丁寧に表れているのがとても素晴らしいと思いました。
タイトルにも書いたように、この作品はメインキャスト3名を含む群像劇だと捉えるのが正しい気がします。
この作品は初見が宝物になると思うのですが、2回目以降はサイドストーリーにもしっかり目を向けることができるので、スルメ的にも楽しめる作品だと思います。

キャスト多いじゃん!ってなったキャストボード

おすすめポイントその③:伏線だらけのストーリー

そう、この作品は初見が宝物になります。
韓国のミュオタの皆さんも、それを痛いほど分かってるからSNSやブログには詳しい内容はほとんど書いていません。なんて優しい世界。
私も詳しくは書かないですが、観終わった後に劇場から踏み出した瞬間、目に入る殿堂の垂幕を見て涙があふれること必至。宣材に使われてるイメージや舞台セット、小道具、色んなところに伏線があるので、ぜひ上演中は隅々まで目を光らせて観劇してください。
ちなみに上演会場である芸術の殿堂トウォル劇場、会場全体が半円形で奥行きがあって、ダイナミックに回転する舞台が売りなんですが、全く回転する様子がなく。あと生演奏なのになぜかOP席が売られている。なんでだ?と思ってたこの会場への疑問も、すべて作品中で回収されました。本当によくできた作品。
よく韓国の大劇場作品は粗が多いとか歌でねじ伏せるとか言われてるのを見かけますが、こういう作品もあるということが広く認知されるといいな。

終演後に観ると泣ける垂幕

おすすめポイントその④:美しい音楽

バンジージャンプする』や『メイビー、ハッピーエンディング』を観たことがある方ならお分かりかと思いますが、ウィル・アロンソン&パク・チョンヒュコンビの曲って、耳に残る美しい旋律が多いんですよね。韓ミュといえば強くて圧がある曲が多いと思われてる傾向がありますが、こういう湿度を感じる曲もたくさんあるんです。
特に作品のキーとなるオペラ『夢見る者たち』の愛のアリアは、作品中随所に散りばめられていて、それが最後のシーンで全て収束していきます。終演後もずっと耳から離れないアリア、一度観た後にこのティーザーみると感情大爆発するので試してみてください。


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この冬はライセンス作品の大作が豊作だからか、感想見たくてエゴサしても、「イルテノーレ観ました!」っていう方が少なくて寂しがっているオタク。実は韓国では直前に色々あって不買運動が起こってしまい、普段は全然取れないキャストなのにチケットも取りやすい状況なんです。ただ最近は評判が評判を呼んで、ミュージカルファンじゃない一般の人にチケットが売れている様子。
2月25日までやってるので、韓国まで足を延ばした際にはぜひとも観ていただきたいです。そして観た人たちであーだこーだネタバレ含めて語れたらうれしいな。

私もあと1,2回は観ると思います。そのあとはヘドウィグに向けて色々と整えていく所存です。2024年も忙しくなりそうですね。

文学会のアジトを模したフォトスポット

 

*1:NtoNのゲイブ、シラノのクリスティアンといった正統派(?)からキンキーブーツのローラ、デスノートリュークといった色物まで本当に何でもこなす。ちなみに高校生の頃に現代舞踏を学んでいたのでめちゃくちゃ踊れるらしい。

*2:体感ジキハイ以来

オペラ座の怪人と私~釜山編

相変わらずアウトプットが追いつきません。エリザやJCSのあれこれも書きたいし、デスノートアンコール公演についても色々書きたいことはあるけれど、とりあえず2023年上期を捧げたこれを先に。

オペラ座の怪人が13年ぶりに韓国で再演!
しかも!推しが!ファントム役に!!
私が記憶がある中でおそらく一番最初に観たミュージカル。世界中にコアなファンがいる、あの名作中の名作に、ドンソク氏が?
デビュー前から応援してたアイドルが東京ドーム公演やる気持ちって、こんなだろうか。
しかも、チョスンウ先輩がいる。これはレジェンド演目になるに違いない。

一年で一番忙しい年度末やら突然の転勤引っ越しやら、目が回るような忙しさと並行しつつ、チケッティングやら飛行機ホテル手配やらをこなし、定番となった月曜朝帰りパターンで、仕事に穴をあけることなく前半の釜山公演をプレビューから楽日まで見届けることができました。

厳しいライセンス作品なので、舞台セットも演出も曲も全てオリジナル準拠なのに、そこはかとなくダダ洩れる感情の渦。遊びの部分がないから1,2回観たら満足するかなって思ってたのですが、予想を裏切る俳優陣の熱演と、キャストごとに全く色が違うファントムのせいで、気がついたら回数増し増し。
8月からはファントム役にジェリム先輩が加わり、4か月間のソウル公演が始まります。頼むから舞台を愛する皆さんに観ていただきたい。あなたが知っているオペラ座とは違うオペラ座が、そこにはあります。

今回はスケジュールの都合でジュテクファントムが観られなかったのですが、そのほかのメインキャスト陣について感想をつらつら書かせていただきます。

ソン・ジス(クリスティーヌ・ダーエ)

通称ジスクリ。ジスさんは本業の声楽家。ソウル大声楽科を主席卒業→イタリアに留学→現地でオペラデビューという、輝かしい経歴の持ち主。ミュージカルは初出演。
とにかく歌が素晴らしい。小さな体のどこからそんな声が?という声量で、難解な旋律を天使の声で歌いこなす、まさにリアルクリスティーヌ。
初期のころは、歌が動きに先行する感じでぎこちなさも感じたけど、後半は上手く動きに感情も乗せてきていて、安定感抜群。釜山のスンウ先輩とのペア楽が本当に素晴らしくて、クリスティーヌのファントムへの愛や迷いが手に取るように伝わり、スンウファントムの切なさと相まって号泣しました。
あと、他の俳優陣がみんな体格がいいから、それに合わせるために一生懸命舞台を走り回るジスクリが可愛いの!特にマスカレードのシーン。ちょこちょこちょこって小さい歩幅で必死にラウルを追いかけてて、がんばれ!って応援したくなる。
後半のソウル公演ではもっと良くなるだろうな。個人的には歌唱対決が見られるドンソクファントムとの組み合わせがお勧め。

ソン・ウネ(クリスティーヌ・ダーエ)

通称ウネクリ。延世大学声楽科出身。ポッペラというポップス+オペラを組み合わせたジャンルの歌手として活躍していて、YouTubeチャンネルもあります。
ミュージカルデビューは2018年エリザベートのアンサンブルだったとのことで、もしかしてと思って当時のキャスボ見てみたら、いた!!

