衝動と情熱だけで生きている

主に観劇の記録。

モーツァルト!と私

まさか、「モーツァルト!と私」が書ける日がくるなんて。
3キャスト配信、本当にありがとうございました。もちろん6公演購入して自宅マチソワしました。(残念ながら最終日は同時配信だったのでウンテ様を選択しましたが)

今まで韓国ミュを観たことがなかった人も、興味はあっても韓国まで行けなかった人も、特定キャストしか観たことなかった人も、たくさんの人が3人の公演を観て心を動かされている様をSNSで拝見し、withコロナ時代も悪いことばっかりじゃないなと感慨に浸っておりました。

本国の千秋楽に合わせてジュンス回の再配信も決まったようで、この盛り上がりが今後に繋がって、もっとたくさんの作品が観られるといいなと願ってます。

さて、久しぶりに満足のいくインプットができたので、冷めないうちにアウトプットを。

キャスト別感想、いきます!

パク・ガンヒョン(ガンチャルト)
~優等生、盗んだバイクで走り出す~

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モーツァルト!」のヴォルフガングって、若さと勢いで演じることに価値がある役柄だと思うんです。もちろん、技術があっての話ですが、粗削りなところに魅力が出る、数少ない役柄。
ガンチャルトは、まさに若さと勢いの煌めきが感じられるヴォルフガング。
若さゆえの傲慢さと爆発寸前のエネルギーを、きれいな光に変えて舞台で発散している、そんな印象を受けました。

幼いころから天才ともてはやされながら、本人にその自覚はなく、何も考えてなさそう。特にやりたいこともなく、親に言われるままに従い、それを嫌がるそぶりもない。家族を支えている自覚もなく、ただ毎日が楽しければそれでいい、そんなフワフワした雰囲気。純粋で危うさすら感じる「♪僕こそ音楽」、心が洗われるようでした。

そんなガンチャルトが、母の死を機に少しずつ自我に目覚めていく姿は、天才ではない、一人の苦悩する若者。このままの自分でいいのか、自分の存在意義は何なのか。男爵夫人が語る物語を聞いて、新しい世界への希望に目を輝かせるガンチャルト。「♪影を逃れて」からは、才能(=アマデ)に振り回されて生きるのはもううんざりだ、自分の決めた道を歩くんだという強い決意を感じました。
過保護な親と喧嘩して、無一文で実家を飛び出す、世間知らずの若者そのもの。

2幕からは自分の才能を操り、成功を収めていくガンチャルト。自分の力で生きていけるという自信に溢れ、輝きに満ちているのに、ふとしたときに感じる影。
光に当たればあたるほどその影は強くなって、次第に影をコントロールできなくなり、影に支配されてしまう。
苦しみの中で、自分には父の支えが必要だったと気づいたけど、時すでに遅し。父にも見放され、破滅への道を進んでいく。若さと傲慢さが招いた破滅だなと思いました。

天才としてではない、一人の若者としてのモーツァルトを生きたガンヒョンさん。盗んだバイクで走り出しそうな、鬱屈とした若者のエネルギーがあって、でもどこか上品で。煌めきの中にある闇のバランスが、本当に素晴らしかったです。

今回は一番の若手だったけど、次に上演されるときは、彼が中心になっていることでしょう。これからますます活躍が期待されるガンヒョンさん。彼の初演M!を観られたことは、大変貴重な機会になると思います。観られた私たち、本当に幸せですね!
でもね、もう一回観たかったよ!なんで同時上演にしたの!!もう一回みたら、もっとたくさん気づくところがあったはず。無念です。

 

キム・ジュンス(シャチャルト)
~音楽に生かされ、音楽に囚われた天才~

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天真爛漫で人を疑うことを知らない、まさに天から遣わされた音楽の天使。音楽の才能は天才的だけど、それ以外のことは何にもできない。NO MUSIC,NO LIFE.それがシャチャルト。
彼の人生とオーバーラップするところも大きく、ジュンスが演じるヴォルフガングは格別。観ていただいた方には伝わったのではないでしょうか。私の中ではシャチャルトはヴォルフガングそのものです。