ここからヒロインに抜擢されたことを思うと、主役級も完全オーディションの実力主義社会の凄さを感じます。
ウネクリはとにかく感情表現が豊か。クルクル変わる表情に白くて赤ちゃんみたいなプニプニさがとても愛らしい。見てるとこっちもニコニコしてきちゃう。その上に恵まれた体格で、めちゃくちゃ生命力を感じるクリスティーヌ。ラウルの助けがなくともオペラ座地下から生還しそう。特にスンウファントムとの組み合わせではこのペアだけで観られる演技のディテールも多く、オペラ座ってこんなに感情のやり取りあったっけ?って思わせてくれます。2幕後半は1秒たりとも見逃せない激しい感情の応酬。
ウネクリのおかげで、クリスティーヌからファントムへの愛情の深さを感じることができたし、それが恋の類ではなく親に対するものと同類なのだと腹落ちしました。
もちろん歌も文句なし。釜山千秋楽ではThink of Meラストの高音を伸ばして歌い上げていて、会場から拍手が沸き起こってました。

ソン・ウォングン(ラウル)

ウォングンさんがラウル!と話題騒然だったキャスティング。最初に発表されたときはファントム役だと思ってた。そしてジュテクさんがラウル役だと思ってた。
スリルミーの彼役やStory Of My Lifeのトーマス役、Daddy Long Legsのジャーヴィス役などで有名なウォングンさん。ちょうど釜山公演中はソウルでやってたRed Bookとかけもちで、毎回カテコでは心配になるくらい憔悴してたけど、無事に釜山公演駆け抜けました。
大人でしっとり落ち着いた雰囲気のウォングンラウル。スンウさん以外のファントム3俳優より年齢も上で、包容力抜群。Think of Meでクリスを発見したときも、隣に座ってるマダムに丁寧にお願いしてオペラグラスを拝借。ジェントル。
そしてウォングンさん、こんなに歌えるなんて知らなかった。元々ファッションモデル→歌手→俳優という異色の経歴で、韓国中の声楽家が応募したというオーディションでラウル役を勝ち取った実力。これまでの出演作ではそんなに歌い上げる曲がなかったからなのか、私が気づかなかっただけなのか。
釜山の楽日に偶然退勤に遭遇したのですが、公演期間中に3度目のコロナに罹患して大変な思いをしたとのこと。キャストも関係者も細心の注意を払っていて、本番以外は全員マスク必須。特にファントム役の俳優は仮面の上からマスクするから大変だそうです。そんな厳戒態勢の中、毎回素晴らしい公演を見せてくださることに感謝しかないです。ソウル公演も無事に乗り切れますように。
ところでウォングンさん、IUの日本デビュー曲のMVに出てたの知ってました?私最近知ってめちゃくちゃびっくりした。アイドル歌手の名残を感じる素敵なお姿。
参考資料

youtu.be

ファン・ゴナ(ラウル)

TV「ファントムシンガー3」で一躍有名になったゴナさん。
187cmの長身、彫刻のようなお顔立ちに、音域の広いバリトンボイス。これは人気がでないわけがない。事実、プレビューを観たドンソクファン(私も含む)が口々に「あの子は誰???」と騒然としてた。
ゴナラウル、とにかく熱い。お友達が「修造ラウル」と呼んでいた。熱血。
Think of Meでは隣のマダムのオペラグラスを無理やり奪い取り、立ち上がってクリスに嵐のようなブラボーを送る、強火オタクの様相。四季版でのマスカレードのクリス肩乗せ、韓国版にはないのですが、ゴナラウルなら絶対できるからやってみてほしい。
若くて自信と勢いがあって常に目に炎を燃やしてる感じ、特に陰の部分が目立つスンウファントムとの組み合わせだと、ファントムの悲しさをより一層引き立てて最高。
一方、自信溢れるドンソクファントムとの組み合わせでは、バリトン同士のマッチアップが最高。墓場のシーンでは天下一武闘会みたいな波動の飛ばしあいで、間に挟まれるクリスティンが心配になるくらい。この二人の「ただ一つの未来」(フランケンシュタイン)を聴くまで私は死ねない、オタクはそう思ったのであった。

チョ・スンウオペラ座の怪人

ずっと噂はあったし期待はしてたものの、現実になった瞬間「チケット取れるのか…?」という不安に襲われたスンウ先輩ファントム。開幕前からレジェンド公演だと言われたキャスティング。そしてその期待を上回るものを見せてくれるチョ・スンウという人。本当に恐ろしい。
スンウ先輩の魅力は歌そのものよりもその演技と存在感なのだけれど、今回は第一声を聴いた瞬間、鳥肌立ちました。もんのすごく歌が上手くなっている…!!声楽家揃いのファントムの中、ものすごいプレッシャーで、直前まで歌の特訓に励み、幕が開けるまで不安で仕方なかったというスンウ先輩。努力を惜しまないからこその実力と人気なんですね。
深みを増した歌声に乗せて紡がれるファントムの感情。最後のシーンで静かになった会場のそこかしこから聞こえるすすり泣き。オペラ座の怪人って、こんなに感情移入する物語だったっけ?私たちは何を見せられたのか?終演後に魂抜かれてフラフラと夜道を歩いたプレビューの夜がまだ忘れられません。
でも実はプレビューから楽までに一番演技が変わったと感じたのがスンウファントム。プレビューでは子供っぽく、人と触れ合ったことがない、コミュ障の極みのようなキモオタクファントムだったのに、次に観たときは、人の恐ろしさを知り尽くして人を避けているような、愛を拒否して生きてきたような悲しく切ないファントムになっていて愕然としました。兄ちゃん、この人の引き出しいくつあるん?
そしてなんといってもチョユリョン*1と言えば、細かすぎる演技。今回も小道具の使い方から吐息の使い方や間の開け方、指先から足先の動きに至るまで、舞台にあるものを一つも無駄にせず使いこなす職人技。
クリスとラウルが屋上で互いに愛を告白するシーンで隠れている大天使像をユラユラ揺らしたり、墓場のシーンでは火の玉を出す箇所にこだわってたり*2、その火の玉で舞台に火をつける流れにしてたり、ドンファンの勝利で指先だけで喜怒哀楽を表現したり(北島マヤもびっくり)、マネキンをどかして椅子に座るシーンでマネキンとワルツ踊ったり、クリスが脱ぎ捨てたブーケを大切に扱ってたり。
私が一番ハッとしたのは、ラストシーンでクリスがファントムにキスしたとき、クリスがチョユリョンの右頭の大きな傷に触れるんだけど、その手をそっと外して袖口でクリスの手のひらを拭うんですよ。まるで、汚いものに触れた手を浄化するように。初期の頃はしていなかったので、初めてそれを見たときは頭をぶん殴られたような衝撃を受けました。
チョユリョンにとってクリスティーヌは正に穢れなき天使で、触れようとしても触れられないディテールが1幕からそこかしこに見られるんですが、最後にそんな伏線回数してくるなんてさーーー!!ずるいよ!泣くしかないよ!どちらのクリスティンもチョユリョンのときだけ傷に触れるので、スンウ先輩ならではの演技プランなのでしょう。
指輪を返すために戻ってきたクリスを泣きながら見送った後、マスカレードを演奏する猿オルゴールに笑顔で駆け寄り抱きしめるんだけど、この一瞬で、オルゴールが彼の唯一の友達だったんだって観客に理解させるのよね。そしてその後椅子に消える前、被ったマントを一度剥がし、最後に猿の頭を優しく撫でて消えていくのです。書きながら思い出して泣いてます。
私は幼い頃から四季版を観ていて、ファントムはクリスとラウルの幸せを引き裂く恐ろしい存在だと思っていたのですが、こんなに悲しく憐れなファントムがいたなんて。ここまで怪人に心を寄せる演技ができる俳優は、きっと世界でチョ・スンウだけだと思う。世界中のオペラ座ファンに観てほしい。チケット取れないけど。
チョユリョンといえば、他キャストと違って唯一右手に指輪を着けてるんですよね。キョンシー扮装で作曲してる時とか、地下にラウルが乗り込んできたときとか、心に迷いが生じたときに指輪を触るんだけど、なんで右手なんだろう。左手の方が観客には見えやすいし、だから他のキャストも左手に着けてるんだと思うけど、スンウ先輩のことだから何か深い意味があると思う。誰かインタビューで突っ込んでみてほしい。
そしてスンウ先輩について要注意なのは、彼の演技は毎回変わります。観るたびに新鮮な驚きと感激があります。チケットをください。
まだまだ書き足りないけど、ひとまずここまで。

チョン・ドンソク(オペラ座の怪人

いや、ファントムなのに顔良すぎ。逆にハンデ。
別作品とオーディションが重なって迷ったと話していたけど、選んでくれてありがとう。
プレビューで1幕が終わった瞬間、隣の女子二人連れが「演技はチョスンウ、歌はチョンドンソク!」って同時に叫んで周りがみんな笑うという出来事があったのですが、ドンソク氏の声楽発声をここまで思う存分堪能できるミュージカル作品は他にないでしょう。とにかく歌が凄い。前方席ではマイクを通さない生声が直で響いてきて、クリスティーンを歌声で虜にしたという劇中の設定を実体験してしまった。歌ってないはずのレッドデスでも歌声聞こえたんだけど、音源じゃなくて生歌に変更したのか、音源に生歌が勝ってしまっていたのか、真相は不明です。
ドンユリョンは自信家で激情型。でもふと見せる弱さが子供のようで、見た目の輝かしさと不器用で繊細な内面とのギャップが哀れみを感じる…ってあれ?この感じどっかで観たな?と思ったら、そりゃそうだ、コピット版ファントムで観たやつだ。

他に両ファントムやったことある俳優さんっているのでしょうか?両方演じてみてどうだったか、ぜひ感想を伺ってみたい。
ドンユリョン、クリスの前ではひたすら強く恐ろしいのに、たまに見せる優しさがずるい。花嫁衣裳のマネキンに驚いて倒れたクリスにそっとマントをかけて顔を撫でるところとか、ドンファンの勝利でクリスにそっと指輪をはめて愛を語るところとか(王子?)、DV男のそれである。チョユリョンが大切に扱うマネキンも、ドンユリョンは壊れるんじゃないかって勢いで床に投げ捨てるので、毎回ハラハラしてました。
あとね、クリスに「偽善者!信じてたのに!」って言われた後、顎クイしながら「俺を試すな…」って呟いた時、私の中の何かが爆発した。あのズラと特殊メイクにすら打ち勝つ美しさ、俳優として本当に不利だと思う。
そしてドンソク氏、気持ちが乗ってくると色々なことをやり始めるので、目を皿のようにして見張っていないと見逃してしまう。最後のシーンでクリスから返された指輪にそっとキスしたり(観客に背を向けて)、椅子に消える前、マントを被った後に悲しそうに微笑んでいたり(下手前方じゃないと物理的に見えない)、今回も観客から見えない演技がご健在。舞台としてはもっと分かりやすくやるのが正解なんだろうけど、中の人の感情のままに演じてるのがわかるし、毎回ボロボロになって泣いているので、身を削って役に入っているのだと思います。
緻密な演技プランがあるスヌユリョンと、感情のままに演じるドンユリョン、ここでも違いがはっきりしてて面白い。釜山後半ではスヌユリョンみたいに大天使を揺らすのもやっていたので、ソウルではもっと色々やってくるのではないかと期待しています。
細かい萌えポイントを言い始めるとキリがないので、こちらもこの辺で。