とはいえ10年ぶりに演じる作品、あの当時の全身から発光するようなパワーや無邪気さはもう無いだろうな、と思ってたら、またも裏切られました。

「うわぁぁあ、プレストヴィバーチェ!!」って、赤いコートを抱きしめて飛び出してきた、喜びを抑えきれない坊や(34)。目をキラキラさせながら、音楽への愛と歓びを歌う「♪僕こそ音楽」。え、天使・・・?天使なの?
アマデとも仲良しなシャチャルト。いつも楽しそうにキャッキャしながら曲を作ってる。彼にとって作曲は遊びと同じなんでしょうね。
いつまでも幸せが続くと信じて疑わなかったシャチャルトの人生に、母の死でふと影が差す。世界はいつも通りなのに、自分の周りだけが突如闇に包まれた瞬間。アマデを突き放し、母を抱きしめながら歌う「♪残酷な人生」。これまでと真逆の絶望に包まれた歌声の後ろで、鬼気迫る勢いで曲を描き始めるアマデ。味わったことのない悲しみを味わった瞬間、新しいメロディが降り注いでくる、母の死が創作の源になるという、まさに天才の苦しみを表現したシーンだと思います。
ところでこのシーン、死に際のお母さんを前に、アマデに駆け寄りながら「うわぁぁあ、ほら、新しいセレナーデができたんだ!これが売れたらまた幸せに暮らせるよ!」って無邪気に語り掛けるところがあったんだけど、これって赤いコートの冒頭との対比だよね?あー、こういう緻密な演技するんだったよね、この人(急所を突かれたオタクの顔文字)。

シカネーダやコンスタンツェたちとの新しい出会いで、新しい世界を知るシャチャルト。男爵夫人に背中を押されて、好奇心が爆発。お父さん、一緒に行こうよ!って目を輝かせて誘うのに、それを許さないレオポルト。好奇心が勝り、一人での旅立ちを決意します。シャチャルトには、お父さんへの反発を全く感じないんですよね。家族大好きっ子って感じ。
これまではお父さんの言う通りにしていればよかったけど、これからは自分で考えて生きていかなければいけない。「♪影を逃れて」で、アマデに、行け!と指をさすシーン。仲良しだった友達から、主従関係に変わったヴォルフとアマデ。悲劇の始まり。

2幕。才能を操り、成功を収めていくシャチャルト。でも、昔みたいな無邪気さはない。外の世界に触れ、汚れて、翼をもがれていく天使。でも、それに気づかずに必死に羽ばたくから、だんだん弱っていく。
世間知らずで、人に騙され、傷つき、大好きなお父さんからも見放されてしまう。でもその理由がわからないシャチャルト。「♪なぜ愛さないの」で、才能さえなければ、お父さんに愛してもらえたの?と泣きながら訴えるけど、お父さんが愛したのは君自身じゃなくて、君の才能なんだよ…辛いよ…

父の訃報を受け、絶望して狂っていくシーン。「悪魔!悪魔!!」と頭を抱えて泣き叫び、黄金星を歌う男爵夫人を恐怖の目で凝視しながら逃げていく。もう誰も信じられなくなったんだろうな。
そして、コンスタンツェに最後通告を告げられる中、アマデにアイデアを注ぎ込み「魔笛」を描きあげる。狂いながらも天から降りてくる美しい旋律。天才の苦しみってこういうことなのね。
自分の血を捧げてレクイエムを描くラストシーン。もう起き上がる力すらなく、アマデにペンを突き刺されても、弱々しく「やめて」というだけ。心臓にペンを突き刺そうとするアマデを、うんうん、と笑顔で迎え入れて、抱きしめるシャチャルト。最期に仲良しに戻れたのかな、と思わせる演技でした。
エンディングの父と子の抱擁、色んな見方ができると思うんですが、私の場合、シャチャルトver.は「レオポルトが抱きしめたのはアマデ(=才能)」と受け止めてしまい、死してなお愛されなかった哀れな子供という、どうしようもなく救いのない物語になってしまいました。天才が故、普通の愛が許されなかったんだなあと。
この点、ジュンス本人はインタビューで、受け止め方は人それぞれだが、抱きしめられたのは子供時代のヴォルフガングであり、幸せな結末だと思いたいと言ってました*1

観る人によって異なるエンディングになる作品、モーツァルト!ってこんな作品でしたっけ…?
「10年の間に技術は上達したが、M!では技術に逃げたくなかった。可愛らしく『プレストヴィバーチェ!』と叫べるかが心配だった」と語っていたジュンス。初演と変わらないどころか、昔は歌いあげていたところを優しく語り掛けるように歌ってたり、悲しみの表現に磨きがかかってたり、進化したところがたくさんあって、努力する天才ってジュンスのことだなあと思わされた舞台でした。

 

 パク・ウンテ(ウンチャルト)
~狂気の侘び~

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韓国モーツァルト!10周年公演、レジェンドが再び登板。
年齢的にきっと最後となるであろう今回の公演。観られたことに本当に感謝です。
他のキャストより年齢を重ねたウンテさんにしか表現できない、侘しさに満ちた哀しみの世界。最後に観たので、いまだに立ち直れずにいます。辛い。