 

以上、超主観的な感想でした。お付き合いいただきありがとうございました。
釜山公演はスンウ先輩ではありえないくらい簡単にチケットが取れたし、経験したことがないくらい前方席で観ることもできたし、食べ物もおいしかったしアクティビティも楽しかったので、バスの運転が荒い以外は大満足でした。
ソウル公演は全キャスト平日も完売状態なので、まずスタートラインに立つことが難しい状況ですが、オタクのみんな、戦いを乗り越えてまたソウルで会おうな。
最後は釜山の思い出写真で締めくくり。

コラボしていた海雲台の海辺列車
コラボしていた影島のカフェ
釜山ドリームシアター入口
劇場内のフォトスポット

劇場1階のトイレ。そこかしこがオペラ座仕様。

 

*1:韓国語では怪人=유령(ユリョン;幽霊)という

*2:髑髏の目と口から火の玉を飛ばすのですが、目と口とでおそらくスイッチが違うようで、それを確認しながら右目→左目→口の順番で飛ばしていた

韓ミュ限界オタクの一人渡韓術

渡韓への制限が一切なくなり、コロナ禍に韓国コンテンツにハマった周囲の皆さんから「いつもどうやって行ってる?」と相談を受けることが多くなってまいりました。
私は計画性が無い上に目的が観劇メインなので、常に時間との勝負旅。情報がかなり偏ってるし、一般の旅行客を楽しませる自信などない。というわけで毎回「旅行会社の安いツアーで十分ですよ」という当たり障りのない返答で凌いでいます。
しかし、ふと思ったのです。私のニッチな情報は、ニッチな誰かのお役に立てるかもしれない。そして、私が知らないニッチ情報を、世のオタクたちはまだお持ちかもしれない。
というわけで、今回は限界オタクの一人渡韓術について書いてみたいと思います。私はこうしてるよ!とか、お得なTIPSあるよ!というみなさん、ぜひツイッターまで情報をお寄せいただけると嬉しいです。

 

1.飛行機予約

私はとにかく安さ重視なのでLCC一択。まずはスカイスキャナーでその時期の相場感を確認し、googleフライトで価格推移を確認します。海外航空券は購入するタイミングで値段が変動するのですが、googleフライトで大体の底値が把握できます。
フライトに目星をつけたら、あとはスカイスキャナーで安いサイト*1から購入。

ちなみにeチケットは印刷せずスクショ。スクショが溜まっていつの分のエアかわからなくなること多数。良い管理方法あったらご教示いただきたいです。
マイル使うという選択肢もあるのだけど、結局サーチャージ*2と空港使用税は別途支払いになるから、チケット代自体が安い韓国便だとあまりお得感がないんですよね。せっかくならハワイとか行きたい。オタク行く暇ないけど。

2.ホテル予約

①劇場にアクセスが良い場所に目星をつける
・江北地区*3:世宗文化会館、国立劇場、忠武アートセンター、大学路地区などの場合→東大門付近。
・江南地区:芸術の殿堂、シャルロッテシアター、COEXなどの場合→新論峴、江南、三成付近。
・ブルースクエアの場合→東大門か新論峴、江南。
複数作品をマチソワではしごする場合も、上記の場所が拠点なら地下鉄でもバスでも移動可能。マチネ前の午前中や、ソワレ後の遅い時間でも、買い物や食べ物に困らないので気に入ってます。

②①で目星をつけた地区のホテルをネットで検索する

まずはエクスペディアの地図検索でよさげなホテルをピックアップ。候補を絞ったら、トラベルコで金額を比較。場合によっては、飛行機チケットを購入したサイトでまとめて予約すると割引が大きい場合もあるので、その金額も確認。そのうえで一番安いサイトから予約します。

というのが流れなのですが、実は私も含めて多くの観劇オタクは東横インの怪人。東横インクラブカードを作って公式サイトから予約すると、10泊で1泊無料になるからです。国内遠征や出張もあるオタクにとって、10泊なんてあっという間。パジャマも貸し出し無料だし、いざという時に日本語通じるという安心感もあるし、ホテル内で売ってるお酒がコンビニより安い。最近は人気過ぎてなかなか予約取れないのが難点。東横イン東大門1の復活求む!

釜山の東横インにはご当地のおいしいマッコリ(福順都家)も売ってる。

3.Wi-Fi

ルーターを借りる、SIMを買う、eSIMを買う等の選択肢がありますが、私は最近はeSIM一択。貸し借りの手間がかからないし、SIMの抜き差し不要だし、何よりSIMを無くす心配がないのがいい。難点は日数の単位が限られているので、ルーター借りるより高くつくこと。でもギリギリで生きている限界オタクにとって時間は最優先ですからね。
あと、SIMかeSIMなら、受信通話可能プランを選ぶと電話番号がもらえるのも良い。最近はお店のウェイティングとかカフェの注文とかもSMSでやることが多いので、番号があると何かと便利です。*4
限界渡韓オタクの中には、追加費用無しで海外利用できるahamoユーザーも多いです。ただし韓国で何かのサイトに登録するとか、予約するとかの場合、010で始まる電話番号じゃないと弾かれる場合もあるので、その場合はやっぱりSIM系が便利かも。

3.両替

キャッシュレスが進んだ韓国ではほぼ現金使わないし、使えない店も多い。とはいえ何かのときのために多少の現金は持っておきたい。でも両替のために時間はかけられない。というわけで私は、両替もチャージも簡単にできて、どこでも使える WOWPASS派です。ソウル市内なら至る所に機械があるし、最近ついに仁川空港にも機械が設置された模様。釜山にもいくつかある。レートもまあまあ良いし、Tmoneyカードとしても使えるから、これ1枚持ってればまず困らない。残高不足の備えとしてあとクレカ1枚持ってれば、まず困ることはないと思います。

両替について面白い記事があったのでシェア。両替所までいく時間と交通費考えたら、大金を両替することがない限り、ギリギリで生きるオタクは手軽さを選びます。

news.yahoo.co.jp

4.仁川空港⇔市内の移動

江北地区なら空港鉄道、江南地区ならリムジンバス。
空港鉄道はソウル駅までノンストップの直通電車と各駅停車の一般電車があるのですが、かかる時間は15分くらいしか違わないのと、直通電車は40分に一本しかなくて料金は一般電車の倍(直通1,000円、一般500円程)なので、一般電車に乗ることの方が多いです。まあ乗る時のタイミング次第かな。ちなみに直通電車に乗る場合は事前にコネストとかで予約したら割引になります。当日でもOK。

www.konest.com

リムジンバスは日本円で2千円くらいかかるけど、路線が多くてホテル近くまで運んでくれるのでとってもラクチン。江南地区なら電車より早いし。渋滞さえなければ。
そう、空港→市内のリムジンバス乗る場合に要注意なのが、夕方の大渋滞。移動時間帯が17時〜18時台にかかる場合は、大変でも電車使ったほうがいい。通常は仁川→江南まで1時間ちょいだけど、渋滞に巻き込まれると2時間超かかる場合も。推しのコンサートに遅刻しそうになって発狂しかけたオタクからの忠告です。
バスの路線と時刻表はNAVER地図*5から確認します。

5.荷物どうする問題

時間に余裕があればいったんホテルにチェックインするか、ホテルに荷物だけ預けて出かけられるけど、ギリギリで生きる私の場合、空港から劇場に直行することもしばしば。その場合は空港からホテルに荷物運んでくれる有料サービスを使うこともあります。色んな会社があるけど、今度使ってみようと思っているやつ。

news.yahoo.co.jp

ちなみに配送サービスを依頼する時間すらない場合は、根性で持ち運んで劇場クロークに預けます。結局のところ頼れるのは体力と根性。

6.ごはん

韓国は一人飯が一般的ではないので、一人だとどうしても粗食になりがち。でも私は絶対に諦めない。ホテルでカップ麺は最終手段なのだ。

①お店に食べに行く
前述のNAVER地図で”맛집”(マッチプ。「美味しい店」の意味)と周辺検索し、心惹かれる店を調べる。そして現地に赴き、元気に「一人でも大丈夫ですか?」と尋ねてみる。韓国のお店は2人前からじゃないと注文できないお店も多いので、場合によっては2人前注文してモリモリ食べる。満足。

②持ち帰る(포장 ポジャン)
元々食べ物をなんでも持ち帰れる文化がある韓国ですが、コロナ禍以降、より一層お持ち帰り文化が発展した印象。以前は珍しかったお弁当屋さんもチラホラ見かけるようになりました。
夜遅いときや部屋でゆっくりしたい時なんかは、お店で元気に「持ち帰りにできますか?」と頼んでみる。アツアツの汁物以外は断られたことない*6です。

③ホテルに出前(배달 ペダル)
出前超大国の韓国、コロナ禍以降は一人飯の出前メニューも増えてます。注文はアプリから。日本でメジャーなUber Eats同様、カード決済で指定場所まで届けてくれます。
ペダルアプリたくさんあるんですが、外国人でも使えて一番メジャーなのが”요기요”(ヨギヨ)。最近”Shuttle”という英語表記のアプリもあるらしいので、今度使ってみようかと。持ち帰りより高くつくのが難点。

7.帰国

当方カレンダー通りに働く会社員なので、週末渡韓がほとんどなのですが、せっかくなら日曜も観劇したい。でもそうすると日曜中に帰国できない。しかしプロリーマンオタクとして、仕事に穴をあけることはできない。なので月曜早朝便で帰国して出勤するのが常です。
そんな時によく使うのが仁川空港第1ターミナルにあるカプセルホテル”다락휴”(ダラクヒュ)。綺麗で静かだし、シャワー付きの部屋もある。起きてすぐチェックインできるの最高。

www.walkerhill.com

江南地区なら朝3時台からリムジンバスあるのでそれを使う場合もアリ。早朝なら1時間くらいで着く。

午後便以降で時間ギリギリまで市内で遊びたい場合は、都心空港ターミナルを使うこともある。前はCOEXにもあったんだけど、今はソウル駅のみ。ソウル駅の専用カウンターで仁川空港出発便のチェックイン&手荷物預けができて、空港でも専用入り口から出国できるので超便利。対象航空会社も増えてるみたいだし、またCOEXも再開してくれると嬉しいです。

www.konest.com

ちなみに韓国から直行出勤の場合はスーツケースは預けず、前方通路席を指定予約。
着陸した瞬間から私の戦いは始まる。シートベルトサインが消えるや否や立ち上がり、スーツケースを取り出し、乗客列の最前を陣取る。ドアが開いた瞬間、無表情でスーツケースを引きながらダッシュかまし、入国ゲートと免税ゲートを瞬殺した後、タクシーに飛び乗る。そして何事もなかったかのように出勤するのだ。いつかプロフェッショナルで特集してほしい。