ウンチャルトは聡明で品行方正(にしか見えない)。天から与えられた才能に感謝しつつ、その才能で家族を支えている自負と責任感を感じます。靴紐もイアンノットで結べるので、そう簡単には解けません。

プライドが高く、自分が正しいと信じて疑わなかったウンチャルト。母の死を機に、迷いが生じます。男爵夫人に導かれ、きちんと考えたうえで旅立ちを決意。これまで共に歩んできた父と、初めて意見を違えます。
父から離れることを決意したとき、はっと気づくウンチャルト。今までは父の導きがあった。でもこれからは?自分の才能を使って、正しい道を一人で生きていかなければ。自問自答し、決意表明するような「♪影を逃れて」。前半は呟くように、後半にかけて必殺技の高音シャウトが炸裂。アマデ役のシモク君*2、そんなウンチャルトの決意をあざ笑うかのような態度で強く反発していたのが印象的でした。

2幕。ウィーンで成功し、自分の選択は正しかったと自信を持つウンチャルト。後ろでもの言いたげに見つめているアマデ。この辺りから狂気の予兆を感じる。
で、ウンチャルトで絶対に触れなければならないのが「♪愛していれば分かり合える」。これまで控えめだった、ウンテさんならではのアダルトな雰囲気全開。囁くようにコンスタンツェへの愛を歌い、跪いてプロポーズする姿は「あれ?ここってマディソン郡*3かな??」と思わせるほど。1幕のコンスタンツェとの再会シーンでも、他のキャストは頬にキスなのに、ウンチャルトだけ口にチュッてするんですよね。そういうところ!!好きです!

幸せムードから一転、次第に精神のバランスを崩していくウンチャルト。アマデを操っていたようで、実は内側から喰われていたんだと思う。次々と新しいメロディが降り注ぎ、自我を保てなくなっていく感じ。アイデアを思い浮かべた瞬間に浮かべる、悪魔に憑りつかれたような笑顔。高潔な人が壊れていく姿って、怖い。
父から見放された理由を理解できないウンチャルト。こんなに支え合ってきたのに、なぜ理解してくれないのか。「♪なぜ愛さないの」では、辛うじて細い糸で支えられてきたウンチャルトの自我が、プツンと切れてしまったのを感じました。
以降、一気に崩れていく様は、まさに狂気。泣き叫ぶわけでもなく、ただひたすら静かに、哀しく、孤独になっていく姿。レオポルトの訃報を受けて、子供の頃からの出来事がフラッシュバックし、階段を上りながら「やめろ!やめろ!!」と涙を流し、うずくまった後。燦々と輝く男爵夫人の歌声を浴びたウンチャルトは、すっと立ち上がり、悪魔の笑顔を湛えて、頭からアイデアを取り出しながら去っていきます。
劇中、一番ゾッとした瞬間。ウンチャルト、完全に壊れた… 

狂いながら描き上げる「魔笛」。コンスタンツェの声も全く届きません。

最後のシーンでは、ウンチャルトだけ他のキャストとセリフが違いました。
他のキャストは「心臓を刺せばよかった。でもそうしたらお前も死ぬ」とアマデに言うところを、「まだ心臓に血が残っていた」と心臓を取り出し、アマデに渡す仕草をするウンチャルト。そっとアマデを抱きしめたまま迎えた最期の枯れ姿。
激しさがないだけに、じわじわ沁みてくる侘しさ。うわ、これ知ってる、しばらく辛いやつ。1週間経った今でもまだ辛いです*4

ちょうど配信日に出演最終回を迎えたウンテさん。まもなく次回作のキンキーブーツが始まります。侘びの世界から飛び出して、世界中にハッピーを撒き散らしていただきたい。ダンスがんばって!!!*5

 

以上、主演3キャストの感想でした!最後まで読んでくださってありがとうございました!!改めて今回配信に関わっていただいた関係各位に、心からの感謝を!

 

*1:出典はこちら

*2:今回の3人のアマデ役の中で、一番年長でキャリアも長い。これまでエリザベートのルドルフ子役、笑う男のグウィンブレン子役などを演じています。

*3:ウンテさん主演の「マディソン郡の橋」より。会場内がむせ返るようなフェロモンに包まれた。

*4:人生で一番辛かったのはフランケンシュタインのドンソクビクター&チサンアンリのペアマク回。2年経とうとしてるのに未だに傷が癒えません。

*5:韓国ミュージカル界でのウンテさんの別名・木彫り人形。固くぎこちないダンスが有名w