8.一人渡韓に関する情報収集

一人でも行けるご飯屋さんとか、時間潰せるカフェとか、その他お役立ち情報は、ツイッターの韓国整形アカウントさんを参考にさせていただくことが多いです。コロナ禍の彼らの情報は大変有益で、たくさん助けていただきました。
特に江南地区の情報は豊富だし、周辺知識もかなり習得できた気がする。人中って縮められるんだな、とか、〇〇病院の△△先生は鼻が得意、とか。

 

誰の参考になるかわからないけど、私の場合はこんな感じです。気力と体力が続く限り頑張りたいと思います。
そのうち劇場周りのおいしいお店とかみんなで共有できたらいいな。

*1:安くてもトラブル防止のため、評価が悪いサイトや日本語対応していないサイトからは買わないようにしている。

*2:サーチャージの見直しは基本2か月ごと。偶数月に変更される場合が多いので、購入のタイミングが重要。

*3:ソウル市内は漢江を挟んで北を江北、南を江南地区と呼ぶ。

*4:韓国の電話番号は使いまわしなので、直前まで誰かが使ってた番号に当たる場合もあり、前の持ち主宛の電話やらSMSが頻繁にくる場合もある。私も過去1回だけ当たった。

*5:渡韓民必須アプリ。日本語対応版もあります。

*6:石鍋で出てくるスンドゥブチゲは断られた

ミュージカル『ベートーヴェン』は何を伝えたかったのか

お久しぶりです。前回の記事からあっという間に半年過ぎててびっくりしました。冬の日韓エリザベートミルフィーユ観劇以降、アウトプットが全く追いついていませんが、マイペースで観劇オタクを続けています。

先日、韓国EMKプロダクション制作の『ベートーヴェン』が日本でも上演されるという発表があり、キャストの豪華さにびっくりしました。韓国のキャストもすごかったけど、日本でこれだけ揃うのも珍しいですよね。

www.tohostage.com

日本版はセミレプリカ公演ということなので、韓国版をベースにしつつ、多少改変が加わる感じでしょうか。というわけで、日本版の予習も兼ねて、今回は私が韓国で観てきた『ベートーヴェン』についてご紹介したいと思います。
※極力ネタバレは避けてますが、情報を入れたくない方は回れ右でお願いします。

概要(韓国namuwikiより)

ドイツの作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの一生を描いた、韓国EMKミュージカルカンパニーの5作目*1の創作ミュージカル。著作権はEMKに所属。
モーツァルト!』や『エリザベート』でおなじみ、劇作家ミヒャエル・クンツェと作曲家シルベスタ・リーヴァイコンビによる作品。クンツェとリーヴァイがこの作品を企画した際、7カ国の製作会社が立候補したが、EMKミュージカルカンパニーが最も適したプロダクションとして選ばれた。
制作期間に7年を費やし、企画段階から海外進出を想定して舞台やセット構成などが創作された。初演前から多くの海外製作会社からの反応があり、プレビュー期間中、世界中のプロダクションが訪問した。
フランケンシュタイン』『ベンハー』『英雄本色』などを演出して人気を博した演出家ワン・ヨンボムと、主にオーストリアやドイツなどで活躍する演出家ギルバート・メマートによる共同演出。音楽監督はキム・ムンジョン。
2023年1月12日から3月26日までソウル芸術の殿堂オペラ劇場で上演後、楽曲を多少改変し、シーズン2と題して4月14日から5月15日までソウル世宗文化会館大劇場で上演された。全編がベートーヴェンの楽曲をベースにした音楽で構成されている。

初演とシーズン2のポスター

予告映像


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あらすじ

「不滅の音楽、不滅の愛」
19世紀オーストリア・ウィーン。
音楽の都市において当代最高のピアニストであり作曲家として名声を博していたベートーヴェンだが、幼い頃から父の暴力と虐待の中で育ち、愛や人を信じられないまま孤独に生きていた。彼が作った音楽は喝采を浴びて評価される一方、本人には冷たい視線と冷笑がつきまとう。
ある日、ベートーヴェンは自分に無礼を働いた貴族たちに謝罪させようとキンスキー君主を訪ねた際、偶然アントニー・ブレンターノに出会う。愛を信じないベートーヴェンと、一度も愛を感じたことがないトニーは、互いに好感を持つようになる。
ベートーヴェンは聴力を喪失する不治の病の診断を受けて絶望に陥るが、トニーと互いに心の傷を伝え、慰めあううちに、嵐のような恋愛関係におちていくことになる。
しかし彼らの秘密の関係は世間に暴かれることとなり、トニーは自分の家族が傷つくのを恐れてベートーヴェンとの出会いを拒否することになる。
愛するトニーを失ったベートーヴェンはついに聴力を喪失し、人生が暗い影に飲み込まれていくのだが・・・

 

登場人物

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
42歳。当代最高のピアニストで有名な芸術家。厳格な性格で自分の名誉を重要視し、慣習を強要されることを容認しない。誰かに愛されることを想像すらできず、頑固で激しい態度に自身の臆病さを隠し、ただ芸術的才能だけに頼って生きている。聴覚を喪失して絶望に陥り、人生の危機を迎える。

アントニー・ブレンターノ(トニー)
32歳。芸術を愛し、エレガントで魅力あふれる女性。フランクフルトに住む15歳年上の銀行家・フランツと、17歳で政略結婚し、4人の子を儲ける。貴族である父の遺産を整理するためウィーンに滞在。本当の愛を経験したことのない自分の人生に虚しさを覚えていたが、ベートーヴェンとの出会いにより、心が癒されていくことを感じる。偉大な芸術家ではなく、人間ベートーヴェンの内面の傷と孤独に深く共感し、彼を通して真実の愛とは何かを悟るようになる。

・ベティーナ・ブレンターノ
自然を愛し、詩を書くのが大好きな女性。幼い頃、ドイツの詩人ゲーテに送った手紙で有名になった彼女は、詩人になるというロマンチックな夢を持っている。フランツの妹でありトニーの義理の妹。トニーを訪ねてウィーンに滞在し、トニーがベートーヴェンと恋に落ちるのを見守り、その熱病のような愛に理解を示すが、フランツとの結婚生活が壊れることを懸念し、トニーを裏切って兄にすべてを打ち明ける。

・フランツ・ブレンターノ
47歳。トニーの夫であり、成功した銀行家。人生の優先順位は家族よりもお金。トニーとの結婚も成功のためにしたものであり、契約として割り切っている。トニーの父の遺産を独占しようと目論んでいる。妻に無関心であり、新しい仕事の話が来ると、トニーとオペラに行く約束を破棄する。常にトニーを服従させ、彼女の芸術性は認めず、役に立たないものと考えている。

・カスパー・ヴァン・ベートーヴェン
36歳。ベートーヴェンの弟。芸術家である兄を献身的に支える。素直で純粋な性格で、天才的な兄の才能を尊敬し愛している。ヨハンナと恋に落ちるが、ベートーヴェンは彼女の評判が悪いと反対する。兄に対する愛情を持ちながら、ヨハンナへの愛を貫くため兄に逆らうことを決心し、兄弟は別々の道を歩むこととなる。

・パプティスト・ピジョック
35歳。欲望に溢れた弁護士。どんな対価を払ってでも勝者となることを望む。良心の呵責を感じず、自分の才能を使って強者を説得し、弱者を冷酷に脅す。

・フェルナンド・キンスキー君主
多くの財産と富を有する40代半ばの貴族。芸術を愛する温厚な性格で、高度な教育を受け、音楽に対する造詣も深い。楽器を演奏する実力も備えており、芸術を広く世に普及させようとする献身的な精神の持ち主。彼のパーティーには著名な貴族たちが招待される。財産管理は他人に任せている。

・ヨハンナ・ライス(ヨハンナ・ヴァン・ベートーヴェン
29歳。ウィーンの工芸家の娘で、様々な男と噂を流し,、父の金を盗んで逃げたという噂があるなど、きな臭いところがある女性。飛び降りて人生を終えようとしていたところ、偶然通りかかったカスパーに引き留められて一命をとりとめる。 その後、ヨハンナに一目惚れしたカスパーと結婚を約束する。

・音楽の精霊
ベートーヴェンの内面に存在する音楽が擬人化された精霊。叙情的でドラマチックなベートーヴェンの音楽を踊りで表現する。メロディックス、ハーモニー、フォルテ、アレグロ、アンダンテ、ピアノの6人の精霊で構成されている。


韓国キャスト紹介(個人的視点)

ベートーヴェン(左上から時計回りに)

・パク・ヒョシン
別名・ヒョ神様。どんなに大きな会場でも一瞬で雪原状態*2にする人気と実力の持ち主。EMKの切り札。笑う男に続く登板。高音で独特な細かいビブラートと圧倒的な音圧で、どの作品を観ても「ああ、ヒョ神だな」という満足感を得られる。ミュージカル出演多数だが本業は歌手で、中島美嘉の「雪の華」のカバーでも有名。

・パク・ウンテ
どの作品のどんな役でも母性と神々しさがにじみ出てしまう、韓ミュ界のマリア様。彼が流す涙の美しさは世界一。音圧で押すタイプではないが、広がりのある高音と包み込むような優しい声色、時には鋭いシャウトや威圧的な低音など、多彩な表現ができる実力の持ち主。

・KAI
声楽出身の正統派。美しく伸びのあるバリトンボイスで、クラシックを歌わせたら世界一。ストイックで真面目な性格で、それが役でも随所に感じられる。日本が大好きで愛読書はベルばらとの噂。EMK所属。

トニー(左から)

・チョ・ジョンウン
情緒的で湿度のある声と雰囲気で、愁いを秘めた役をさせたら世界一。別名天女様。

・オク・ジュヒョン
別名・女帝。どこまでも地声で歌い上げる音圧オバケ。大体会場の屋根が飛ぶ。元アイドル。

・ユン・ゴンジュ
力強くソウルフルな歌声と切れのあるダンスが持ち味だが、今回は残念ながら踊らない。

カスパー(左から)

・イ・ヘジュン
雰囲気があるルックスと抜群のスタイル、美しい低音ボイスの持ち主。大学路で人気を博し、EMKに移籍後はエリザベートのトートに抜擢されるなど、大劇場でも活躍の場を広げている。
・ユン・ソホ
アイドル並みのルックスと卓越した演技力で、大学路から大劇場まで幅広く活躍。

・キム・ジヌク
エクスカリバーで学生アンサンブルとして初舞台を踏んだ後、大学路で活躍。本作でEMKオリジナル作品に再登場。

作品のポイント&感想

※最初にお断りしておきますが、私が観たのは初演のほうで、シーズン2は観ておりません。ただ、多少楽曲に変更があった程度で、大筋は初演と変わっていないようです。

EMKが契約を取った直後から、ずっと「ベートーヴェンをクン&リーでやるよ!」って煽ってて、何かにつけて宣伝し、コロナ禍もあってようやく初演を迎えた本作。豪華キャスト陣を揃え、ミュージカル好きの期待をロッテタワー*3より高くしまくっていたのですが、プレビューから驚くほどの酷評の嵐。

煽っていたころのクン&リー写真。イメージロゴが今とだいぶ違う。

まあ、でも、ね?この目で見るまでは分からないし、まだプレビューだし、ね?という気持ちで、恐る恐る足を踏み入れました。

お馴染み殿堂の垂幕とフォトスポット。ピアノは演奏自由。

ベートーヴェンという題名からして、天才の苦悩と葛藤の物語なのかと思いきや、中心にあるのはトニーとの恋物語モーツァルト!との違いを出そうとしたのかもしれないけど、だったらこれ、ベートーヴェンを題材にした意味はあるの?
トニーの夫やら子供たちやら義理の妹やら悪徳弁護士やら、グランドミュージカルらしく登場人物も多いけど、要素が多くて散漫だし、大劇場のスケール感を全く活かせてない。残念ながら印象に残ったのはキャストの熱演と歌声だけ。

とにかくベートーヴェンの曲を使うことに終始している感じで、キリングナンバーが少ない割に、必要性が感じられないサブキャストのソロ曲(夫とか弁護士のやたら長いソロ)が多く、歌詞も説明調で余韻が無い。
グランドピアノを中心に添えたセットやカレル橋の造形は目を引くものがあったけど、舞台セットはあくまでストーリーへの没入感を高める背景に過ぎないと実感。どんなに豪華でも、物語がなければただの装置に過ぎません。楽譜が舞う中、ベートーヴェンがピアノの上に立って歌い上げたり、オケピに降りて指揮したり、その辺の演出はさすが韓国ミュって感じではあったけど、覚えてるのそれくらい。

あとね、カスパーの出番少なすぎる。シンプルに足りない。人気実力俳優を3人も揃えたのに、これぞ究極の無駄遣い。1幕途中でヨハンナとの結婚を反対されてベートーヴェンと決別した後、2幕後半まで出番なし。サブキャラの夫と弁護士と義妹のほうが出番多い。日本版では出番増やしてくれないと、オタクが暴れるよ?
音楽の精霊の存在も謎で、ベートーヴェンの内なる音楽を擬人化したもの、といいつつ、ベートーヴェンの心が動くシーンでの登場はなく、数少ない作曲シーンで急に表れて踊り狂う。(やたら上手い。)モーツァルト!のアマデ的な存在にしたかったのかもしれないけど、そもそも本作はベートーヴェンを芸術家として描いているわけではないので不要だったのでは。

音楽の精霊とベートーヴェン

厳しいこと言ってますが、ちゃんと3ベートーヴェン3トニー3カスパーともコンプリートした上での感想なので、お許しください。3階席でもチケット1万円以上するんだぜ・・・。
期待値が高かっただけに非常に残念な虚無作品ではあったのですが、主要キャスト陣の熱演はすごかった。いつもなら即完売のはずなのに、チケットの売れ行きも悪く、ご本人たちも相当きつかっただろうけど、彼らのおかげでシーズン2まで何とか乗り切れたと思う。

ヒョ神ベトベンは常に猫背で近寄りがたい偏屈さがありつつも、愛に目覚めた後は純粋さも垣間見えて、愛に飢えた孤独な芸術家がピッタリはまってた。彼が歌えば全てがキリングナンバーと化すため、毎曲ショーストップ。今回もヒョ神観たなあ、という満足感で満たされましたありがとう。
KAIベトベンは中の人のストイックさを上手く生かしつつ、芸術家らしい繊細さも感じさせるベトベン。3人の中で役柄的には一番合ってたと思う。何より、ベートーヴェンの曲+KAIニムの声楽=極上の調べ!耳が溶けそうなくらい幸せで、たぶん私の耳レベルが10くらい上がったありがとう。
そしてウントベン。3キャスト中最後に観たのですが、初めてベートーヴェンが哀れで泣きました。偏屈さゼロの、優しくて包容力あるベートーヴェン。幸せになれる道はあったはずなのに、優しすぎて全てを諦めたウントベン。物語の本筋すら変えてしまう役者の力に圧倒されましたありがとう。

トニーについてはジョンウン天女の一人勝ち。上品で控えめでありつつ、内に秘めた情熱が感じられるジョンウントニー。ドラキュラのミナといい、本当にこういう役やらせたら右に出る役者さんはいない。酷評の中でもウンテさん×ジョンウンさん回の評判は良く、二人の愛を主軸にしたストーリーラインを、最もうまく表現できたペアだったと思います。
女帝トニーは一人で突っ走って生きていけそうだったし、ゴンジュトニーも夫より明らかに強そうだったので、役としてはもったいなかったかな・・・

楽曲については、前述のとおり無理やりシーンにベートーヴェンの曲を当てはめてる感じでイマイチしっくりこなかったのですが、その中でもうまくはまってると思ったのが” 너의 운명 (It's In Your Heart;ピアノソナタ第26番『告別』より)” と"사랑은 잔인해 (LOVE IS CRUEL;ピアノソナタ8番『悲壮』より) "
相当実力ある人じゃないと歌いこなせないと思うけど、3キャストともそれぞれの個性を生かしつつ素晴らしい歌い上げでした。

ウントベンの"It's In Your Heart"1幕ラストver. 終盤に向けて感情高めていくのはさすが。

youtu.be

KAIトベンの"LOVE IS CRUEL"耳が溶けないように注意。

youtu.be


というわけで内容は虚無ったものの、キャストの熱演が光った韓国版ベートーヴェン。オリジナル作品なので、これから再編を重ねてどんどん良くなっていくことに期待します。日本版でのブラッシュアップを切に期待。

EMKにしては大変珍しく全編のハイライト映像がありますので、興味があるかたはどうぞ。日本のオタクたちが気にしている兄弟デュエットは14:05~、26:11~、29:10~

www.youtube.com

 

おまけ

キャストボード

芸術の殿堂お馴染みの人柱

 

*1:あと4作品はマタハリ、笑う男、エクスカリバー、フリーダ

*2:韓国のチケットサイトは座席表から席を選んで購入する方式で、完売だと座席表が真っ白になることから、雪原と表現する。

*3:韓国一の超高層ビル。地上555m。ジュンスが住んでいることでも有名。